20××年4月11日

 昼間、瓦礫に埋まりかけた用水路を流れる汚水を発見した。


 遠くからでもアンモニア臭がするほど匂う。しかし、水分を多く含む液体であることには変わりない。

 焦ったのは、きいろが汚水を見るやいなや「わあ綺麗! これ絶対飲めるよ!」と言って汚水に両手を突っ込もうとしたことだ。

 脳がおかしくなっているとはいえ、何をしているんだ。


 すぐに止めたが、叩いてしまった。

 暴力は嫌いなのに、きいろを傷つけてしまった。深く反省している。が、きいろはけろっとしていた。


 僕たちはシェルター内や、建物の地下にあった道具を使い、飲み水の確保に成功。しかし、持って一日だけだろう。新たな水源を確保しなければ。


 夕刻。きいろが何かを見つけて走り出した。

 慌てて追いかけて見た光景は、今でも脳裏に焼き付いている。


 そこは、死体の山だった。


 爆弾によるものではない。恐らく、人の手による死体だ。頭が弾けているもの、胴体が捻じきれているものなど、悪趣味極まりない。

 もっと悪趣味なのは、それを彫刻と認識して突いたきいろだ。いや、悪趣味なのもそうだが、あまりにも哀れだった。

 きいろには、この死体の山が、シャボン玉を飛ばす綺麗な彫刻の宝山に見えるらしい。

 弾けているのは蛆虫で、シャボン玉はガスで膨らんだ死体の一部だ。


 僕はすぐに彼女を彼らから離し、手を合わせた。きいろは意味がわからないと首を傾げていたものの、素直に両手を合わせた。


 きいろは、壊れてしまった。


 僕がきいろを守らなければならない。



 その日の夜、きいろが泣いた。

 どうしてかは分からなかった。違うな。理由が多すぎて、どの理由なのかが分からなかった。

 …もう寝よう。


 今日調べた場所だ。活用してほしい。


<地図>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る