持ち主:色崎群青

20××年4月10日

 世界大戦が勃発してから1ヶ月。ついに—が飛来した。—は同時多発的に発射されたので、世界は滅んだと言っていいだろう。

 僕ときいろは、クズ共の作った高セキュリティのシェルターにいたおかげで助かったようだ。

 クズ共はミサイル開発のために政府に駆り出されているので、恐らく爆弾をくらって死んだ。ざまあみろ。

 世界は滅びてしまったが、僕は僕たちの他にも生存者がいると考えている。

 なので、僕たちが死んだ時、少しでも他の生存者の助けになればと、これを記録することにした。


 僕の名は色崎群青いろざきぐんじょう。性別は男。十三歳。この大戦で生き残った人間のうちの一人だ。

 もう一人の名前は、色崎きいろ。性別は女。僕と同年齢の、血の繋がらない兄弟。十年前から一緒にいる。


 シェルターの中から脱出した僕たちは、まずお互いが生きていることに驚き、安堵した。二人で生き残れるとは夢にも思っていなかったからだ。

 きいろが、「お前の血は何色だ? 黄色か? 青か?」と聞いてきたので、僕は「青色だ。お前は黄色いな」と答えた。

 これは、お互いの名前にまつわる合言葉のようなものである。

 …ここは書く必要がなかったかもしれないが、情報はいつ、どういう状況で役に立つか分からないので、記しておく。


 僕たちに目立った外傷はないが、きいろは大戦のストレスか、少し頭がおかしくなってしまった。

 この世界を異世界と言い張り、瓦礫と化したビルディングは白い神秘的な岩に見え、ドス黒い曇り空を晴れ渡った快晴と思っているらしい。ただ、寒さはきちんと感じられているようなので、そこだけは良かった。


 認識のずれは、今後の生命活動に関わる。しかし、真実を言えばきいろが壊れてしまうだろう。僕はきいろを壊したくない。

 なので、きいろの分まで、僕がこの状況を完璧に見極めてみせる。


 まず、状況はサバイバルだと見ていいだろう。サバイバルに最も重要なものは、飲み水、食料、寝床だ。中でも一番優先度の高い、水の確保をしようと思う。


 シェルター内の飲み水は、世界が滅ぶ一日前に底が尽きた。蛇口も使えなかった。

 外はビルの大半が消し飛び、1〜3メートルほどの瓦礫がゴロゴロ転がり、足の踏み場がなかった。

 僕たちは、コンビニ、公園、駅、スーパー、デパートなどを練り歩き、飲み水と食料を探した。どこもダメだった。

 川も干上がっている。


 これは、その時に記録した地図だ。役立てて欲しい。


<シェルターを中心とした簡易的な地図>


 図書館は勿論消し炭になっていたが、クズ共の所有していた書庫は無事だった。崩れかけているが、何か情報が手に入ればいいと思う。

 しかし、文献はドイツ語で読むことができなかった。クズ共は日本人だが、ドイツに恩師がおり、その影響で研究のほとんどをドイツ語で記録し、学会に提出する際に日本語に翻訳していると、聞いたことがある。

 こんなことなら、ドイツ語を習得していればよかった。

 書庫の位置は、地図中に記載している。もしこれを読んでいる貴方が、ドイツ語をわずかでも読めるようなら、行ってみてほしい。


 水の確保はできなかった。今日はシェルターで休息を取ることにする。

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