梅雨の蛙化現象

星多みん

彼は怒ると方言を使った

「梅雨の蛙化現象」


「うちの前のクラスは女子の比率が圧倒的に多くて二十二人中、二人しか男子がおらんかったちゃ」


 梅雨のじめっとした空気の道を歩きながら、彼は空がこれから悪くなると言うのに語り始めた。


「んで、その内の一人が私っちゃけど、すこし前の地元帰った時にクラスメイトとあって蛙化現象って懐かしいワードを聞いたっちゃ。それで中学の頃に付き合った一人の子を思い出してさ。その子はなんち言えばいいやか~

一個下の幼馴染みたいなもんやか。まぁ、幼い頃からお互いの親同士が仲良うしとってん。やからか、必然的に遊ぶことも少なくなくて、いつか海に行った時に恋してしまってさ。

やけど、知っての通りその頃から私は奥手やけん。なかなか告白出来んで、配信してた中学時にその子も配信してたのをキッカケに距離近くして、なんとか告白して付き合ったんやけども。結構拗らせていたからか、私はボディータッチとかしたくて。それがキモがられたみたいでな。そのまま自然消滅したって思ってたんよ。ここまでならただの失恋で、蛙化と関係ないんやけども。

数年後くらいかな、久しぶりに連絡あってから話し聞いてたら、ふとその時の話題になってん。そん時に蛙化って言われたんやけど、当時はよぉー分らんかったっちゃ。

やけん聞いてみたら『いままでは王子様に見えてた人も付き合った途端蛙に見える』っち。それがどうしても可笑しくて、でも中学の恋なんてそんなもんかって思ってたんよ」


 私の思った通りに曇り空は雨雲になると傘を差すのだが、彼の肩ははみ出て濡れており心配になりながらも話しを聞いていた。


「でも、少し前に聞いた話はな? 財布を出しただけ。水の飲み方。本のなおし方。青じみだらけの足。付き合うまえからなぁーんも変わったことしよらんのに、はらかいて文句言われて別れるらしいっちゃ。まぁ、真面目に聞いてなかったけん、多少の誇張はしとーかもやけど」


 彼はそう言うと、疲れたか分からないが立ち止まると「あぁ~あ。しかぶったみたいになったやんか」と一拍置いて言葉を続けた。


「そんなことはさておいて、きさんはそんな妄言は言わんよな?」


 彼がそう言うと呼応したように雷が鳴るので、私は思わず頷くのだが、彼は私の傘を取り上げて写真を見せてくる。その写真はどれもこれも私が二股掛けていた相手とのラインや、友人などに蛙化現象と言いながら彼の愚痴を送った内容だった。


「あっ、そう言えば私の方言って癖が強いし。混ざっとるか知らんけどこっちの人には分らんよな」


彼はそんな独り言を言うと、大きく息をついた。


「もう一回、今度はちゃんと標準語で言うからさ。お前も携帯なっとーの気にせんで、ちゃんと分かるような説明してな」

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梅雨の蛙化現象 星多みん @hositamin

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