第28話 ヨハナ 家出 人さらい
ヨハナは、ハンスに会うために一人で王様のいる都に行くことにしました。しかし、そんなことを言えば、両親は反対します。都に行くには、二週間はかかります。宿賃は、食費は、具合がわるくなったらどうするのかと考えていくと、ハンスに会いに行くことなど、とても一人で出来るとは思えません。
ヨハナは、夢見る娘です。お金が、足りなくなったら、どこかで働けばいい、宿に泊まれないときは、野宿をすればいい、本当に困った時は、神様が助けてくれるだろうと、いささかのんきに考えていました。
できるだけお金をためて、気候も暖かくなってきた頃、ヨハナは、昔、小人を見に行くために家を抜け出したように、そっと家を出ました。昼は、街道には、常に何人かの人が歩いていました。これなら、女の一人旅でも、心配はいらないだろうと思いながら、第一日目は、予定の宿よりも手前の宿に入りました。
旅も三日目となり、ヨハナは、だいぶ緊張がとけてきました。宿では、女の一人旅だと分かると、嫌な顔をするところもあれば、逆に何か事情があるのではと親切にしてくれるところもあって様々です。
ヨハナは、三日目の夜ということもあり、だいぶ緊張がとけていましたが、そんな時、宿で、
「お嬢さん、どこまで行くのですか」
と親切そうな若者に言葉をかけられ、話をすると、その若者も都に上る途中でした。この若者ならと信頼して、ヨハナは一緒に旅をしてくれないかと頼みました。
次の日、空は晴れ渡り、これなら予定よりも遠くまで行けるとヨハナが考えていると、若者が、こちらのほうが近道なのでと言ったので、ついていくと暗い森を通り抜ける道です。
人影が途絶え、怖くなったヨハナが、連れの若者に、
「この森を通り抜けるには、どのくらいかかりますか」
とたずねると、
「だいぶ、かかるね。女の足だと時間がかかる」
と、心配になるようなことを言います。ヨハナは、それでも辛抱して歩き続けました。
「今日の宿までは、もう少しですね」
「ああ、そうだよ」
と昨日の様子とは、まるで変って冷たい返事でした。ヨハナは、嫌な気持ちになりながらも先に進みました。森の道は、だんだんと細くなってきます。
そのとき、若い男が、
「俺は、人さらいだ。人を簡単に信用するんじゃない」
と言って、逃げるヨハナの手を捕まえました。ヨハナが、両手を縛られたまま、森の外れまで行くと、一台の馬車が止まっていました。犠牲者は、ヨハナだけではなく、女六人が馬車に乗せられていました。
七人は、馬車の荷台に寝かされ、おおいをかぶせられました。逃げることは、もちろん、声を出すこともできません。そうして、毎日ひとりずつ見知らぬ町で降ろされて戻ってきません。最後の一人となったヨハナは、明日が自分の番だと分かりました。
翌日、夕日が沈む頃、若い男は、ヨハナを連れて街外れのいかがわしい酒場に行きました。若い男は、女を一人買わないかと女主人にヨハナを見せました。
すると、そこの女主人は、
「これは美人だね。元手はすぐに取り返せるな」
と言って、交渉はまとまりました。
屋根裏部屋に閉じ込められたヨハナは、夜になるのをまって、必死に祈りました。
「小人さん、小人さん、お願いだから助けて」
ヨハナの願いが通じたのか、小人が現れました。
「どうしました、どうしてこんなところにいるのですか」
「私は、だまされてここに連れてこられました。すぐ、ここから連れ出してください」
小人は、そんなことかという顔をして、
「あなたのきれいな金色の髪の毛がほしい。そうしたら、あなたは、外に出られます」
と言います。
「いくらでも上げます。髪の毛は、後から生えてくるから」
あっという間に、ヨハナの自慢の髪の毛がなくなり、頭はつるつるになりました。
翌朝、この酒場で働かせるよりも、別のところに、もっと高く売ったほうがいいと考え直した女主人が、屋根裏部屋にやってきました。ヨハナを連れて行こうと、扉を開けると、そこには、つるつるの坊主頭になった女がいました。
女主人は驚きを隠しきれず、
「お前は、何か病気持ちかい」
と聞きました。ヨハナは、
「病気を持っていたらどうなるの」
と言って、くるりとその場で一周りしました。
「一晩で、そこまで髪の毛がなくなるなんて??、これじゃ、客はよりつかないね」
と言って、ヨハナを通りに放り出しました。
ヨハナは、自分のいるところが、どこなのか全く分かりません。ただ、風の寒さと遠くの山並みから、故郷からかなり北にいることは分かりました。
どうしてよいのかわからず、ふらふらと通りを歩いていると、道端に座っていた物乞が、ヨハナを哀れんで、一枚のスカーフをくれました。
「おい、そこの男だか女だかわからない人。頭が寒そうだね。俺のスカーフでよかったら、あげるよ」
ヨハナは、恵んでくれたスカーフで、頭をおおいその物乞の側に座りました。
物乞も、ヨハナが何か病気で髪の毛がなくなったのではないかと疑っているようでした。
「あまり、そばに寄らないでくれ」
ヨハナはむっとして、
「私は病気ではありません」
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