第5話 本番

 私は今、体育館でランウェイ中の少女たちを見送っている。

 あの後、ドレスの着替えを手伝おうとしたが、琴美に断られた。

 私には本番のときに最前列で見ていてほしいと言われてしまえば、断れない。なので最前列で見ているんだけど……。

 「てか、みんなレベル高くね?」

 思わず口にしてしまう。それだけすごい。

 歩いてくる少女たちは当たり前だけど、みんな美人だ。しかも衣装も凝っていて、ちゃんと見せるように歩けている。琴美のことを信じてない訳じゃないけど、すごく難しいように思ってしまう。

 まじですごくかわいい子ばっか。しかも声援もすごい。

 このランウェイは人気投票でもあるから、やっぱり人気な部活に入っている人やパリピは強い。


 そんな風に内心ハラハラしていた私だけど、次に出てきた少女を見て杞憂だったと言わざるを得ない。

 現れたのは天使だ。

 少し青みがかった、白いドレス。特徴となるのは腰にあるリボンぐらい。肩や胸元は出ているけど、妖艶的というよりも清楚な雰囲気が彼女を包んでいる。見ていて眩しいような、目が離せないような魅力がある。


 想像以上だ……。

 ――今回私が作るにあたって、特別なことはいらないと思った。

 デザイナーとしてはどうなんだと思うけど、魅力でいえばこれ以上必要なかったし、それなら清楚感を出してあげるだけど十分だと判断したのだ。

 その考えは正しかったらしく、彼女を見る人は皆息を飲んでいる。

 今までの子ももちろん可愛かったけど、琴美は別格だ。

 見た目もすごいが、動きもすごい。ヒールにも関わらずに見せるように、美しく歩くそれは、ほんとのプロみたいで、今までの子がモデルにあこがれて参加した子供のお遊戯会みたいだ。

 そんな彼女の姿に会場のみんなが釘付けになっている。

 私も例外ではく、ただただ彼女に目を奪われる。

 琴美は穏やかにゆるやかに歩いていくが、その視線は前を向き、私に注がれている。微笑みながら柔らかい笑顔で歩いてくる彼女をガチで天使だ。


 ――ほんとに、世界一かわいい。


 私はそれだけを伝えたくて、琴美を見続けていたけど、そんな永遠とも思える時間はあっという間で、琴美が振り返り元いた場所に帰っていく。

 会場が息を吹き返したように歓声を上げるなか、私は琴美を見送っていた。

 もうそのあとのことは覚えていない。

 ただ結果は言うまでもなく、琴美が圧倒的に一番で幕を閉じた。

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