第4話 お姉ちゃんとして
緊張する。緊張する。緊張すr……。
あれから由紀さんは私の返事を待たずにベットに入ってきた。
それからというもの一切会話はなく、ただ私の後ろで寝転がっている。
ついに布団にまで……めっちゃ近いし、いい匂いがしてくるんですが!!
やばいやばいと考えていると由紀さんが話しかけてくる。
「美咲、体温高いね」
「そりゃこんな状況ですからね! てか第一声がそれですか!?」
「なんて言ったらいいかわかんなくて」
「いきなりベット入ってきましたからね!」
ホントに突拍子もなさすぎるわ。
でも3日ぶりに喋れてうれしい自分がいる。解せぬ。
そこからまた沈黙が訪れる。
気まずい……。
なんか、最初会ったときみたいな雰囲気に似てたので、私は笑ってごまかす。
「なんか会ったときが懐かしいですね」
由紀さんもそう思ったのか珍しく乗ってくる。
「最初は、こんなかわいい子と一緒に住むんだって思った」
「私もですよ」
私だって一緒に住む人がこんな美人だとは思わなかったですって。
「だからお姉ちゃんとして頑張ろうって思って……私、友達もできなかったし。でも美咲はそんな私と一緒に居てくれたから」
お、重いの返ってきたな。まあ、でも? そりゃ家族ですから。
……どっちかというと逃げ場所がないほうが正しいかもしれませんが。
「だから、美咲とは仲よくしたいなって思って色々やったんだけど、どうだった?」
「……」
なんてリアクションに困る質問だろう。
微妙な顔にもなっちゃうって。あんな意味わかんないことされまくったんだから。
でも。
「私も振り回されましたけど楽しかったですよ」
やっぱり由紀さんと過ごすのは楽しかったし、何より私と仲良くなりたくてしてくれていたのが嬉しいって思うんだ。
「そう……だったら色々やってよかった」
由紀さんが安心したように言う。実際この気持ちはホントだし。
だけどなんであんなことやったんだ?
「ちなみになんで顎クイとかしてきたんですか?」
「本の知識を参考に」
あぁ、本の知識……道理で意味わかんないことやっているなと思った。
友達との距離感がわからないから、本の知識のものを手当たり次第にやろうと思ったんだな。
……でも待って。そんな風呂に一緒に入るとかする本ってどんな本?
私は由紀さんにいくつか本のタイトルを教えてもらった……んだけど、どれも聞いたことがないものばかりだったので、スマホで検索した。
「ってこれ百合漫画じゃないですか!!!!!!!!!」
私はスマホを由紀さんに突き付けて叫ぶ。
出てきたのは全部百合漫画でかなり際どいものが多い。
過激すぎない!?
漫画の内容につっこめばいいのか、それを私相手にやろうとしてきた由紀さんにつっこめばいいのか私にはもうわかんないよ!
「でも、これとか仲良くなってるよ?」
「そりゃどっちも両思いですからね!!」
前提条件が違いすぎる!
「美咲、私のこと好きって言った」
「それは家族としてですよ!!!」
何を言ってるんだ。何を。
というか私と仲良くなりたいだけなら試さないでよ! 心臓に悪いわ。
由紀さん、不器用すぎない!?
私は信じられないようなものを見るような目で見ても、由紀さんは何が悪いかわからないって顔だ。なんでだよ!
「じゃあ、最近避けていたのは?」
「押し引きが大事って書いてあるから」
「普通に嫌われたかと思いましたわ!!!」
そんな理由で私を避けていたの!?
ここ三日の私の苦悩は何だったんだ……。
由紀さんのほうを恨むように見る。
ほんとなんであんなことしたんだか……。
「なんで、私がやったことをやられて嫌うの?」
「だから……もういいです」
言っても無駄だと思って折れる。ホントに何だったの? この三日間。
「あとは……美咲からなにかしてくるなんて思わなかったからびっくりして」
「びっくりして?」
由紀さんは寝返ってそっぽを向く。
「ちょっと恥ずかしくなっちゃった……」
……。
一応麻衣が言ったことは正しかったらしい。
あの由紀さんを照れさせられたなら、よくやったほうだろう……って全然恥ずかしがっているように見えなかったんだけど、どんだけポーカーフェイスなの?
由紀さんが恥ずかしそうに身をよじる。
「触られたのははじめてだったし。それに押し倒されるなんて思ってなかったから」
「いや……私もすいませんでした」
「謝らなくていいよ。私もびっくりしただけだから」
恥ずかしそうに由紀さんがつぶやく。
なんか弱さを見せる由紀さんが珍しい。
もしかしたらもっと早くこんな関係になっていれば、喋らないなんてことなかったかもしれない。
なんかそう思うと、この関係を作ってくれた由紀さんにお礼を言いたくなった。
「こんな関係になれたのも由紀さんのおかげです」
「……お姉ちゃんとして頑張るって言ったから」
ふいに決意のような言葉が流れた。
そこで私はこれまでのことに納得する。
だからあんなにも「お姉ちゃん」っていうことにこだわっていたのか……。
私が「由紀さん」というと必ず「お姉ちゃん」と由紀さんは訂正していた。
あれは由紀さんなりにお姉ちゃんとして生きるということを自分自身に言い聞かせて、私と姉妹になるために頑張ってくれていたんだ。
そこまでして私のためにやってくれていたんだと気づかされる。
「お姉ちゃん……」
「私は不器用だから。でも美咲とはこれからも仲良くお風呂入ったりしたいなって」
「いや、お風呂は大丈夫です」
由紀さんから「むー」とかが聞こえてくるが、そこは無視だ。
一緒に入ったら緊張するんで。
それは姉妹関係とは別でお願いします。
「でも、嫌われていないようで安心しました」
私は憑き物を落とすように言う。
ホントに安心した……。
私は由紀さんに視線を向けて言うと由紀さんも寝返ってきた。顔、近っ。
「ならないよ。私は美咲のこと好きだから」
その顔はいつもの無表情ではなく、微笑んでいた。
それはめちゃくちゃいい笑顔で、最近見たどんな由紀さんよりもかわいかった。
これからも振り回されることを覚悟しながら私も微笑んだ。
……まあ、さすがにまた風呂入るとかはやめてほしいですけどね。
そんなことを思いながら私は瞳を閉じた。
お義姉ちゃん、近い! 近いって!! @kminato11
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