第14話
「そんなとこにアイテムが……危機感的にどうよ」
「むしろ、そんな所にアイテム配置する運営よ……でも、ゲーム内での描写はどうだったのかしら……よくヒロインは見つけられたわね」
この世界にネット環境なんてないのに、とお嬢様は後半ポツリと呟いた。
いや、前世ネット環境あった俺的には学生身分で課金出来ないから、調べて辿り着けた所で買えないんだけどな……と思ったり。
「まぁ、そんな場所だからこそ、違法取引や犯罪者の巣窟みたいになっているから立ち入り禁止になっているの。足を踏み入れる者は、もう犯罪者決定、と言われる程に」
「知っていて足を踏み入れるなら、とんでもない強者だぞ」
入るだけで犯罪者扱いされるなんて、それどうよ。子どもの遊びで罰ゲームに使おうものなら、一生消えない傷を負うぞ。むしろ命がけじゃないか。
「そして、そのアイテム……違法なの」
「どんなゲームやってたんだ俺達」
運営の思惑とは違うかもしれない。ゲームの中に入ってしまえば、都合を合わせる為になのか、裏設定なのか、よく分からないけれど知らない設定がどんどん出てくるってやつか。
「流通すらも禁止されていて……茉莉花には従順や好色という花言葉があって、それの艶というと……その……」
「名前の意味だけでも卑猥だと」
思わず俺も頭を抱えてしまった。フタを開ければ成人向けゲームなのかとさえ思いたくなる。
魅了とか催眠とか……とりあえず、よろしくないものが頭を巡る。
「なんて世界に転生したの……あのゲームは全年齢向けだった筈なのに……」
生きた年数を合わせれば、すでに30年を超えていそうなお嬢様でさえ、少し顔を赤らめている。それを言うならば俺なんてまだまだ思春期真っただ中だぞ!こんちくしょう!
立ち入り禁止の場所で、流通してはいけないアイテムの販売。それを手にするという事は……。
「ヒロイン、犯罪者コースまっしぐら」
「そうね……捕まえるしかないわね」
お嬢様の退場を回避するなら、ヒロインを捕まえるしかない……というか、犯罪行為を行うのであれば普通に捕まってしまえ。悪い事したら逮捕されるもんだ。
「ただ、そこへ衛兵を送るにしても確固たる証拠もないから難しいのよね……」
「証拠か……ヒロインの持ってる手帳くらい?」
「いえ、それだけじゃ言い逃れされるでしょう。現場を抑えないと」
うーんと考え込んだお嬢様。
日本の鑑定技術といったものは、この世界にないだろうしなぁと考えていると、お嬢様は名案だ!とばかりに驚愕の一言を放った。
「私が現場に行っておさえれば良いんだわ!」
「いやいやいや!治安が悪いって言うし、人が寄らない程に危険なんだろ!?」
「大丈夫!腕には自信があるわ!一週間程時間もあるし、剣の稽古をもっとすれば大丈夫よ!」
「色々大丈夫じゃない!主に俺が!」
証拠が固くないと動かないって……それでも見回り強化くらいしてくれないのか?いや、そもそも危険地帯だから見回り強化してるのか?確かに証拠がなければ動きにくいというのは、どこの世界も同じなのかもしれないが……お嬢様が動くのは反対だ。
ただでさえ筋トレや走り込みで大変な思いをしているんだ、俺が。それが乱闘?戦闘?になったら……。
思わず背筋がブルリと震える。
「それ以外に、もっと穏便な方法はないのか。もういっそアイテムを購入できないように邪魔すれば良いんじゃないのか!?」
「確実性がないもの。人に対して退場なんて言う人に遠慮してたら……私がどうなるか」
俺の声に、お嬢様は厳しい意見を返してくる。確かに、もう既に家名の問題は免れないだろう。ここまでやられてしまっては、穏便に……というのも難しいのかもしれない。しかし……だが……。
「反対!反対!絶対はんたーい!」
俺の反対の言葉なんて全く聞こえないといった風にお嬢様は鍛錬のメニューを書き出していく。その予定はびっしりだ。
アニスも本当に何て事をやってるんだ!穏便に済ませば良いものを!
お嬢様に憑いて鍛錬に付き合うか。
アニスに憑いてリア充撲滅を孤独感満載で願うのか。
何この究極ともいえる選択は!
というか、お嬢様の身に何かあった場合、俺どうなるの?
「そんな危険な事は、絶対に反対するー!」
俺は平和な日本人高校生だぞ。
もっと穏便に!もっと平和に!主に俺の為にも!
◇
「はぁああ!」
「もっと足を踏み込んで!」
「はい!」
「体重を乗せて!」
「はい!」
意識が浮上する。久しぶりに寝た~という感じなのだが、あまりにもうるさくて目が覚めた。
眼下には剣を握り稽古をするお嬢様……。稽古の相手をしているのは、公爵家の騎士だろうか。
お嬢様もお嬢様で、頑固というか何というか……まぁ命がかかってるもんなぁとは思うけれど……。
お嬢様といいアニスといい、平和な日本からの転生者なのかと思えてしまうのは、転生者としてこの世界で生きたか否かの違いなのだろうか。
「ありがとうございました!」
「いえ、お嬢様は筋が良いですね」
お、やっと終わったか。
これで一息つける……と思いきや。
「では頂いたメニューで走り込みと筋トレをしてきますね!」
「えぇええええええええ!!!????」
俺の絶叫なんて何のその。問答無用でお嬢様は走り出した。俺を引きずって。
「疲れた……」
グッタリと馬車の中で屍のように浮遊している俺を見て、お嬢様は開き直るように言った。
「だって生きたいもの」
「死んだ人間を前にしてよく言える……」
それでも生きてるなら生きようとは本能的に思うのは分かる。死にたいーなんて言葉で言っても、食べるし寝る。更に言うなら攻撃されれば避けるし逃げるだろう。
「……処刑というルートを辿る為に生まれたとは、思いたくないの……抗いたい」
悲しそうに眼を伏せてお嬢様が言った時、馬車は学園に到着したようで、止まった。
確かに、最初から自分の生きる道が決められている上、知っているのは自分の存在価値さえも見誤りそうだ。
人間、何をするのも選択の連続だと言うのは聞いた事がある。その選択によって未来が決まると……まぁ、それで学業よりもゲームを選んだ俺は、生きていたら一体どんな未来になっていたんだろうな……。
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