第3話 葛藤

「どうしたの?グレイ?」


あの後、動揺のままに何とかエルの分も含めた食事を購入し、一緒に食べているとエルが心配そうに聞いてきた。


「・・・いや、別にどうともないぞ」


「そう。なら良いけど」


グレイは何とか平静を装いエルの質問に答える。


そしてグレイは再び思考の渦に入っていく。


(何でだ?何であと5時間しか寿命が無いんだ)


グレイはこれまでに無いほど頭をフル稼させていた。


(もしかして病にかかっているのか?)


アリシアが病気持ちだという話は聞いたことはない。


念のため、エルにも聞いてみることにする。


「な、なぁエル?」


「ん、どうしたの?」


「さっきの注目凄かったな」


「ああ、バルムさんのこと?グレイも興味あるの?意外だね」


エルが本気で驚く。


「お、俺だって綺麗な女の子に興味くらいあるさ」


「ほうほう。それで?」


続きがあるんだろう?とばかりにエルが聞いてくる。


グレイは余り大きな声で話すのが憚られたため、エルを手招きし、察しが良いエルが耳を向けてくる。


「バルムさんって、体が悪いとか病気とかあったりするのか?」


「へ?いや、聞いたことないよ」


「そうか。教えてくれてありがとう」


「どうしたの急に?」


エルが不思議そうに聞いてくる。


「あ、ああほら、美人薄命って言うだろ?現実にも有りうるのか気になってさ」


「プフぅ、何それ?やっぱりグレイは面白いなぁ」


エルはグレイの言葉を疑いもせず、お腹を抱えて笑い出す。


これ幸いとグレイは再度思考の渦に再度潜る。


(病気とかではないとすると自殺か他殺か事故になるな。・・・これ以上は情報が少なすぎて分からないな)


ふと、グレイの中の悪い心が囁く。


〜別に関係ない人間が死ぬってわかったからといってお前が動く必要ないだろう。運命なんだよ。それが


一方、グレイの中の善い心が囁く。


〜グレイだけが知ったということはきっと意味があるんだよ!!運命なんて変えちゃえ!!


「ふぅ」


グレイは一度深呼吸をし、自分の行動を決める。


「・・・知ったからには黙っていられないよな」


グレイはボソリと呟き、未だ笑っているエルにお願いをする。


「エル、悪い。これ下げておいてくれるか。ちょっと用事を思い出したから先に教室に戻っていてくれ」


グレイは一方的にエルにお願いすると、立ち上がってどこかに向かって駆けて行く。


「え?ああ。うん・・・ってあれ?もう居ないや」


エルが返事した時には既にグレイの姿は無かった。




(さて、どうやって接触するか)


グレイは走りながら考える。


相手は大貴族の令嬢だ。


中々一人になることなど無く、いつも誰かしら取り巻きが居るだろう。


今から貴族スペースの食堂に行くのも無謀だ。


要人も多いため辿り着く前に問答無用で捕縛され、下手すれば騎士を呼ばれ連行される。


(学生同士が違和感なく、しかも初対面で二人きりになるには・・・)


グレイが悩みながら歩いているといつの間にか人気の少ない場所に来ていた。


「こう見えて、わたくしも忙しいのですわ。何の用ですの?」


(ん・・・?)


グレイがこっそり覗くと如何にも貴族の女の子が男子と二人っきりでいるのが目に入った。


(そうか、この手があったか!恥ずかしいが仕方がない)


グレイはアリシアと二人きりになる方法が見つかったため、急いで準備をすることにした。


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