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そして、月曜日・・・




午前中に婚姻届を提出し、社内にボスと私の結婚報告をして、社内を騒然とさせた・・・。





「柳川・・・あ、名字変わったのか!」




「社内でもお客さん先でも、柳川のままにします!

今の時代、そういう人多いですし。

それに、ボスと結婚とか全然実感ないですね!!」





隣の席の先輩に笑いながら話す。





「実感ないって、内緒で付き合ってたんだろ?」




「そんなあり得ないことするわけないじゃないですか、ボスが。」




「それはそうだな・・・。

え、いつ付き合ってたんだ?」




「付き合わないまま、結婚しました。

お互い恋愛苦手ですし、お互い好きだったんで。」





そう答えると、先輩が驚いた顔をして・・・






「まあ・・・社長と柳川だし、そんなパターンもあり得るのか・・・。」






無理矢理納得しようといている先輩に笑いながら、営業前にランチに行こうと立ち上がる。






そして、お財布を片手に、社内を歩いていると・・・






「柳川ちゃん!ランチ行くよ!」






女の先輩や同期や後輩が、廊下で待ち構えている。

それに苦笑いをしながら、女の先輩に手を引かれながら歩き出した。






「で?社長と付き合ってたの?」




近所にあるイタリアンのお店、そこで数人の女子社員に囲まれ・・・苦笑いを続けながらパスタを食べる。




「付き合ってないんですけど、結婚したのです・・・。」




「・・・待って、その答えは考えてなかった。

誰か、ヒヤリングシート!」





女の先輩がそう言うと、後輩の女の子が素早くヒヤリングシートを取り出した。





「社長のこと、好きだったの?」




「好きでしたね。」




「そうだよね、そんな感じした。

他の男性社員とも仲良いけど、特に仲良かったし。

社長も柳川ちゃんのこと好きだったってこと?」




「そうなんですかね?

“嫌いじゃないだろ?”って言われたので、“好き”って答えたら“俺も俺も!”って。」




「軽っ!!社長、軽っ!!

そんなんで結婚したの!?

35歳の男と28歳の女が!?」




先輩が驚きながら、怒りながら・・・でも、笑い出した。




「でも、社長だしね。

それに社長、柳川ちゃんと喋ってる時は楽しそうだしね~。

2人で喋ると煩いし止まらないし。」




「社長は煩いですけど、私は普通ですよ?」




「柳川ちゃん、また女の敵作るね。

うちらは社内恋愛してない派だから柳川ちゃん好きだけど、これまで社内恋愛引っ掻き回して恨まれてるから。

それで最終的に社長と結婚とか・・・。」




先輩にそんな怖いことを言われ、口からパスタをダラーンと垂らしたままの状態で、顔を上げる。




私は、恋愛がとにかく苦手で。

それは、私自身が恋愛するのも苦手だし、他の人達の恋愛についても関わるのが苦手で。




うちの会社は社内恋愛も結構あって、仲の良い人からその情報も聞いている。




でも・・・




「柳川ちゃん、距離近いからね~。

男にも女にも勘違いされてばっかりだから。

社内恋愛のカップル、何組を破局させたことか。」




先輩の言う通りで、私は人との距離の取り方が1つしかない。

“ガンガン近付く”しか、ない。

それで仲良くなれる。

でも、社内恋愛しているカップルからすると、それではいけないらしい。




「柳川ちゃん可愛いから、女側からすると焦るんだよね。

身長も163だっけ?で、丁度いいし・・・

髪の毛は栗色でフワフワ、良い感じのパーマみたいだし、

色白で大きな目、小ぶりだけど高さもある鼻と何も塗ってないのに赤い唇でしょ?」




「そんなこと、説明されても~・・・」




「柔らかそうな頬っぺたで、社長によく掴まれてたね、そういえば。

それに、細いのに出てる所は出てるし・・・。

こういう女だと、あんな良い男掴まえられるわけか~。」




「ボス、良い男ですか?

セフレがいるような男、良い男なんですかね?」




パスタを食べながら、先輩に聞く。




「社長、そんな子いるの?」




「ノリの良い子で、身体の具合の良い子限定で、セフレにしてるらしいですよ。」




「それは驚き。

基本的に誰とでも仲良いけど、そんな弱味にもなるようなの作るんだ。

社長が弱味握らせるタイプだとは、驚き。」




それを言われると、私も疑問が浮かんだ。

浮かんだけど・・・




「ボスは口が上手いから、上手いこと言ってるんじゃないですか?」




「そう?社長が?あの、社長が?」





先輩がそう言った時・・・





「社長!お疲れ様です!!」





端に座っていた同期が声を上げた。

見てみると・・・ボスが、現れた。





「おい!麺!口から出てるぞ!!」





ボスが大きな声で大笑いしながら、私に言った。

口からダラーンと垂れていたパスタをすすり・・・ボスを見る。





浅黒い肌に、キリッとした二重瞼の目、

真っ黒の髪の毛は短めで、お洒落にセットされている。

高い身長に、ワイシャツからも分かる筋肉隆々の身体。





一見強そうなんだけど・・・





笑うと、爽やか。





そんな笑顔で私に笑いながら、紙を1枚渡してきた。





「なんですか?」




渡された紙を見てみると、性病検査の結果が書かれた紙だった。





「友達の病院で、ソッコーでやってきた!」




「潜伏期間とか大丈夫なんですか?」




「しばらくしてねーから、そこもクリア出来てる!!」





ボスがそう言いながら、私を見詰める。





そして・・・





「今日は、なるべく早く帰るぞ!

二葉(ふたば)!!」





と・・・。






私の名前を、呼んだ・・・。







「付き合ってないって、身体の関係もなかったのね・・・。」




ボスが去った後、性病検査の紙を覗いた先輩に言われ苦笑いをした。




「これから、ちゃんと夫婦になれますかね・・・?」




「仲良いんだし、大丈夫じゃない?」




「仲良くて、婚姻届出して、あとは何があったら夫婦なんですかね?」





先輩は少し考えた後、私の手元を見た。





「指輪は?」




「指輪ですか?」




「結婚指輪、買ったの?」




「買ってないです。」




「あとは結婚指輪をしたら、夫婦になれるんじゃない?」





そう言われ、少し考えてから頷いた。





「確かに、モンスターを倒すと金が手に入りますからね。

ボスを倒して婚姻が手に入ったので、最後はラスボス!!

ラスボスを攻略して、指輪をゲットします!!」





残っていたパスタを飲むように食べた。






「このゲーム、クリアしちゃいます!!」






「また始まった。柳川ちゃんのソレ。」

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