お義姉ちゃん、近い! 近いって!!

@kminato11

第1話 私のお姉ちゃん

「美咲、どうしたの?」

 無機質な声が私を呼んでくる。

「由紀さん。あの……えっと」

 その声に私の心臓は今にも爆発しそうになっていて、うまく言葉を発すことはできない。

「お姉ちゃん」

「あっはい。お姉ちゃん、あの……」

 由紀さんに訂正されるが、はっきり言ってそんなこと些細な問題に過ぎない。

 もっと別な問題がある。

 視界が湯気で見えにくい中、水が滴る音がする。

「なに?」

 優しく声をかけながら由紀さんが後ろから私の顔を覗き込んでくる。

 もう私は限界と思いながら、全力で叫んだ。

「妹の入浴中に入ってくるのは、いけないと思います!!」


  ***


 お母さんから「女の子一人、明日から住むから」と言われたのが2週間前。

 なんでもお母さんの友達が引っ越すけど、その娘さんは高校にそのまま通わせたいってことで「じゃ、うちの家から通えば?」ってなったらしい。

 私からしたら、「なんでもっと前から言ってくんないの!?」って感じだったんだけど、来るものはしょうがないから、受け入れるしかなかった。

 歳は一つ上ということで、これからお姉ちゃんにあたる人なんだから、ワクワクもしたし、仲良くなれるかなと不安にもなった。

 実際、由紀さんが来た当初は距離感が掴めず、しゃべれなかったり、変に気を使って接してしまった。

 ……そりゃ、いきなり姉ができたらちゃんとなんて喋れない。

 ただ、それも最初だけで、最近は少しずつだけどしゃべることができるようになってきた。


 一緒にご飯を食べたり、一緒に登下校をできるようになったし、何より由紀さんのほうから「これからお姉ちゃんとして頑張るね」とまで言ってもらい、これからは家族として仲良く生活できると思った……んだけど。


 そこからというもの、私は由紀さんに振り回され続けている。

 学年が違うのにクラスにお弁当を持って来たり、一緒に下着を見に行ったり……。始めは気を使ってくれているのかなと思ったこともあったが、顎クイをされたあたりで違うなと思った。

 私はドキドキしっぱなしで、「え、何? キスされんの!?」とか思ったが、別にそんなことなく、何もされないまま解放された。

 ポーカーフェイスでただされたのだ。ほんとに意味がわからない……。

 今日なんてとうとうお風呂に入ってきた。

 扉前でなんかごそごそと音が聞こえていたが、まさか入ってくるとは……。

 いずれは寝室で一緒に寝ようとか言いだしそうだ……。


 私は由紀さんに向かって叫ぶ。

「なっなんで入ってきたんですか!」

「一緒に入ろうと」

「せめて声をかけてください!!」

「入った」

「それ事後承諾です!」

「姉妹だった普通かなって」

「いや……あの」

 思わず言葉に詰まってしまう。

 私たちは実際に姉妹としての関係を目指しているので、それを言われるときつい。

 てか由紀さんの行動を非難したはずなのに、当たり前みたいに言ってくるから私が異常なのかと思ってしまう。

 もしや高校生になっても姉妹で入るか?

 私も姉妹のお風呂事情なんてわからないから、一緒に入るかなんてわからない。

 そんなことを考えていて無言になったからか、そもそも出ていくという選択がないのか私の後ろで由紀さんがボディーソープを出している。

 拒否権はないんですね……。


「じゃ、背中流すね」

「いや、いいですって」

「背中流すね」

「あっはい」

 私は流されるままに従ってしまう。

 こうなった由紀さんはテコでも動かない。

 由紀さんが折れないというのは一緒に暮らしてわかったことだ。

 基本的に由紀さんが満足するまで私は従うことしかできない。不憫すぎる……。


 はあーとため息をついて現状を受け入れると、なんか変に緊張してきた……。

 だってこの状況ヤバいし、それに……。

 由紀さんに視線を移す。

 ……やっぱ、エロいよね? これ。

 風呂場なので、当たり前といえば当たり前だが、由紀さんは裸だ。

 一応タオルで前を隠しているんだけど、それが動くたびにさっきからチラチラと見えそうになって逆にエロい。

 女の私でもなんかドキドキするし、ついつい見てしまう。

 というか由紀さんは普通に美少女だ。

 透き通るような色白い肌とか、モデルのような細い手足とか。長い髪を上に束ねているからこそ見えるうなじとか……。

 うん。めっちゃ緊張するわ……うん。


 と、そんなことを考えている間に背中は洗い終わったようで、背中から手が離れる。

 これで満足しかなと思ったが、由紀さんはそのまま私の胸を洗いだした。

 ちょおおおお!

「ちょっ由紀さん!」

「お姉ちゃん」

 そこ重要か!? いやそれよりも

「なんで触ってるんですか!?」

「前も洗おうかなって」

「いやいや、背中洗うだけじゃないんですか!?」

「……」

 無視である。

 コミュニケーションしましょうよ……。

 さっきからほとんどボールが返ってこない。

 前はマイペースな人だなとかしか思わなかったけど、巻き込まれるとタチが悪いな。

 というか。

「早く放してください! 揉むな!」

 由紀さんの手を強引に引き離す。

「あー」

 由紀さんが残念そうに手をわきわきしている。

「というか、そんなに胸を触らせてくれる人がいたんですか!」

「触ったのは美咲が初めてだよ」

「そうですか!」

 なんて人だ。もう。

「少し緊張する」

 それ、私のセリフ!

 こっちのほうが心臓バクバクだから。今にも心臓出そうだから!

 だめだ。これ以上入っていると私の精神が崩壊する。

 これ以上由紀さんがなんかやる前にとっととシャワーを浴びて出よう。

 そう思ってボディーソープを出していると由紀さんが近づいてくる。

「……美咲は私のこと嫌い?」

「めんどくさい彼女か!」

「嫌い?」

 由紀さんは私の手を掴みながら上目遣いで見てくる。

 ……いや、こんな無表情で上目遣いされることある? 

 まあ、それでも私の心臓は高鳴っていますけどね!

「好きですけど! 洗わないでいいです!」

「じゃあ、私が洗う」

「だからいいって言ってるでしょ!」


 私は急いでシャワーを浴びる。

 その間も由紀さんは「私がやるのに……」と言っていたが無視だ。

 いつもなら時間をかけるんだけど、今は早く風呂から出たい。

 急いで洗い終えて、風呂椅子から立つと由紀さんに声をかけられる。

「じゃあ、洗って」

 反射的に振り返って、私は見たこと後悔した。

 由紀さんがタオルを置いて、手を広げていた。

 それは、今まで隠れていたところが全開になったということで……。

「出ますね!」

 見ちゃった、見ちゃった、見ちゃった!

 今にも顔が沸騰しそうだ。

 私はそそくさとお風呂場を後にする。


「まだあまり時間たってないのに……」

 脱衣所で由紀さんの残念そうな声が聞こえた。

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