第15話 完全なオートマタ 

 出来の良くないオルゴールを作ることをやめ、ルンゲは、貯めた金で、オートマタつくりにとりかかりました。一年後、出来上がったオートマタは、女性がバイオリンを演奏するもので、顔は、ソフィアに似ています。ルンゲは、このオートマタに、「オートマタ・ソフィア」と名付けました。  

 それを売って、もっと精巧なオートマタを作るのが夢ですが、オートマタを買うことができるのは、王侯貴族か大商人に限られていました。

そのような人たちは、オートマタの高価さを知っていましたので、遍歴の職人が売りに来たオートマタに、興味を示しても、なかなか買うということまでには、いきません。

 ルンゲは、ソフィアを呼んで、オートマタを売る方法を話し合いました。

「何と言っても、高すぎるのよ」

とソフィアが、言うのはもっともなことです。

「人形一体、つくるのに、これだけの部品を組み立てるのだから、どうしても高くはなる」

 次に、ソフィアが

「こわれやすいし」

「部品を一つ一つ点検していては、いつまでたっても製品ができない。多くの職人で組み立て、検査をすれば、いいものは作れるが、どうしても高くなる」

「いつも同じ曲であきるんじゃない」

「何曲も演奏させることはできるが、金がかかる」

「いっそのこと、曲を聴くだけなら、オートマタでなくてもいいのでは」

とソフィアが、ルンゲの考えを無視するような発言をしました。

「オートマタと言うのは、オルゴールの精巧なものではないんだ。人間が作った機械の人形に、命が吹き込まれたように動かしたいんだ」

「機械が、人間のように動くなんて、なんだか気持ちが悪いわ」

「百年後、いや二百年後には、機械仕掛けの人形が人間の代わりとなって、色々な仕事をしているだろう。人間が額に汗して働く必要がない世の中が来るはずだ」

 その時、ルンゲは、どうしても理解してもらえないという気持ちに、打ちひしがれる想いでしたが、何か、ひらめいたようでした。

 究極のオートマタをつくるというのは、どうだ。人間の体の動きには、基本的なパターンがある。事前に動作のパターンを組み込んだシリンダーを作って、基本的な動きを再現し、新しいことをする時は、シリンダーのピンの位置を変えればいい。本当に難しいことはできないが、普通の人間がすることは、できるようになるはずだ。

 ルンゲに希望が湧いてきました。ルンゲは、これから本気でオートマタつくりに取り組むと宣言しました。 

 ソフィアは、

「あんたは、オートマタと結婚するの」

と嫌味を言いましたが、

「今が、大事な時なんだ。わかってくれ」

どうやら、ルンゲは、オートマタと心中でもするようです。彼の気持ちが、ソフィアを向いていない今、何を言っても無駄だと知りました。

「それじゃ、私はどこに行けばいいの」

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