第161話 一方通行
「それでは話を戻しましょう。奈月と合流するのは私としても異論はありません。問題は合流する方法がどちらかが見つけるしか方法がない事ですが」
れーくんならやろうと思えば私たちとすぐに合流できるはずですが、そうしていないという事は、あくまで日向奈月がやれる範囲で行動するという事なんでしょう。奈月は今後が大変でしょうね…独断で動いた理由も察しはつきますが、私たちに一言もなく勝手にやった事ですから思う存分苦労すれば良いでしょう。リスクとリターンが見合っているかは難しい所ですが。そもそも私たちでは助けにならないですし。
「適当な家でも燃やす?お家なら沢山あるし一つくらいなら問題ないと思うけど」
「それだと他の人たちも見に来るかもしれませんし、そもそも居場所が分からないので奈月の目に止まるかも分かりません。あまり目立つ行動は取りたくないですね」
「確かにそうだね。なっちゃんじゃなくて遥さんが来たら困っちゃうし」
「それなんですが、ありすがドリルを切ったと本人が言ってましたよね。つまり織田さんに勝ったんですか?」
あれだけの人数差を鎧袖一触、なにより風音さんを倒した織田遥さんを相手にありすが勝った?個人戦予選では私もありすも風音さんに負けているのに?現にこうして無事でいる以上そうなんでしょうが、一体どうやったんでしょうか。
「勝ったというよりは引き分け?惜敗?なのかなぁ。場所が平原だったのもあっていけるかなって襲ってみたんだけどね。返り討ちに遭っちゃったよ。ほらこれ」
そう言ってありすが取り出したのは棒のような物でした。これは…もしかして普段ありすの使っている大鎌の柄でしょうか。刃の部分が無くなってます。おいそれと壊れるような物ではないはずですが。
「織田さんに壊されちゃってさ。流石にこのままじゃ引き下がれないでしょ?れーくんは駄目って言ってたけど織田さん強いし良いかなって、これ使ったんだよね」
我ながらちょっと大人げなかったかな?と笑いながら髪留めからありすが取り出したのは漆黒の大鎌でした。一度だけ見せて貰った事がありますが、相変わらず凄い存在感ですね…使った所は見た事ありませんが。とはいえ、ありすのとっておきが今の奈月が使っている銃よりも劣るという事はまずないでしょう。
「つまり武器のお陰で勝てたという事ですか?ですがルール上問題ありませんし問題ないと思いますが」
そもそもルールなんてないようなものですし、使える物は何でも使うべきでしょう。
「そうなんだけどね。本来は使う気なかったんだよ。でも魂喰らう死神の大鎌・餐式が壊されるなんて思わないよね?それでカッとなってつい使っちゃったんだよ…れーくん怒るかな?」
「大丈夫じゃないですか?他に使える武器がなかったわけですし。そもそもありすを守る為のものなんですから、それがなければ負けていた事を考えると使わない方が怒られるのでは?」
心配しなくてもありすのした事なら大抵の事は笑って許してくれると思いますが。
「そうかな?でもやっぱりあんまり使いたくないんだよね。遥さんくらい強ければ遠慮なく使えるんだけどさ。最初から使うのは気が引けるっていうか…」
気が引ける、ですか。使える武器がそれしかないのなら仕方ないと思うのですが、ありすにとってはれーくんとの約束の方が大事でしょうし…考えが甘いと言えば甘いのでしょうが、命が懸かっているような状況ではないですしね。頭にきたからとはいえ一度は使ったのですから、負けるつもりがないなら追い込まれたら使うでしょう。
「無理強いはしませんよ。とはいえ奈月に任せてばかりでは面目が立ちませんし、それが分かっているなら問題ありません」
バトルロイヤルが終わった後はパンデモランドでそのままれーくんとデートですからね。本当は奈月になっていた事を知っていたとばらすわけですから、そうなると奈月が優勝した場合、そこを突かれてお願いが無難なものになってしまう可能性があります。その点ありすか私が優勝すれば何の問題もありませんが、可能性があるのはありすでしょう。今の私ではどうあがいても織田さんには勝てないでしょうし。そうなると私の役目はありすと奈月を合流させるまでの露払い的なものになりますね。このまま隠れてやり過ごすのが一番無難ではありますが…
「分かってるよ!なっちゃんも遥さんも倒して私かレナちゃんがドン勝だよ!!」
「ちなみにありすはどうしたいですか?私はこのまま隠れていればいいと思いますけど」
「それが一番いいんだろうけどさ、つまんなくない?」
「確かにつまらないですけど、のこのこ外を出歩いて見つかったらどうするんですか?れーくんの大鎌を使いたくないんでしょう?」
「それはそうだけど…いざとなったらさすがに使う…と思うよ、多分」
「外に出るにしても、せめて奈月の動向を知りたい所ですね。最後平原にいましたし、放っておいても目立つでしょうから居場所が分かるかもしれません」
「その辺はレナちゃんに任せるよ。でもじっとしてると暇なんだよね」
「良いじゃないですか。れーくんの好きな引き籠りですよ」
「そうだけど。でもれーくんは引き籠りというより、だらけるのが好きなだけだよね」
「確かに…普通に会話出来ますし外出もしますし。引き籠りというよりは面倒くさがりなだけですよね」
「そうそう、でもそのお陰で
不意にガチャリとドアが開く音に会話が中断して、視線がそちらに誘導されます。スルッと小柄な何かが入り込んできました。一瞬奈月かと思いましたが、小さいだけで別人です。この人は…
「ふぅ…」
私たちが見ているのに気づかずに、家に入ってほっと一安心といった様子です。この人意外と抜けてますね。気持ちは分からないでもありませんが。移動するのって神経使いますからね。そこそこ建物がありますから誰かと遭遇するとは考え辛いというのもあるでしょうし。
「やっと一息付け…!?」
やっと私たちに気付いたようですね。先客がいると思わなかったのか目が合って固まっています。とはいえ赤の他人という訳ではないですし、そちらが問答無用で来るならともかく、こちらから今すぐどうこうしようとは思いませんが。
「こんにちは!」
ありすもありすで能天気に挨拶してますし。
「…こんにちは」
「こんな所で会うなんて凄い偶然だね。そんなに警戒しなくても襲ったりしないから安心してよ。それより良かったら色々お話ししようよ」
丁度いい暇つぶし相手が現れたと、にっこり笑顔のありすに毒気を抜かれたのか微妙な顔をしていますが、気持ちは分かりますよ。今は一応敵同士な訳ですし。
「星上さん…天月、さん」
「こんにちは、草薙さん。私たちとしても無暗に争う気はありませんので、よければゆっくりしていってください」
この場に今の奈月がいたら、こんにちは、死ね!とか嬉々としてやりそうですけどね。
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