第19話 職人選び ルンゲ
都の宿には、いつになく、遍歴の旅職人が多く泊まっています。決められた日に、王宮の前に到着すると、職人たちは旅の疲れを取る暇もなく、すぐ大広間に集められました。役人たちが、職人たちを大広間に入れたのは、演奏する場所が、大広間だったので、その大きさを実感してもらうためでした。
役人たちは、王様の望むオルゴールの大きさ、音色、費用、期間、動力などについて説明しました。そして、このように大きなオルゴールを事前に作ってもらい審査することはできないので、どのように構想し計画したかを聞いて職人を選ぶことにしたと告げました。
大広間での説明があってから、一週間がたち国の内外からやってきた職人が、王様の望みのものが作れるのかどうかを決める職人選びが始まりました。職人を選ぶ側には、宮廷大臣、大蔵大臣そして楽師長の三人が座っています。
大蔵大臣の聞きたいことは、お金がいくらかかるかということでした。そして大蔵大臣は、その金額が少しでも安くならないかと必ず念を押しました。
楽師長は、王様の望むようなオルゴールなどが、出来るはずはないと思っていました。もし、少しでも出来たとしても、わしの耳はごまかせんぞと言いたげでした。
宮廷大臣は、優しい人でしたので、王様の望みは叶えてあげたいと考えていました。ただ、できる見込みはほとんどないというのが困ったことでした。
職人を選ぶポイントは、今までの実績とグランドオルゴールをどのように作るのかという構想です。
広間に集められた職人達は、自分が作った自慢の小さなオルゴールを選ぶ側の大臣たちに披露し、自分たちがどれほど素晴らしいオルゴールを作ったかを話し始めました。どのオルゴールもなかなかに美しい音楽を奏でるので、見せられたオルゴールだけでは、職人の力量を判断することは難しく思われました。
しかし、これから作るグランドオルゴールについては、殆どの者が、期間と費用について具体的な案を示せませんでした。事前に、十分な時間を与えられても、満足のいく案を示すことは、難しかったのです。
最後に、三人が残りました。一人は、三〇才になるルンゲという職人でハンスの兄弟子でした。ルンゲは、なぜか親方にはならずオルゴール職人として、一時は、その名を知られていましたが、今は、数少ないオートマタの職人として、遍歴していました。
ルンゲは、王様の求めるものをどのように作るかと考えて、オルゴールとしては作るのは難しいが、あるいはオートマタなら可能かもしれないと断言したのです。
オートマタという言葉は、聞いたことがありますが、見たことがなかった大臣たちに、ルンゲは、ある国で、自分が作ったオートマタを、より小さくしたものをトランクから取り出しました。
大臣たちが、なにが始まるのかと不審げに眺める中、ルンゲが、その小さなオートマタのゼンマイを巻くと、からくり人形はバイオリンで王様の好きなワルツの一パートを弾いたのです。
楽師長が、
「これは、どのような仕組みなのだ」
と怒鳴るようにたずねると、
「カムが三〇個、歯車他で百個、ゼンマイを動力として、シリンダーで動きます」
楽師長は、このようなものが、作られる時代になったのかと内心の驚きを隠しきれませんでした。
大蔵大臣は、安く出来るのならと期待して、
「普通に動くものならいくらぐらいになるのか」
「三千フロリンです」
「王様が、管弦楽に必要なオートマタを揃えると、いくらになるのか」
「ざっと三〇体として、一〇万フロリンは必要となるでしょう」
大蔵大臣は、
「無理だ、この国が破産する」
ルンゲは、諦めきれません。
「それでは、王様に、このオートマタを見ていただくだけでもお願いしたいのですが」
宮廷大臣は、遠く離れた小さな国のことを思い出しました。オルゴールか何かは知らないが、管弦楽が奏でられるものを作ったその小国は、お金を使いすぎて貧しくなってしまい、今は、隣国の属国のようになっているということでした。
宮廷大臣は、もし王様が、このからくりを目にしたら、夢中になることが恐ろしかったので、ルンゲの願いを却下することにしました。
それと併せて、大蔵大臣は、金を湯水のように使うのであれば、オルゴールどころか天国へも行けると猛反対して、ルンゲの提案は拒否されました。
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