火龍

JSSDF

プロローグ


「君は日本初のジェット戦闘機を知っているかね?」



うだるような暑さの8月、北関東某所の山の中にある屋敷を訪れた私に、老人はそう問うた。


「日本初のジェット戦闘機ですか……海軍の『橘花』だと記憶しています、数は少ないですが海軍や、戦後に『橘花』を接収した米軍の公式資料にも」


そこまで言うと、私の言葉に被せるように老人は「そうだ」と言い、麦茶と氷の入ったコップを口に運んだ。

そして半分ほど飲んだあと


「確かにそうに違いない……だが『アイツ』はたかだか10分やそこら飛んだだけだ」と続け、「しかも最後は滑走路を逸脱して壊れてしまった」と、明らかに『橘花』を小馬鹿にしたような口ぶりだった。


私はそれに反駁しようと口を開けたが、続けざまに発せられた言葉に私はその口を開けたままにせざるをえなかった。


「教えてあげよう、日本初のジェット戦闘機は『橘花』では無い……陸軍の『火龍』だ」


「っ…!」

私は驚きのあまり声を出すことができなかった。


コップに注がれた麦茶の中の氷が『カラン』と音を立て崩れた。


そして、やけに蝉がうるさく鳴いていたのが今でも印象に残っている。





















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