第11話
「ルート的には王太子ルートをヒロインは選んでいる感じか……あれ?でも」
「……虐めてはいないからね……」
王太子ルートに突入するのであれば、悪役令嬢からの虐めは必須だ。むしろ、それを怠った事がシナリオ改変に繋がるのか……?よく分からない。
「他のルートも攻略してるのかもしれないと思いながら……階段イベントがあったのよ」
「あっ!」
お嬢様の言葉で思い出した。
悪役令嬢とヒロインが口論の末、ヒロインが階段から落ちるイベントがあった!……あれ?でもお嬢様は嫌がらせをしていないのであれば、口論も発生しないのでは……。
「嫌がらせを止めて下さいと言われたわ……」
「ホワイ?」
思わず変な声が出た。お嬢様はそんなの気にしてないのか、気にする余裕がないのか頭を抱えている。
「どうやら小さな嫌がらせはされてたらしく、それを私だと思っているようだったの……」
「あー……」
本当に、もう小説の世界かと言いたい。
「でも、会わないようにしてたんだろ?」
嫌がらせをお嬢様と断言するのも変だし、そもそも何故、階段で出会うのか……。
俺の疑問に気が付いたのか、お嬢様は更に深くため息をついた。
「ヒロインが転生者で、何とかシナリオを戻そうとしているんだと思うし……階段も……私、教師に呼ばれてお手伝いしに行く所だったのよね……そこ、通り道なの」
「うっわ。まさか先手を打っていたようなやつか」
「ありえるでしょう……」
教師がお嬢様に手伝いを言うように手回しした上、待ち伏せ……ストーカーか!と思わず鳥肌が立った。身体はないが、背筋が凍りそうな感覚はある。
「それで、ヒロインが落ちて、お嬢様が落としたー!と?」
「いや違うの……咄嗟にヒロインを庇って私が落ちそうに……」
今度は俺が頭を抱えた。
うん、毎朝あれだけ訓練しているお嬢様だ。その瞬発力も早いだろう。咄嗟に動いたのであれば、十分ヒロインを庇う事は出来そうだ。
ていうか、ヒロインはお嬢様を待ち伏せして、一方的に罪を擦り付けて、自分で落ちようとしたって事か?怖いんですけどー!?めっちゃ怖いんですけどー!?リアルでそんな子居たら、絶賛彼女募集中でも近づくのさえ遠慮したい程怖いんですけどー!?あ、現実だったっけ、ここ。幽霊で良かった……。
「……声に出してるからね?怖いのは私も同意するからね?」
思わず声に出していたようだ。
いやだって、本当に怖いだろ。マジで存在しているという恐怖感、とてつもないよ。
「で、お嬢様が落ちた……ていうか、受け身してそう」
「いや……その…………殿下がたまたま通りかかって…………私を庇って落ちて、昏睡状態に」
「いや、それ頭打ったって事!?そこはお嬢様が落ちて受け身とっておく方が良かったのでは!?」
「私だって予想外で!本来であればそうしたかったわよ!」
受け身取る自身はあると。じゃなくて!
ゲームでも、その場に王子は来る事がなく、むしろ保健室へ運ばれたヒロインの元へ駆けつけるシナリオだった筈!……確かに予想外だ。
「普通、嫌ってある相手、庇う?」
「お嬢様だって打算的というより、咄嗟にヒロインを庇ったんだろ?」
「……そうだけど……」
嫌っているという点も含めたら、更に庇うなんて予想外だ。
と言う事は、王子が昏睡状態になったのは、お嬢様が階段から突き落としたわけではなく、お嬢様を庇ったからで……。
「それを変に広められたという事か……。その場には、他に人は?」
「バアラ侯爵令息とオーリー子爵令息……あ、側近と護衛ね」
俺が名前を憶えていないと予測して、お嬢様はちゃんと付け足してくれた。ありがたい。
「あの二人は……完全にヒロイン側だなぁ……」
「目撃者でも、噂の訂正はしないでしょうね……」
「すでにそれ自体、反逆に近いんじゃないか?」
「ヒロインに盲目的ですもの……むしろ、事実がどうとかよりも、こんな噂がたってしまった事自体がランデー公爵家にとって醜聞だわ……」
浅はかというか、何というか……ヒロインが正しいと、二人なら記憶を勝手に改ざんしてるのでは?とさえ思えてしまう。
王子の側近や護衛の立場で、王子に対する状態の噂を放置してしまうなんて、とんでもない事じゃないかと第三者の視点では思えるのだが……。
お嬢様は家の醜聞になる事が余程こたえているのか、真っ青な顔で胃を抑えながら溜息をついている。まぁ……これは本当に大変な事……なのか。現代日本人の俺には、あまり理解はできないが。
「とりあえず、階段でのイベントがあった後、王太子はヒロインを守るよう、更に一緒に居るよな」
「そうね。悪役令嬢は虐めをするにも、なかなかヒロインに近づけない状態で……」
「しばらくは好感度を上げる事に必死となるのと、ミニゲームとかが満載だったよなぁ……」
「王太子とヒロインが一緒に居なくて、悪役令嬢が居なくなる……どちらにしろ好感度を上げる事に必死となるけど……」
「断罪イベントを前倒しにしたところで、王太子との好感度上げは難しいんじゃないか?」
「この噂が決定的な悪役令嬢の断罪に繋がり、恩を売る……?」
「いや、目が覚めたら噂はデタラメだってのは、王子が一番よく分かってるだろ」
「このまま殿下が目覚めるのを待っている間に退場なんてのは嫌よ……」
うーん。と二人して唸る。
ポンポンと思った事を口に出して意見交換しているが、意見を出せば出す程、ヒロインが一体何を考えているのかが全く分からない。
ルートを思い出しながら考えても、悪役令嬢を今ここで退場させるメリットはなさそうだ。むしろ殿下が目覚めた時に、自分の首を絞めるんじゃないか?それは側近達も同じ事が言えるだろうし……。
「好感度上げするしかないけど、出来ないから先送り……か?」
「あ……課金アイテム」
先送りの処刑だったら嫌すぎるよな、と思いながら口にした時、お嬢様が思い出したように言った。
「課金アイテムなら……何をする事もなく、相手の状態も関係なく好感度を上げられるのでは!?だったら、私が退場してようと、起きた殿下はヒロインを庇うのは確定ではない!?」
これだ!と言わんばかりに立ち上がり叫ぶお嬢様だが、自分が言った言葉で今度は落ち込みながら静かに椅子へ座りなおした。
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