第22話

 え、もうそんな怒れる内容なの?あのゲーム。まぁ作り話だから仕方ないにしても、現実に適用したら、こんな大問題しかないわけ?

 ……楽しめたら良いユーザー的には、どうでも良い事だけど。こうしてリアルで体感してるこっちとしては困る以外の何物でもないか。


『本当に僕の事なのか?……僕の事だとしたら、尚更情けなさ過ぎる。馬鹿どころかクズも良いところだ。いや、クズに失礼だ』

『……そこまで』


 自己価値が激しく落ちているような発言をする王子だが、それは視野が広く、盤面も正しく見れている状態だからだろう。


『……だからこその、精神影響か?君が言うところの強制力のような……』

『まぁ、そういう感じですかね。そういった協力なアイテムが茉莉花の艶でもありますし』

『そしてアニスもそのゲームを知っていると……』

『確実に。日本語で書かれたメモとかもありますからね』


 身体が震える。王子が怒りで震えているのだろう。手の平に痛みが走り、何だと思えば、王子が握り締めていた。

 ……痛みまでも共有しなくて良いと思う……。


『……茉莉花の艶がどういったものか知っているか?』

『いや……違法である事は聞いたけれど……』


 落ち着くように王子が一気に紅茶を飲み干し、自らポットに手をかけて追加を注ぐ。


『茉莉花は愛らしい、温和という意味以外に……従順、好色と言った意味もある』

『げっ!』


 高校生に何を言う!まだ成人してないんだぞ!と心で突っ込みながら、自分が表に出ていたら顔は真っ赤にしているだろう。

 何その媚薬みたいな!魅了みたいな!夜の世界的な意味合い!!

 つまり、課金アイテムってそういう事!?課金してアイテム使ったら、大人の世界に入るようなゲームだったのか!?


『まぁ……そういう事だ』


 俺が脳内でパニックを起こしていると、それを全て肯定するよう王子は言った。


 そもそも王族は種馬の如く、その血筋をバラまいたりはしないと。それこそ王位継承権の問題などで国を揺るがしかねないと。

 それは王族だけでなく、貴族にも適用され、関係を持ったりしたら即婚姻とまで言われる程だそうだ。

 ……それほど、誰の子どもか分からなくなる事は防がなくてはならないという事か。

 世襲制って大変だな……生まれから育ちまで全て必要なのか。

 昔の日本もそういう所があったようで、まだ残っていたりするらしいが、それでも緩くはなっている気がする。


『それで……ブルーノやルネにもアイテムとやらはあるのか?』

『攻略自体簡単だったので、特にそんなアイテムがあるとは聞いた事がないなぁ……あるのかもしれないけど……』


 王子は残りの攻略対象の様子も気になるようで、顎に指をおいて考えながら伝えてきた。


『……それは簡単に惚れると……?』

『勉強頑張ってる素振りを見せればブルーノが。防衛の為に武術を学ぶ素振りをすればルネが』

『……素振り……』


 俺の言葉に王子は頭を抱えだした。……別にテストで良い点とれとか、何かの武術大会で優勝しろとかもなかったし、ミニゲームはあったけれど結果は特に関係なかったもんな……。何となく勝ちたかったから俺は頑張ってただけで。


『人選を間違えた……それとも決められた結果だったのか……』


 あー……王子自ら、側近と護衛を選んでいたのか……。まぁ、ゲーム通りに進まされたとしか俺は思わないけれど、自分で選んだという自覚があるのであれば、それは後悔にしかならないよな……。

 もう、本当にご愁傷様としか言いようがない。

 王子がいら立っている事は、何故か感覚で分かる。ゲームの事は一通り話したし、どうするかなと大きくため息をつけば、ちょうど良いタイミングでノックの音が聞こえた。


「殿下、よろしいでしょうか」

「あぁ、入れ」


 あの声は、確か宰相とか言う人だったよな。

 王子の声に扉が開くと、宰相が紙の束を持って入ってきた。


「こちらの確認を……それとアニスの件ですが……」


 宰相の言葉に王子は向かいの席を進める。それに答えて宰相は、テーブルの上に書類を置いて全てを口頭でも確認のように伝えながら王子に渡していく。

 それは全て、アニスの行動証拠や証言だった。


『すげぇ……早い』


 宰相や王子が意見を交わし合う中、俺は驚きに呆けている事しか出来ない。

 アイと二人、考えてきた事なのに、王子がやるとここまですぐ証拠が集まるのかと。

 権力や金の力……それと、大人の力かな?子ども二人が何とかしようとしても、やはり限界というものがあるのかと思い知らされる。






 俺がゲームの知識を伝え、王子が指示をし、周囲が動き、徐々に集まる証拠。……一体、どうやってヒロイン宅の家宅捜索みたいな事も出来たんでしょうね?

 一字一句間違いなく日本語を書き写してきたという人には脱帽だわ……。こんな面倒な文字、よく書いてきたな……。それを伝え、翻訳したものを王子が書くのも、また手間だったと思われるが。

 そんな日々を過ごしていたら、俺は、たまに王子が動いているのか自分が動いているのか分からなくなる時があった。


『こわっ!』

『いや、慣れて?』

『なんで!?』


 今、身体が動いたのは、自分の意思というか無意識でというか……。

 そのうち、王子の幼い時に体験した記憶のようなものまでも感じるようになってきた。


『一体化してない!?』

『既にしてるようなものだと思うけど?』

『そうだけど違う!』


 自分が自分じゃないような、でも自分なんだという、よく分からない感覚。自分じゃなくなるようだけれど、自我はハッキリしているというか……。

 人の記憶や感情が流れてくるってのは、とてつもなく気持ち悪い。

 同情とか同調とか、そういうのに近いけれど、全然違うような……言葉に言い表せられないもどかしさ。

 その度に俺が声をあげるが、王子は全く気にしていないようだ。普通、自分の記憶が除かれてるような事になったら嫌じゃないか?俺なら羞恥心でどっかに閉じこもりそうだ。


『アイに会いたい……』


 心配しているだろうアイを思えば、どうしてるのかと気になる。

 ずっと王子の身体に居るし、王子は学園に行く事がないから、アイの様子は全く分からない。たまに報告書があがってくるけれど、学園で問題なしとか、家でも問題なしという程度だ。

 ……アイの事だから、強がって見せているだけな気もする。

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