第3話 ヨハナの家へ

 夜になりました。ハンスは、夕食を食べ終えると、いつものように自分の部屋に戻りました。早く真夜中にならないかと、待っていても、こういうときには時間は、なかなか進みません。

 ハンスにとって、心配だったのは父親のほうでした。おばあちゃんは、夕食を食べると、すぐ寝てしまいますが、父親は、時々、夜なべ仕事をすることがあったからです。

 ハンスが、そっとベッドから起き出すと、父親は酒を飲んで寝ていました。これなら、少しぐらい音を出しても大丈夫です。 

 幸い、今夜は、満月で、ランプの光がなくても、本が読めるような明るさです。ハンスは、着替えて外に出ました。教会への道は、ハンスの家から、それほど遠くはありませんが、真夜中となると、だれ一人通る者はありません。いくら月明りがあるとはいえ、真夜中に一人で歩くのは気味が悪いものです。

 ハンスは、ヨハナが誰にも知られず、家から抜け出ることができたかと心配になりました。もしかして、ヨハナが、しり込みしているかもしれないと考え、ハンスは、納屋の入り口に行かずに、ヨハナの家の近くまで行ってみました。

 すると後ろから、そっと背中を押す者がいます。あっと、声が出そうになりましたが、口を両手でふさいでハンスは後ろを振り向きました。

 そこには、ヨハナが、寒くないように着込んで立っていました。

「あー、驚いた。ヨハナ、君かい」

と小さな声を出すのが、やっとでした。

すると、

「ハンス、遅いよ。待っていたのよ」

と声は小さいけれど、ヨハナは、ハンスの姉のような返事をしました。

 ハンスとヨハナは、並んで教会まで歩き始めました。

「家の人に知られなかった」

とハンス、

「窓をあけておいたの。ベッドには、毛布の下にタオルを巻いておいたから、私が眠っていると思うでしょう」

 今更ながら、ヨハナの頭の良さにハンスは感心しました。月が明るいので、星はあまり見えません。ホーホーと梟が鳴いています。どこかの高い木の梢にいるのでしょうか。二人の足音だけが聞こえます。

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