第29話 ヨハナ 修道院へ
すると、いつもそこを通る修道女が、いつもの物乞以外に、女性も座っているのに気が付きました。
「もしや、そこのお方、ここらの人ではないような」
「はい、人さらいにつれられて、ここまで来ました」
「えっ、人さらい。そのような悪行をする者がいるのですか。神様の罰が当たりましょう」
修道女は、ヨハナの顔をしばし見つめてから、卑しいものではないと判断したようです。
「この寒さの中、行く当てはあるのですか」
「いいえ、どこにもありません。もし、よろしければ一夜の宿をお願いできますでしょうか」
その修道女は、この女性なら、修道院に泊めても、大丈夫と思ったのか、ヨハナを修道院に連れていってくれました。
当時、街道で行き倒れになる者は多く、修道院に泊めてほしいと願う人は、かなりの数にのぼりました。ただ、修道院でも誰でも、受け入れるというわけにはいきませんでした。
そのような人たちは、病にかかっていることが多く、そのまま宿泊させれば、修道院全体に感染する危険性があったのです。病気であれば、他の者に感染しないように、それなりの配慮をして、良き隣人としてのつとめを果たしていたのです。
院長は、ヨハナがベッドでもスカーフを被ったままでいるのを不審に思いました。もしかして、何か良くない病にでもかかっているのかと思い、スカーフを取るように言いました。
すると、髪の毛が一本もないつるつるの頭が現れたのです。修道女たちのしのび笑いが、広がる中、院長は、人に見られても恥ずかしくないほどに、髪の毛が生え揃うまで、ここにいなさいと言ってくれましたが、これはヨハナが一生忘れられないことになりました。
ヨハナは修道院というものを初めて知りました。清貧・貞潔・従順の徳に従い、信仰の生活に生きている女性がいるとは知っていましたが、自分の今までの生き方を省みると、ヨハナには、ここで生きることが正しいと思えるのでした。
豊かな髪が戻ってきたとき、ヨハナは、修道院に入る決心をして、両親にあてて手紙を書きました。それには、何も告げずに家を出たことをわび、今は、修道院で暮らしていること、そして修道女になって一生を送りたいと真剣に考えていることが書かれていました。
ヨハナは、修道女になるために、瞑想の生活に入りました。ただ、ハンスのことが、少し気がかりでした。
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