20××年4月12日

 僕たちは随分遠くへ移動したものの、食料は見つからず、水も底を尽きた。


 きいろの腹がずっと鳴っている。いたたまれないが、我慢してもらうしかない。きいろは、水が尽きたのを気にしていたが、一日ならば恐らく大丈夫のはずだ。

 それでも、早く水源を見つけなければならないことに、変わりない。


 これは、今日調べた場所の地図だ。有効利用してほしい。


<地図>


 三日目にして、僕らの家族構成を書いていないことに気づいた。

 クズ共に接触した場合、貴方はきっと騙されてしまう。だから、クズ共がやったことの一部をここに記しておこうと思う。

 本当に嫌だが、この説明をする時に限り、奴らを父、母、と呼称しよう。


 母の名前は、色崎真里まり。三十八歳。宇宙物理学の研究者だ。ノーベル物理学賞を受賞しているらしい。

 父の名前は、色崎太陽。四十歳。同じく宇宙物理学の研究者で、ノーベル物理学賞を受賞しているらしい。

 らしいというのは、記憶が曖昧だからだ。


 もしかすると、僕も長年のストレスで、おかしくなってしまったのかもしれない。


 僕は母の連れ子で、きいろは父の連れ子だ。

 母は、元夫の不倫が原因で離婚した。父は、きいろの教育の方向性の違いで元妻と離婚した。

 彼らは同じプロジェクトに参加しており、そこで知り合って、結婚に至った。


 彼らは典型的な教育熱心な親だった。


 幼い頃から僕ときいろを軟禁し、主要教科五科目を徹底的に叩き込んだ。特に英語と数学に力を入れ、毎日朝起きてから寝るまで、僕らのスケジュールは秒刻みで決まっていた。

 彼らが自宅の近くに研究所を設けたのも、僕らを監視するために他ならない。

 体育の授業が入れられる日もあり、きいろはその日を「遊びの日」と認識して、嬉しそうにしていた。


 僕たちはよく、躾と称して父親に殴られた。勉強は百点を取らなければならず、百点を取ったとしても、彼の機嫌が悪ければ生意気だと怒鳴られる。

 正直、血が繋がっていないと言われて清々したが、きいろと血が繋がっていないことはショックだった。ただ、そんなものは関係ないと、すぐに思えた。


 母は、僕たちが殴られるのを黙って見ているだけだった。治療もしなければ、慰めの言葉すらかけない。そこにある現象として、僕たちを観察していた。

 ただ、彼女は週に一度、下手くそな料理を振る舞うことがあった。絶対に中に何か入っているので食べるふりで凌いだ。きいろにも、食べるふりを教えたので、上手くやっていただろうが。


 クズ共は外では猫を被っているので、誰も僕たちのSOSに気づかなかった。

 もしこれを読んでいる貴方が、色崎真里や色崎太陽と接触しているのなら、どうか騙されないでほしい。


 彼らは、貴方をただの道具としてしか見ていない。


 最後に、きいろのことを話そうと思う。

 彼女は僕の半身だ。唯一の心の支えだ。親友であり、家族であり、僕が世界で一番気を許している人間だ。

 もし僕がきいろより先に死んで、貴方がきいろを見つけてくれたのなら感謝する。どうか、きいろと協力して生きてほしい。


 動物がいるかは分からないが、罠をいくつか仕掛けておいた。明日は、食事にありつけることを願う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る