電車でよく見る女の子

蟹蒲鉾

電車でよく見る女の子

 大した特技も才能もない僕は、変わらない日々を送っていた。

 同じ家から出発して、同じ電車に乗って、同じ学校に通うようなつまらない毎日だった。僕も部活で活躍したり特殊能力で戦ったり事件に遭遇したいと思っていた。

 ただ、そんな毎日の中で変わらないで良かったと思うこともある。僕と同じ駅から電車に乗る他校のある女の子のことだ。良くも悪くもない中途半端な高校に通っている僕と違って、彼女は偏差値が県内トップクラスの高校に通っている。何を隠そう、僕は彼女のことが好きだ。

 最初はよく見る子だな、頭がいいんだろうなといった程度だった。毎日同じ通学路を使うのはもちろん僕だけではないので、そんなこともあるだろうと思っていた。それこそ、いつも隣に座ってくるおじさんみたいに。

 実際、彼女は頭が良かった。たまたま、目に入った彼女の模試の結果は、見たことがないくらい点数も順位も良かった。

 そのうえ、彼女は優しかった。当たり前のようにお年寄りや妊婦さんに席を譲っていたし、ベビーカーのなかの赤ちゃんに話しかけたり降りるのを手伝っていたりもした。その姿を見て、僕はだんだんと彼女に惹かれていった。

 たまに彼女は僕とも彼女とも違う制服の女の子と電車に乗ることがあった。かなり親しげなその女の子とは親友のような関係なのだと思う。親友の女の子と一緒にいる時にだけ見せる彼女の幸せそうな笑顔が僕は好きだった。

 親友の女の子は悪い噂の絶えない学校に通っていた。そんなところに通っている子と彼女が仲良くしているのが僕は気に入らなかったが、彼女の笑顔のためならば許すことができた。

 休日に偶然同じ車両に乗っていたときは運命さえ感じた。ついには僕の頭から彼女が消えることはひと時も無くなった。

 ある日、いつものように電車に乗った僕と彼女の目が合った。彼女は照れて、すぐに目をそらした。そんな彼女の横顔もかわいいなと思った。その日は帰りも同じ電車だった。

 次の日から彼女は毎日、親友の女の子と電車に乗るようになった。電車に乗っている間、ずっと小声で何か話していたのは恋バナだろうか。ちらちらと僕の方を見ることもあったから、僕のことを話していたのかもしれない。その頃から、彼女は髪型を変えて、マニキュアや薄いメイクをしてくるようになった。

 どんどん可愛くなっていく彼女から、僕は目が離せなくなった。

 夏休みに入って彼女と会えなくなってしまったときは寝込んでしまいそうになるほど寂しかった。彼女に会えないかと意味もなく電車に乗ってみたり、彼女の高校の前まで行ってみたりもした。結果、彼女と会うことは一度もなかった。

 夏休みが終わりに近づくにつれて、だんだんとテンションが上がっていった。彼女に会えるのが楽しみで、夜も眠れない日すらあった。夏休みが終わるのが楽しみな高校生なんてほとんどいないと思うと、特別感があって優越感を感じた。

 ついに夏休みが明け、僕は彼女に会えるのを楽しみに意気揚々と家を出た。

 駅のホームに着くと先に来ていた彼女が見えた。僕のテンションは最高潮になり、危うくスキップしてしまうところだった。

 僕が彼女に少しでも近づこうと歩みを進めたところで、彼女の隣に誰かがいるのが見えた。きっと親友の女の子だろうと思い、僕はさらに彼女に近づいた。

 彼女は知らない男と電車を待っていた。

 その時からの記憶がない。学校には行ったみたいだったけど、どうやって学校に行って、どうやって家に帰ったのか覚えていない。その日は家に帰っても魂が抜けたように過ごした。

 次の日から彼女は電車に乗らなくなった。代わりに駅に二人分の花が供えられた。

 これからは彼女のことをすっぱり忘れて、新しい人生を歩んでいこうと思う。

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