第25話
……だから、時差があったと言うのか。しかし、死んでいきなり他人の身体でも驚くだろうな……てか、こっちの世界に来た時、修羅場みたいな感じで逃げ出したかったんだよ……。
むしろ、あんな所で肉体を持って目覚めなかった自分にグッジョブ!と言いたい。
「不思議な力ってあるんだねー」
「そんな呑気な……」
願って、誰かを呼び寄せるなんて、どんな引き寄せだ。願うだけで引き寄せられるなんて、それどんな魔法だよ。
……魔法、なかったよな?この世界。ミニゲームでも魔法を使った記憶はないぞ。
というか、いくら身体を譲ると言われても……俺に心残りがあるとしても……。
「要らない」
俺は王子に目を合わせ、ハッキリと言い放った。
もう、あの状態で死ぬ王子ではないのだ。アニスを捕まえ、側近や護衛も自分の元から外した。後はアイとの関係性があるけれど、茉莉花の艶の件が出れば、そこも大丈夫だろう。
「それはアデライトの為にはならないだろう」
「っ!」
アイの名前を出されて、俺は思わず怯んだ。
俺の唯一心残りとなる相手だ……。このまま、この世界で消滅するのも悲しい。せめて親の顔くらい見たい。けれども、それが出来ないのであれば……否、出来たとしても……ここで生きるアイを残してきた事に後悔が生まれそうだ。
結局、俺はどっちの世界で終えようと、どちらも恋しんでしまう事になるのか。
「……僕の勝手な願いで呼び寄せた事は悪いと思っているんだよ?」
更に身体が透けた王子は、苦笑しながら、言った。
「あぁ、そろそろ時間かな。お詫びだと思ってもらったら良い。それに、僕の身体が生き延びる事は、国にとって助けとなることも本当だろう」
「どういう事だ?」
確かに、助けとなる人をと願ったとして俺が出来た事なんてほぼない。せいぜい浮遊していた程度だ。それでも、王子の身体だけでも生き延びる必要があるとは分からない。
「アデライトを手放す事によって政治バランスを保てなくなる。……二人で未来を見ていってくれれば、それで良いんだよ」
「はっ!?」
つまり、俺とアイに結婚しろと言ってるわけで!?……いや、確かに身体は王子のだけれど!?でも中身は俺で!
……それどういう状況!?何か色々と複雑すぎるんですけど!?
俺、自分の身体に嫉妬するってか!?いや王子の身体だけど!?複雑すぎる!
「あはははは!」
「……クソ王子……」
俺の状態を見て、お腹を抱えて笑う王子に悪態をつく。そんな事でしか抵抗出来ない自分がもどかしくもあるが……。
「アデライトが好きなんだろう?」
「っ!?」
言われて、自分の顔が熱くなったように感じた。まぁ、精神世界なので実際は赤くなっていないと思いたいのだが、王子がニヤニヤした顔でこちらを見てくるので、思わず顔を背けた。
俺は……アイが好き……なのか。
王子に言われて気が付くというか自覚をするという自分の情けなさに頭を抱えたくなったが、だからと言って王子の言う事を素直に聞いて身体を貰うという事も出来ない。
「……俺は第一王子ってガラでもないし、そもそも王族をやれる自信もない……だから……」
「アデライトは王子妃教育を完了しているし、第二王子が居るから立太子はそちらにさせれば良い」
俺の言い訳のような……でも事実、悩んでいる部分に対して、王子はサラリと問題解決となる提案をしてくる。
王子妃教育を終えているのか……それは……確かに色んな意味で王族がアデライトを手放すというのは痛手だろう。……王子妃教育の事なんてアイから聞いた覚えもないが。
まぁ言う必要もなかったんだろうな、と思えば、自分の中で納得できた。ゲームと関係ない事だし。
「私財は貯めてあるから、二人で隠居生活をおくれば良いよ」
更に追撃するかのように、王子は魅力的な発言をした。
身体だけでなく、お金も貰える上に権力と地位まである……。更に居ればアイと一緒に居られる……。
でも……しかし……と、否定的な言葉が頭の中を駆け巡る。そこまでしてもらって良いのか?良い話には裏があるとも言うし……。
「ていうか、本当に今更なんだよね……」
なかなか頷かない俺に、王子はため息をついた。
「実は、憑りついていたのは僕の方なんだけど……」
「……は?」
もう、脳内で理解しろという方が無理だ。
怒涛に過ぎて行った日々に、色々とネタバラシ的に聞かされても、もう考えたくもない。いっそ流されてる方がマシというものじゃないのかと。
「本当なら、君はすぐに僕の身体に入る筈だったんだけど、僕が弾いちゃったのかな?起きてから僕が動かしてたのは、ちゃんと憑りついていたからだけど」
何だそれ。何だかんだ言われた所で、全て結果論的にアイが断罪されなくて良かったね!としか思えない。もう何も考えたくない。
実は、とか。本来なら、とか。どうせ全て過ぎ去った過去で、今更過ぎる。
それに……ここまでくれば、引かれたレールに乗ってしまえば良いんじゃないだろうか……アイみたいに断罪ルートではないのなら。
……これが断罪ルートならご勘弁願いたい。
「そんなんじゃないよー」
仮に憑りついたのが王子だったとして、それを悪いと微塵も感じさせない。むしろ悪びれもなく笑っているのが清々しいというか……。
「……色々悩んでいるのが馬鹿らしくなる」
「それでいいと思うよ。どうせ変えられないなら受け入れるしかないでしょう」
その言葉は、スッと自分の心に入ってきた。
過去はどうせ変えられないし、そうなってしまっているものは仕方ない。
……要らないとか、返すとか言ったところで、それが出来ないという事で……俺がただ感情的に固辞しているだけだ。
「僕は消える。僕の身体は君のもの。それだけなんだから……」
時間なのか、王子の身体が更に透けていった……。
消える……消えるとは、こういう事なのか。
今まで自分自身がその瀬戸際に居たからか、変な恐怖が沸き起こると共に……一切悔いのないような顔をしている王子に安堵する気持ちもある。
「ただ、それから先の選択をどうするかは、君自身だよ……斗真」
正論で頭を殴られたような感覚だ。
そうだ……王族になって選択するというのは、前世以上の事だろう……。
「……隠居するし」
俺がそう言えば、それでいいと言わんばかりに王子は満面の笑みで消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。