第12話
「課金アイテムって……好感度を上げるやつだろ?あれを手に入れるのって苦労するだろ」
「でも、ヒロインがそれを知っていたら……?」
「どんだけやりこんでるんだって話だぞ、このゲーム」
結構やりこんでいた幼馴染の愛だって、販売場所が特定できないと言っていたんだ。
王太子ルートが難しいからこその救済処置とされているが、値段はとてつもなく高い上に、湧きはランダム。しかも中々見つかりにくい所にあり、ネットでググってもなかなか特定できない程だ。
ネット内でも、そのアイテムを手に入れる事が出来たという書き込みは極稀で、それこそ世界に数枚しかないという某カードのスペシャルレアのような扱いだ。
湧きのランダム設定すら熟知していないと厳しいのではないか……。
「無課金の俺は、そんなアイテム使おうって気すら起きてないから、全然分からないぞ……」
「私は探していた覚えはあるんだけど……手に入れた事はないと思うわ……」
「そんな究極レアをヒロインが手に入れられると……?」
結局はそこに行きつくのだ。
「でも……万が一って事があるもの」
お嬢様は、手に入れる事がどれほど難しいアイテムかを理解しながらも、可能性がある以上は不安なのだろう。
しかし、ヒロインがアイテムを入手しているか……もしくは、これから入手するかなんて、四六時中見張っていないと出来ない芸当で……。
「あ、俺がヒロインを見張れば良いのか……?」
「え?何を言ってるの?」
ふいに俺が零した言葉に、お嬢様は眉間に皺をよせて怪訝な表情を見せている。
某アニメのあんたバカァ?って言葉が聞こえてきそうだ。
てか、そもそも話そうとして、ヒロインの爆弾発言で話をするのを忘れていた事に気が付く。
「話があったって言ってたじゃんか?」
「あ、そういえば……そうね。何だったの?」
お嬢様もすっかり忘れていたのか、顔をパッと上げて俺の方を真剣な表情で見る。こうやって聞く姿勢を持ってもらえると、きちんと話を聞いてくれるんだなと嬉しくなる。今は見事にお嬢様以外は俺を認識しておらず、絶賛スルーされ中だからこそ、余計だろう。
「何か俺、多分だけど、ヒロインと会った時にはヒロインの方へ憑けるっぽいんだよね。ヒロインと離れたら、そのままお嬢様の元へ強制送還されたけど」
サラッと言った俺の言葉に、お嬢様はこれでもかという程に口を開け、呆然としている。
「……は?」
「……ん?」
数秒経った後、お嬢様の喉から振り絞ったような声が出た。思わず聞き返した俺だが、その後、お嬢様の絶叫が響いた。
「だったら監視でもして私を助けてよーーーーー!!!!!」
鼓膜、ない筈なのに、破れるのかと思った。
勿論、驚いたメイドさんや騎士っぽい人が雪崩こんできたのは言うまでもない。
◇
「リア充爆発しろ」
翌朝、とっとと学園へ向かうお嬢様は、すぐさまヒロインを見つけると、行け!と言わんばかりの目つきで俺を見て来た。
……そりゃ命とか家名に関わりますもんね……生活ありますもん……。俺だって両親居なくなって~とかになったら焦るからな……いや、もう死んでるけど。生きている時ならね?当然焦るでしょ。まだ学生だったわけだし。
だから、お嬢様の気持ちは分かる……分かるんだけど……。
「リア充滅しろ」
昼休みになり、ただただ目の前で繰り広げられる乙女ゲームの世界……というより、両手に男。それに甘える女。いちゃいちゃらぶらぶとハートが飛び交っているような光景を見ていなければいけないって、一体どういう拷問だろう。
こういうシーンはゲームの中だけで良い……リアル目の前で見たくない。もういっそゲームがやりたい……なんでこの世界にはゲームがないんだ……いや、俺幽霊だったから出来ないか……くそっ!
「それにしても……こいつらには嫉妬とか独占欲とかないのか?」
ヒロインと仲良くする男二人。気に入らないとか、そういう感情は湧かないのだろうか。……俺なら遠慮して遠ざかる気はするが……こういう修羅場になりそうなのは二次元だけで充分なんだよ。
無駄に緊張でドキドキしながら、ヒロインから離れないように気を付けて観察する。……もう観察したくないけど。ギブアップしたい……。
「やーっと離れたぁ!」
予鈴の鐘が鳴り、二人と別れたヒロイン。このまま授業かと思いきや、教室とは全く別の方向へ向かう。
「サボリか。不良め」
と言いつつも、ゲーム発売日やゲームしたいからとサボる事があった俺は、ただのオタク的な引きこもりだと思える。……ゲームで徹夜しての欠席?普通にサボるよりきっと不健康的だ!だけど不良になったわけではないから道徳的には良し!いや、ごめんなさい。
生きていた時の懺悔を頭の中で繰り広げつつも反省はせず、ヒロインの後を追いかける。……こうしていると、ただ引きずられて憑いて行っていただけというのは、しんどくもあるが楽でもあった気がする。
どこまで行くんだと思っていれば、ヒロインは目につかない校舎裏の木陰に座り、ノートを取り出した。
「えーっと、ブルーノには甘い物を差し入れて……ルネにはサッパリしたものだったよね」
言いながら、ノートのメモに目を通し、必要な所は更に書き込みを入れているようだ。
認識されていないから、横から堂々と覗き込めば、それは手帳のようなもので、びっしりと日本語でメモが書き込まれていた。
ドン引きである。
……もう一度言おう、ドン引きである。
大事な事なので、もっかい頭の中で繰り返して良い?……ドン引きだ。
「……どんだけ、やりこんだんだ、こいつ……」
手帳には、最短ルートだと思われる攻略方法の他、攻略対象とのデートだけに飽き足らず、欲しい物リストや他の令息とのデート予定まで書きこまれている……。
もうこれは手帳じゃない。欲望ノートだと言っても過言ではない。せめてゲームの攻略だけなら、おぉ!同士よ!と思えたかもしれないが、もはやこれは違う。
ビッチまっしぐらなヒロインにドン引きしかない。
「よっし!武術イベントの為に鍛錬と、図書館イベントの為に勉強よ!」
それ、まだ先のイベントじゃないのか?と思いながらも、攻略の為に先読みして動くのは素晴らしい事だと思う。……欲しい物リストと他の男と遊ぶという事がなければ。
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