第6話 二人だけの打ち上げ

 文化祭が終わってから、私たちはいつものように私の部屋にいた。

 クラスや被服部で打ち上げっていう話もあったんだけど、琴美とだけでやりたかったので、遠慮した。


「1位おめでと。ほんと世界一かわいかった」

「……うれしいです」


 今日何度思ったかわからないほど、私は達成感に打ち震えていた。

 あんなにも完璧に琴美はやってくれたのだ。

 嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。

 私が足をプラプラさせていると、琴美も身をよじっている。

「琴美?」

「私もまだ興奮が収まらないです。あんなに見られていたのに、私にはひかりしか見えていませんでした」

「一番の特等席で見てたしね」

「はい。あんなにも情熱的に見られたのは初めてで」

 ……そんな風に見ていたか? まあ超かわいいと思いながら見てたけど。

「だから、あの……その」

 珍しく言葉をうまく出せない琴美が、覚悟を決めたように言う。


「なので、ご褒美とかほしいですね」

「ご褒美?」

 意外な言葉に戸惑ってしまう。

 ほんとは何か奢ろうかとか思っていたけど……まあ、琴美がなにかほしいならそっちのほうがいいか。

「私でできることならいーよ」

「では」

 そう言うと琴美は突然、私の唇を突然奪った。

「ちょっと、琴美?」

 ちょ、ちょ、ちょっと!?!?!?

 ベットの上で距離を取ろうとすると、そのまま琴美が私を押し倒してくる。

「琴美? え?」

「……ひかりが悪いんですよ? あれだけ私に触ってきて、それにあの屋上の言葉だって……もう限界です」

 私は別に……いや、そういう目で見てはいたけどさ。でも、だからっていきなりキスされるなんて思っていなかったし、っていうか、え? なんでキスしたの? 

「なので、これがご褒美ということで……ひかりを自由にさてください」

「まって、まって。え? 琴美、私のこと好きなの?」

「はい」

 当たり前のように言う琴美に顔が熱くなる。

 女子から告白されるのなんて初めてだし、しかも相手はめっちゃ可愛いと思っていた琴美。嬉しくないわけなんてなくて。

 でもだからって……ああ、もう。

「ふふ、ひかり。顔真っ赤です」

 くうーー!

 私は両手で顔を覆い隠してしまう。恥ずかしすぎる――。

 いや、さんざん私も琴美のことは触ったけどさ。でも告白されるなんて思ってなかったし。

 屈辱感やら羞恥心やら嬉しさだったり感情がぐちゃぐちゃだ。

「返事は今度でいいですよ。顔を見れば分かりましたので。……今は私のこの気持ちを受け止めてくだい」

 手がどけられる。

 見えた琴美の顔は欲情丸出しで、目もうるんでしまっている。今にも私に襲い掛かる一歩手前といった感じだった。

 今の琴美はやばい。身の危険を感じる!!!

 でも、一番やばいのはこの状況に流されてもいいかなと思っている私の心だ! 静まれ、本能!

 そんなことを思っても琴美は止まってくれなくて。

 2度目のキスを奪ってくる。

「ん、んんっ!」

 今度のキスは先ほどよりも長くて、乱暴だ。

 倍以上の時間をかけて私の唇は貪られる。

 頭がくらくらして、意識がとんでしまいそうだ。

 たっぷり2分はキスしただろう。琴美はやっと唇を放した。

「はっ……はあ……はあ」

 私はもうすっかりとろけてしまって、肩で息をすることしかできない。

 残っている力で彼女のことを睨むが、琴美は余裕の表情で口を拭っている。

 ……く、悔しい。

「……キスというのは気持ちいですね。とってもかわいいですよ、ひかり」

 ホントに悔しい。

 琴美は満足気に微笑んでいるところが憎たらしい。

 さんざん恥ずかしがってたくせに!!!

 だけど、そんな中でもうれしいと思ってしまっているのが一番悔しい!!!!!

「ふふっ。もう一回しますね」

 選択肢がない!

 ほんとに小悪魔だ! 私を惑わしてくるサキュバスだ!

 私は理性をかき集めて抵抗する。

「だめ!」

 布団を手繰り寄せて身を翻す。

 だめだめと理性で抵抗するが、もっとしたいと思っている自分を自覚している以上、完全に落ちちゃっている。

 そんな私の形だけの抵抗も琴美が破ってくる。

「ほんと、ひかりは私の理性を刺激してきますね。意地悪したくなります」

「意地悪って、ちょっ」

 琴美は布団をはぎ取り、さらにキスをしてくる。

 さっきキスよりもさらに濃くて、舌を絡ませてくる。

 キスされすぎて唇が干上がってしまいそうだ。

 もう、ほんとに意識が飛んじゃう。

 てか、目もグルグルしてきた。

「まっ、まって」

「ふふ。待ちませんよ……ってえっ、うそ? ちょっとひかり? しっかりしてください! ひかりー!」

 琴美のそんな言葉を聞きながら私は意識を落とした。

 ……なんとか私の身は守ったぞ。


 目を覚ますともう夜だった。

 辺りに琴美はいなかったが、下からいい匂いがする。何か作ってくれのかな? そんな琴美に愛おしさが込上げてくる……いや、あいつのせいで私は寝ちゃったんだ。マッチポンプだわ。うん。

 体は重いけどなんとか起き上がり、一階に向かう。

「あっ、ひかり。起きましたか?」

 エプロン姿の琴美は私を見るなり笑顔で駆け寄ってくる。

 ……新婚さんみたいだ。

 いや、違う、こいつ私にいきなりキスしてくるようなサキュバスだ。惑わされるな。

 私がそんなことを思っていると琴美が頭を下げてくる。

「すいません。ちょっとやりすぎました」

「ああ、うん」

 私も曖昧な返事をしてしまう。

 実際あんな簡単に意識が落ちるとか思っていなかったので、私は弱かったのがいけないんだし……っていうか恥ずかしいので、あんまり気にしないでほしい。

「まさかひかりがあんなクソ雑魚なんて思わなくて」

「おい、ディスってんのか」

 琴美はぺろって舌を出してくる。反省してないな、こいつ。

「では、私を襲ってくますか?」

 おい、言い方! あと上目遣いやめて! かわいいから。

「ふふ。まだ無理そうですね」

 琴美は微笑みながら私の頭をなでる。

 くっ屈辱感がすごい。完全に手玉にされている。

 私は何とか手を払う(理性的な意味で)が、琴美は予想してたのか私の手を避けて懐に潜り込んでくる。

「単純ですね」

 そしてまた唇を奪われる。

 だがそれも一瞬ですぐに離れる。

「ふふ。ひかりはこれ以上刺激しちゃうと倒れちゃうのでこれぐらいにしておきますね」

 琴美は勝ち誇った笑顔でそう言ってくる。

 しかもその笑顔はめちゃくちゃかわいいのが、ほんとに腹立たしい。

 でもそんな彼女に私は完全に落ちたと実感する。

 拳を握って、決意するように叫ぶ。

「次は見てなさいよ。もっともっと落としてやるから!」

 琴美は一瞬驚いたが、すぐに慈しむように微笑む。

 心底私のことが愛しているかのように。

「はい。お願いします」

 その笑顔が今までで一番かわいい笑顔で、私は決意とほんのちょっとの恨みを込めて微笑んだ。

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