第160話 分岐点
ありすはれーくんだと断言してますが、どうにも信じきれませんね。どこからどう見ても奈月にしか見えないのですが…いえ、ありすがれーくんに関して適当な事を言う訳ないでしょうからそうなんでしょうが。確かに奈月らしからぬ、れーくんらしい言動をしているのは確かです。奈月はあんな芝居がかった言い回しなんてしませんし万魔様を引き合いに出して脅すなんて事は絶対にしないでしょう。
それに戦い方が滅茶苦茶すぎます。後先考えずポンポンと魔法を好き放題に放ち、近接戦は楽し気に守るばかりで手は出さず、挙句の果てに上級魔法の直撃を受けても傷一つなく平然として自慢げに自身の技量をひけらかす。奈月なら絶対にしない事でしょう。言われてみれば確かに、あの言い回しや戦い方は北条の時のれーくんにそっくりです。どこか得意げなのはありすや私の魔崩剣同様、浪漫をお披露目出来てテンションが上がってるからでしょうか。私に魔法剣の事を語る時のれーくんもニコニコ饒舌でしたもんね。
とはいえ、この奈月がれーくんだと言った所で誰も信じないでしょう。見た目も声も奈月そのもの。それなりに長い時間一緒にいる私やありすでも普通に接している分には気付けませんでしたし。私だってありす以外の誰かに言われたとしたらろくに耳を貸さなかったでしょう。奈月の言動はれーくんを真似て拗らせたのかなと思っていたくらいですし。どちらにせよ今の奈月は非常に頼れる存在という事に変わりはありません。それを踏まえた上で優勝を目指すべきでしょうね。
「奈月の件に関しては一先ず置いておきましょう。それで今後どうするか、ですが」
「れ奈っちゃん?とも合流した方がいいと思うけど、場所が分かんないよね」
「ありす、それだと私になるんですが」
「えへへ、ごめんごめん。あれは奈っちゃん、あれは奈っちゃん…よし!奈っちゃんと合流した方がいいと私は思うんだけど、場所が分かんないよね」
大丈夫でしょうか?直接会ったらボロが出そうで怖いですね…ここは一つ釘をさしておくべきでしょう。いつまでもカメラを外したままにもしておけませんし。
「ありす、忠告しておきます。仮にこの奈月の正体がれーくんだと世間にバレるとしたら、それは間違いなくあなたの不用意な発言からです。そして世間にバレた場合、あなたはれーくんから蛇蝎の如く嫌われるでしょう。それこそもう二度と顔を見たくないと思われるくらいには」
「そんな!?れーくんは絶対に私を嫌ったりしないよ!!」
「今まではそうですし、これからもそうかもしれません。しかし今回に関しては例外です。なぜれーくんがありすに黙って奈月に変身しているのか。それはありすならやらかすと思ったからです。つまりありすは信用されていないという事になります。そんな状況で勝手に正体に気付いて勝手にれーくん呼びして正体をばらしたらどうなると思いますか?」
「えっと…凄く怒られる?」
「どころではないでしょうね。良いですかありす。れーくんのやっている事は世間一般的に見て特級の変態案件です。他人に完全に成り済ます。それも性別関係なく。こんな事が世間に知れたら大騒ぎじゃ済みませんよ?他人に完璧に成り済ます事が出来る。つまり完全犯罪し放題という事です。それはつまり、ありすになって手当たり次第男と付き合う事も可能という事です」
「そんな!?私はれーくん一筋だよ!!」
「この事がバレれば、れーくんに関わった人たちは自分の偽者が何かやらかすかもしれない潜在的恐怖を抱えながら日々を過ごす事になるでしょう。そしてそんな状況にいつまでも耐えられる程、人の精神は強くありません」
……れーくんがそっち方面に関心が薄いのは、もしやそういう事なんでしょうか。普段から私になっていかがわしい事をしていたという事なんでしょうか!?…さすがに後で確認する必要がありますね。もしそんな事を態々一人でしているというのならそれこそ私がお手伝いする分にはなんら問題がないわけですし…
「れーくんはわざわざ他人に化けてそんなことしないよ!」
「それはありすだから言える事であって、他の人がそう思うかは別問題です。どうやらありすは危機感が足りてませんね…あえて分かりやすく言ってあげましょう。良いですか?この事が世間にバレた場合、れーくんは女装趣味のある変態さんというレッテルを貼られることになります。しかも身近な女性に変装するというド級の変態さんです。そうなるとどうなると思いますか?もうありすはれーくんと一緒に外出することは出来なくなるでしょう。何故ならありすと一緒に外出しようものなら、その隣にいるのがれーくんではと誰もが疑ってしまうからです。そして世間の好奇の目に晒された結果、れーくんは完全にお家に引き籠るでしょう。しかもその引き籠りは今までのように好き勝手に過ごす類の引き籠りではありませんよ?完全に世間との関りを断絶する引き籠りです。そんなれーくんに対してありすはきっといつも通りに接しようとするでしょうが、こんな状況になったのはありすのせいです。れーくんはありすに辛く当たるでしょう。その内話すのも顔を見るのも嫌になり、同じ場所にいるのも同じ空気を吸うのも耐えられなくなり、人知れずどこかに消えてしまうでしょうね」
「い、いやぁぁぁあああああ!!!無理だよレナちゃん!!私そんなの耐えられないよぉぉおお!!!」
「そうでしょう?ですからありす。天獄杯バトルロイヤルに参加している奈月は奈月なんです。奈っちゃんなんです。あなたの言葉一つで、あなたのこれからのれーくんとの人生が180度変わります。ここが天月ありすの、れーくんと一緒に居られるかどうかの分岐点と言っても過言ではないでしょう。普段通りれーくん呼びして捨てられるか、奈っちゃん呼びして、後でありすはやれば出来る子なんだねと、れーくんに褒められるのか。選ぶのはあなたですよ」
「そんなの決まってるよ!私は奈っちゃんをなっちゃん呼びして、後でなでなでされる事を選ぶよ!!」
なでなでされるかは分かりませんが、これなら多分大丈夫ですね。私もなでなでしてもらえる働きをしたと言えるのではないでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます