第158話 考えて行動しましょう

 まじか…何をどうやったらアレを使う事になるのか。真っ黒というからにはまあ間違いなくアレだろう。そもそも大鎌なんてあーちゃんしか持ってないし、そこに言及している以上、少なくともこいつはあーちゃんの戦いを見たのは間違いない。もしかして本当に本物なのか?ドリルがないから分かんねえよ。


 …まあいいか。こいつが本物でも偽物でも俺には関係ないし。今はこんな奴よりもなっちゃんを不当に貶めた野郎どもへの断罪が優先だ。いくら小っちゃくて胸がないからと言って、なっちゃんを軽んじる者を俺は許さない。なっちゃんは将来GUN道を究めし唯一のNSCの体現者となる存在なのだ。そんな選ばれし愛されはむすたあの差し伸べた手を拒否して恥をかかせた事、後悔させる以上に重要な事など存在しようか、いや、ない!!


「委員長、その偽物は任せる。わたしはこの男共に用がある」


「ちょっと!?ですから私は本物だと言っているでしょう!」


「言ったはず。ドリルのない織田遥など織田遥ではない、と。本物だろうが偽物だろうがドリルがない以上紛い物。万魔様が狐耳と尻尾がなければ可愛いのじゃロリでしかないように、ドリルがない織田遥など雌豚でしかない」


「奈月さん!万魔様はどのような姿であろうと万魔様です!流石にその発言は見過ごせませんよ!」


「はぁ…あなた達は何も分かっていない。万魔様がどれだけ偉大だろうと、可愛いけもっ娘である事は揺るぎない事実。そうやって勝手に神格化して盲目的に畏敬に伏す事しかしないから本質を見誤る。万魔様にも歌って踊れるけもっ娘アイドルを目指していた時期があったはず。将来の夢は可愛いお嫁さん、美味しいケーキ屋さんだったかもしれない。だけどあなた達万生教は、万魔様の為なら何でもやると息巻いておきながら、万魔様に自らの理想を押し付け、そんな小さな少女の小さな夢を無慈悲に摘み取って来た事実を忘れない方が良い」


「なっ…私は…私たちは決してそのような…」


「分かっている。あなた達が純粋に万魔様を慕っていることも、そして万魔様もそれが分かっているからこそあなた達と共にいる。だけど身勝手で一方通行な想いは、それが善意だろうと向けた相手を傷つける事もあると知っておいた方が良い。憧れは理解と最もかけ離れた感情。万魔様だからと思考停止し続けて敬っているだけでは、いずれ愛想を尽かされる」


 とりあえず俺はこいつらに愛想が尽きたからな!容赦はしないぜ!!


「奈月さん…だからあなたは万魔様の御友人などとおっしゃったのですか?不甲斐ない私たちに出来なかった事をやって下さると。万魔様の孤独を埋める一助となって下さると」


 いや、あれはつい調子に乗っちゃっただけなんだが。思いのほか反応が過激で、楽しくて煽っちゃったんだよね。そもそも小雪ちゃんがどう思ってるかなんて俺が知るわけないじゃん。まあでも様付けされてちやほやヨイショされて何でもイエスマンなのは俺でもウザく感じるんだから、数百年単位でされてる小雪ちゃんもウザいんじゃないかな。もうその辺の感覚が摩耗してるかもしれないけどさ。


「奈月さん…いえ、奈月様。この八車風音、感服いたしました。流石は万魔央様と共にある御方。私たち万生教徒と万魔様の関係にまで心を砕いて下さるとは…!!私ども、もすぐに変われるとは申せませんが、今一度、万魔様の為にどうあるべきなのか皆で考えてみようと思います」


 え、いや、別に今まで通りでいいんじゃない?小雪ちゃんも本当に嫌なら嫌って言うと思うし。


「奈月様の御下命、万生教万魔十傑衆第八席、八車風音がしかと拝命致しました。この織田遥を名乗る不届き者の対処は私にお任せくださいませ。奈月様はどうぞご自身の為されたい事を為されますよう」


 そういう慇懃な態度がダメなんじゃないかなぁって俺は思うんだよね。矢車さんはなっちゃんと友達なんだし、友達に急にそんな態度取られたら割とドン引きだよ?というか矢車さんが万魔十傑衆なんて初めて知ったんだけど…なんでそんな肩書持ってるような娘が探学で学生なんてしてるんだよ。無常さんもこっちにいるし、もしかして以外と暇なのかな?名誉窓際職みたいな感じ?あ、もしかしたら俺が天獄郷襲撃した時の懲罰人事とか?


 あり得るな…無常さんは責任感強いし、自ら志願したとか言ってたけど、流石にそれが建前だってのは俺でもわかる。矢車さんもそういう感じなのかな?だとしたら悪い事をしたな。無常さんはレナちゃんの為にいてもらわないと駄目だからな、小雪ちゃんに掛け合って矢車さんだけでも天獄郷に戻す様にお願いしておこう。とりあえずこの何だか分からない状況をさっさと終わらせてしまおう。


「分かった。そこでボケっとしている野郎ども、ありすとレナに会いたいのならわたしについてこい」


 天より垂らされた蜘蛛の糸に縋る哀れな亡者たちよ。俺がその糸断ち切ってくれるわ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「まさか万魔様が歌って踊れるアイドルを目指されていたなどと…お恥ずかしながら、我ら万生教一同、全く気付くことすら出来ませんでした、お許しください!!」


(事実無根なんじゃが…)


「私も万生教徒として恥じ入るばかりです!万魔様のお気持ちを考えもせず、赤ちゃんの様にただひたすら敬いお慕いしていただけ。穴があったら入りたいです!!」


(放送席に頭をぐりぐりされても困るんじゃが…)


「今年の黒巫女大感謝祭は中止、万魔様の為のコンサートに致します!!思う存分歌って踊ってくださいませ!!全ての万生教徒に召集を掛けましょう!!」


「我々万生教徒一同、全力で応援致します!古今東西類を見ない、史上最大の万魔様オンステージにしてみせますので!!万魔様の神々しくも可愛らしいその御姿が、ステージを所狭しと飛び跳ねる…!!想像するだけで頭がフットーしそうです!!確かにナツキちゃんの言う通り、そんな万魔様の夢を図らずも潰した万生教の罪は重い、重すぎます!!皆さん、これからコンサートまで、毎日感謝のオタ芸ですよ!!」


(これ一体どうするんじゃ…隷人、お主責任取ってくれるんじゃろうな?)

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