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「そうか・・・それは、凄いな。
羨ましい。」
近藤副社長がそんなコメントをして、私は笑いを堪えるのが大変になる。
「ミルクも飲ませましたし、オムツまで替えましたからね、俺の場合は。
幼なじみの域ではなく“家族”の感覚です。」
「“家族”だから、柳川さんがいないとダメだった?」
「そういう単純な話でもないのですが・・・。
なんといいますか、とにかくずっと傍にいてもらわないとダメですね。」
「・・・説明諦めてるじゃん!」
「何て説明したらいいか分からないんだよ!」
「口上手いんだから、出来るでしょ!」
「これは複雑過ぎて、頭の悪い俺には紐解けない!」
ラスボスがそう言って、ローテーブルに置いた資料をまた手に取った。
そして、副社長を見た。
「文字は元々読めます。
ですが、正確には、しっかり読むことも出来るようになりました。
レベル上げを二葉にしてもらったので。」
「レベル上げ?」
「はい、ゲームのレベル上げです。
それを、俺が文字を読むというスキルにもしてもらいました。
文字を読んで、そして書くというスキル。
俺にはそのスキルのレベルが、“いち”くらいしかなかったので。」
ラスボスが喋りながら、片手をスーツのポケットに入れた。
そして、取り出した・・・。
手に持っているのは、耳栓。
「音が静かであれば、今ではしっかり文字も読めますし書けます。
大学受験や試験の時に周りの書く音がしますが、それは音楽のように捉えました。」
「社長さんは、対人能力より“耳”か。」
「はい。それも二葉がレベル上げをしてくれました。
俺だけでは・・・俺達だけでは、ここまで使いこなすようになるのは不可能でした。」
ラスボスが耳栓を片方した。
「資料、拝見します。
こちら、記入してもよろしいですか?」
近藤副社長が頷き、ラスボスが耳栓をもう1つした。
ラスボスというか・・・仁が、耳栓をしながら資料を読んでいく。
たまに手に持ったボールペンで丸を書いているのが確認出来た。
「どうやって、読んだり書くスキルを上げたんだ?」
「文字で会話をしただけです。
耳栓をさせて、クマの顔がボールペンの上についている物で、文字で会話をしました。」
「それだけ・・・?」
「教科書の1文1文を、私が喋り口調で書いて。
その返事を仁が“うん”とか“そうなんだ”とか書いただけですけど。
でも、私の書いた文は覚えられます。
ただ・・・」
言葉を切って、資料に丸を書いていく仁を見る。
その丸の中にあるのは、数字。
「数字だけは、覚えられませんでした。
その場で頭の中に一瞬入るみたいなんですけど、数秒後には消えてしまうようです。」
「数字は、お兄様の方か。」
「そこまで調べていますか・・・。」
「お兄様、御社の社外取締役のようだが。
実際、何かをしている?
御社が7年でここまで業績が上がっているのと関係しているのか?」
「それは、私からは何とも。
“社長”だけでもなく、他の役員とも・・・恐らく検討する物ですので。」
「御社の役員の方達も、有名や弁護士、会計士、社労士の先生達だったな。
みんなそれぞれ事務所は持っているようだが。」
そう言われ、仁の横顔を見ながら笑った。
「はい。仁のパーティーのメンバーです。」
「“パーティー”か・・・。
君は面白いな。
勉が欲しがった意味が分かる。」
近藤副社長が笑いながら、私を見た。
「四宮社長が耳栓をしているうちに、君から何かあるか?」
「あります!!!」
すぐに答え、さっきからずっと聞いてみたかったことを聞く。
「あの・・・個人的な話で!!」
「俺も散々聞いたから、気にするな。」
「・・・下の話なんですけど。」
言ってみたら、近藤副社長が驚き・・・普通に笑った。
なので、ポケットからメモ帳を取り出しページを開く。
そのメモ帳とボールペンを近藤副社長に渡し、お願いをする。
「そこに、攻略法の追加をお願い出来ませんか!?」
近藤副社長が普通に笑いながら、そのメモ帳の中身を読んでいき・・・
資料を読み続けているラスボスの方をジッと見た。
それから、何かを追加で書いてくれた。
そのメモ帳を閉じ、普通に笑ったまま私に返してくれる。
「ありがとうございます!!!」
そのメモ帳を両手で受け取り、頭を何度も下げた。
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