第9話 奉公明け 旅職人として
さて、七年間の長い奉公が明け、懐中時計、大時計、そしてオルゴールの作り方で、ハンスは、同業の職人と比べても引けを取らないほどになりました。
これから三年間は、諸国を遍歴して修行の日々が続きます。そのような人たちは、旅職人と呼ばれます。不思議なことですが、ドイツの旅職人は、ひと目でそれとわかる格好をしています。どうして、そんな姿になるのか、誰にも説明できません。ただ、昔から、そうしているからというのが、唯一の説明でした。
夏の日差しを遮り、雨や雪を防ぐには、帽子が必要ですが、かぶるのは、何と山高帽子です。襟のない白シャツを着て、裾が広がったズボンをはかなければなりません。
そればかりではありません。衣服などが入った袋をぶらさげた大きな杖を手に持って、まるで、魔法使いのように歩くのです。
実は、旅職人のいでたちには、実はもっと多くの決まりがありますが、あまりに細かいので、それを語るだけで、一冊の本ができるほどです。例えば、ネクタイ状の布とか、八つの貝ボタンのついたベストとか。そうそう、金のピアスについては、話しておかなければなりません。
金のピアスは、おしゃれでしているのではなく、いざという時のためのものです。体一つで旅をする職人は、あまりお金をもっていません。稼ぎが少ない上に、食費と宿泊代に大部分が消えてしまうからです。
そのため、旅の途中で、病気などで亡くなった場合には、葬式のお金を用意しておかなければ、世話をしてくれた人に迷惑をかけることになります。
もっているのが、お金であれば、稼ぎが少ないときは、どうしても使ってしまいたくなります。そんなことがないよう、職人は、片耳に穴をあけてそこに金のピアスを通すようになったと言われています。ハンスも、右の耳に金のピアスを一つつけました。
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