第2話 相談

「最近の由紀さんはおかしいと思う」

「いや、私知らないんだけど」

 学校に来て早々私はそう言い放った。

 前に席いる麻衣(友達)は苦笑いしながら流される。

 こっちは真剣だってのに!

「確かに私は美咲とは、長く友達やっているよ? でも二年生の由紀先輩のことなんてほとんど知らないし、最近のことなんて知るわけないでしょ」

 麻衣はだるそうに言う。

 まあ、私も言ってないから正しいだけどね。でも、麻衣に説明は嫌だな……絶対いじられるし。

 だったら聞きたいことだけ聞こう。

「ねえ、麻衣。姉妹って一緒にお風呂に入る?」

「入るところは入るんじゃない?」

 え? 入るのか!?

 私は麻衣が言ったことを理解できない。

 由紀さんが言った通り入るのが普通なのか? 私がおかしいのか!?

「まあ、私も姉妹いるわけじゃないから知らないけどさ」

「じゃ、一緒に下着見にいくのも普通? 顎クイされるのは?」

「だから知らないって……てかあんたら何してんの?」

 麻衣があきれた声で返してくる。

 待て。これは私の常識が間違っているのかの大事な大事な確認なんだぞ!

 もう少し親身になってくれよ!

 私がうーんと唸っていると、麻衣が携帯をいじりながらめんどくさそうに言う。

「まあ、あんたらの関係に興味はないけどさ……でもほんとにわからないんだよねー。由紀先輩って」

「なんで?」

「だって由紀先輩と仲良くしている人って聞かないしさ」

「うーん。確かに」

 私も学校で由紀さんを見かけるときは、一人の時が多い。

 ……それに胸を触ったのは私が初めてとか言ってたし。

 友達で触るかどうかは置いといて。

「そんなわけで、由紀先輩のことなんてわからないわけ」

 確かに麻衣の言っていることはもっともだった。

 でも、私も由紀さんに振り回され続けているんだ。

 仕返しとまではいかなくても、どうにかしたい。

 それを麻衣に言うと。


「押し倒しちゃえば?」

「いや、なんでよ!?」

 どれをどうしたらそんな答えが出てくるの!?

 たまに麻衣はにやにやした顔でからかうことを言ってくるが、今回はその中でもひどい。

「だってようは無表情を崩したいってことでしょ? だったらそれぐらいのことはしないと」

 だからといって由紀さんを押し倒すのか? 姉を?

 一回脳内で押し倒してみよう。

 ドンって由紀さんをベットに押し倒す。押し倒された由紀さんは少し赤くなりながら私を見つめる。その目は迷子のようにさまよいながら、不安そうに私のことをチラチラと見てくる。そんな姉に私は顔を近づけると、ぼって音がするように由紀さんの顔が赤くなって――。


 ……ないな。絶対無表情で見てくるだけだな。うん。

「私には由紀さんが照れているところとか想像できないんだけど」

 っていうか由紀さんが恥じらうとかありえるのか……?

 無表情で緊張するとかいうんだぞ。

「だったら尚更、キスでもしちゃえば?」

「もう、相談しない」

 私はチャイム音と共に自分の机に戻る。「ごめんごめん」って謝ってくるけど、もう知らないと無視する。

 その後、由紀さんに何をしようかと考えながら授業を受けたら、何も授業内容が入ってこなかった。


「どうしたの?」

 ――帰って早々、由紀さんを私の部屋に呼び出した。

 学校で何かをしなければと考えた結果、行動に移したのである。

 由紀さんはベットの上から私を見て、少し困惑しているような普段と変わっていないような顔をしている。


 ……。

 そう。結局は麻衣の言った通り、由紀さんを押し倒している。

 あの後色々考えても、私の頭では大したことは考えられなかった……。

 一応脳内でシミュレーションしたから行けるだろうって思ってやったんだけど……なんか背徳感というかなんか罪悪感的なのがすごい…。

 しかもやった瞬間に全部思っていたことが飛んだ。

 だってあの由紀さんを押し倒したんだよ? この後余裕そうに振る舞う予定だったんだけど、私のメンタルではやる前からド緊張だった。ちくしょう。


 え? ヤバい。由紀さんめっちゃ近い。肌きれい……しかもいい匂いがしてくるし、肌もやわらかっ。こんなのヤバいって。マジで理性がやばいって。……てか由紀さんも、もうちょっと抵抗とかしてくれない? このままじゃ襲うぐらいしか私の選択肢ないよ!! しかもそんな見られても私、何したらいい!? 何を期待されているの!? 


 終始パニックだった。

 私から押し倒しているのに私のほうが余裕がなく、いきなり押し倒された由紀さんのほうが余裕がある謎状況になっている。

 なんで押し倒している私のほうが余裕ないんだ! 由紀さんを見てみろ。あの無表情な顔を! なんにも思ってないぞ、多分。

 私があわあわと考えていると不意に柔らかいものに触れた。


 柔らかい感触があるところに目を向けると、姉の胸だった。

 青ざめてくるのが分かる。

 ……でも、この感触めっちゃ気持ちいい。

 そんな変な考えを持って、手を離せずにいると不意に声が聞こえた。

「んっ……」


 …………。

 由紀さんから思わず声が漏れて空気が凍り付く。

 無表情ながら、由紀さんは慌てて口に手を当てる。

 その目は今まで見たことないぐらいに見開かれていて、私はびっくりして手を放す。

「あっ由紀さん。ごめ」

 私の言葉を最後まで聞かずに立ち上がり、そのまま私の部屋から出ていく由紀さんを私はただ茫然と見ることしかできなかった。

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