第4話 文化祭当日

「緊張してきました」

 本番となった今日。

 あれから私は服作り、そして琴美はモデルの勉強ということで日々を過ごしているとあっという間に本番の日になってしまった。

 琴美と一緒に他のクラスの出し物とかを回っていたが、ずっと不安そうだった。

 なんとか楽しもうとさせていたけど、時間が過ぎるにつれて表情は険しさを増していき、気づけば本番10分前になっていた。

 待機室に着くなり、琴美は弱弱しそうだ。

 まあ、緊張するよね。

「大丈夫。絶対きれいだよ」

「……」

 私が声をかけても気休めにしかならないのか琴美の目が不安そうに揺らめく。

 慌てるように励ます。

「絶対似合うから。琴美は元からかわいいんだから自信持って」

「……もっと褒めてください。今にも逃げ出してしまいそうです」

 不安を隠さないまま、上目遣いで私を見て、袖口をつかむ。

 ちょっと、やめてよ。そんなかわいい仕草するの……ってだめだめ。琴美は不安なんだから私がしっかりしないと。とにかくここだとダメだ。

「屋上行こうか」

「え?」

 私のいきなりの提案に琴美は驚いているけど、返事を待たずに待機室から連れ出した。


「んー気持ちいいー」

 屋上に着いた瞬間、伸びをする。

 そんな私を見ても、琴美は浮かない表情のままだ。

 そんな彼女を抱きしめる。

「ひかり?」

「不安?」

「……はい」

 琴美は正直に返しながら、私の背中に手を回す。

「ただのミスコンだよ」

「……こんなに大勢に見られることはありませんから、緊張してしまいます。それにひかりが一生懸命作ってくれたドレスですから、一番を獲りたいって思うんですよ」

「そっか」

 私の手に力が入る。琴美がそこまで思ってくれていたなんて思わなかった……。

 慰めるように、緊張をほぐすように言う。

「琴美は、琴美らしくしてくれればいいよ。それだけで私は嬉しい。だってあなたの歩いている姿を見て、私はこのドレスを作ろうって思ったんだから」

「そうですね……。会ったときからひかりは無茶苦茶でしたね」

 回されている手が震えている。

「あれから、琴美には何が似合うのか考えるのは楽しかったし、どういう服を着せたいかなって思って色々やったなー」

「ホント、色々触りすぎですよ」

 琴美の抱きしめる力が強くなっていく。

「こんなことなら昨日はカツ丼とかを作れば良かったですね」

「でもそしたら、胃もたれしてたかもだよ?」

「そうですね……すいません。少し弱気になっています」

「ふふ。私も同じ状況になったら緊張するって」

「もう少しだけこのままでお願いします」

「それで琴美の緊張が和らぐならどうぞ」


 どれぐらいそうしていただろう。

 抱きしめているとチャイムが鳴り、琴美の肩がビクッと震える。

 もうそろそろ準備の時間だ。

 私は抱きしめていた腕を放す。

 放した琴美は子犬のような不安な目を向けてくる。


 私はできるだけ優しく、祈るように手を握りながら言う。

「琴美は、世界で一番かわいいよ。それは私が保証する。ただ歩くだけで琴美は魅力的だから」

「……ホントですか?」

「そうだよ。琴美だったら、絶対とれると思って声をかけたんだし。それに私が見たいんだ。きれいなドレスを着て、優雅に歩く琴美が」

 私が顔を上げると、少し赤くなっている琴美と目が合う。

 ……ホント、世界一かわいい。

 そんな彼女の頬に手を添えて微笑む。

「だから今日は、今までで一番きれいな琴美を見せてね」


 一瞬、目を見開いた琴美だったけど、すぐに微笑み返してくれる。

 私の手に自分の手を重ねながら目を閉じる。

 もう彼女の手は震えていなかった。

「はい。見ていてください。必ず一番を獲ります」

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