第12話 オルゴール作成依頼

 ハンスの旅は、二年めにかかりました。懐中時計の修理をしたある商人から、娘の結婚式に、オルゴールを使って、何か変わったことをしたいとの相談が入りました。教会のバージンロードを歩く時の音楽をオルゴールで奏でられないかという注文でした。

 オルゴールの音に、パイプオルガンが伴奏するというのですから、かなり大きく鳴らす必要がありました。大きさは、目立たない程度ということで、それ以上の制限はありません。

 音を大きくするには、とりあえず櫛歯を大きくすることで対処できます。加えて、ある程度の曲の長さに、対応しなければならないのでシリンダーは太くなります。

 難しいのは、音色です。オルゴールの欠点は、単一の音色しか出せないことでした。ハンスは、四つの櫛歯とシリンダーで、異なる音色を出すことにしました。動かすには、原理的には、ゼンマイでも可能ですが、高価となり、人力で回したほうが間違いがないと判断しました。

 櫛歯の音色には、色々ありますが、弦楽器の音などは、まだ誰も作り出したことがありません。ハンスも、この問題をどうして解決していいのか分かりません。注文のオルゴールを作り終えて、ハンスは、オルゴール作りの難しさを改めて思い知らされました。いつしか、短い夏が終わり秋になっていました。

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