20××年4月12日
僕たちは随分遠くへ移動したものの、食料は見つからず、水も底を尽きた。
きいろの腹がずっと鳴っている。いたたまれないが、我慢してもらうしかない。きいろは、水が尽きたのを気にしていたが、一日ならば恐らく大丈夫のはずだ。
それでも、早く水源を見つけなければならないことに、変わりない。
これは、今日調べた場所の地図だ。有効利用してほしい。
<地図>
三日目にして、僕らの家族構成を書いていないことに気づいた。
クズ共に接触した場合、貴方はきっと騙されてしまう。だから、クズ共がやったことの一部をここに記しておこうと思う。
本当に嫌だが、この説明をする時に限り、奴らを父、母、と呼称しよう。
母の名前は、色崎
父の名前は、色崎太陽。四十歳。同じく宇宙物理学の研究者で、ノーベル物理学賞を受賞しているらしい。
らしいというのは、記憶が曖昧だからだ。
もしかすると、僕も長年のストレスで、おかしくなってしまったのかもしれない。
僕は母の連れ子で、きいろは父の連れ子だ。
母は、元夫の不倫が原因で離婚した。父は、きいろの教育の方向性の違いで元妻と離婚した。
彼らは同じプロジェクトに参加しており、そこで知り合って、結婚に至った。
彼らは典型的な教育熱心な親だった。
幼い頃から僕ときいろを軟禁し、主要教科五科目を徹底的に叩き込んだ。特に英語と数学に力を入れ、毎日朝起きてから寝るまで、僕らのスケジュールは秒刻みで決まっていた。
彼らが自宅の近くに研究所を設けたのも、僕らを監視するために他ならない。
体育の授業が入れられる日もあり、きいろはその日を「遊びの日」と認識して、嬉しそうにしていた。
僕たちはよく、躾と称して父親に殴られた。勉強は百点を取らなければならず、百点を取ったとしても、彼の機嫌が悪ければ生意気だと怒鳴られる。
正直、血が繋がっていないと言われて清々したが、きいろと血が繋がっていないことはショックだった。ただ、そんなものは関係ないと、すぐに思えた。
母は、僕たちが殴られるのを黙って見ているだけだった。治療もしなければ、慰めの言葉すらかけない。そこにある現象として、僕たちを観察していた。
ただ、彼女は週に一度、下手くそな料理を振る舞うことがあった。絶対に中に何か入っているので食べるふりで凌いだ。きいろにも、食べるふりを教えたので、上手くやっていただろうが。
クズ共は外では猫を被っているので、誰も僕たちのSOSに気づかなかった。
もしこれを読んでいる貴方が、色崎真里や色崎太陽と接触しているのなら、どうか騙されないでほしい。
彼らは、貴方をただの道具としてしか見ていない。
最後に、きいろのことを話そうと思う。
彼女は僕の半身だ。唯一の心の支えだ。親友であり、家族であり、僕が世界で一番気を許している人間だ。
もし僕がきいろより先に死んで、貴方がきいろを見つけてくれたのなら感謝する。どうか、きいろと協力して生きてほしい。
動物がいるかは分からないが、罠をいくつか仕掛けておいた。明日は、食事にありつけることを願う。
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