第157話 致命探偵ナツキちゃん(偽)

 ふぅ…落ち着け俺。別にこいつらも悪気があって言ってるわけじゃないんだ。そう、単になっちゃんが一番じゃなかっただけの話。どこぞのブーメランの達人も言ってただろう。二番じゃ駄目なんですか?と。駄目じゃない、駄目じゃないんだが、本人が目の前にいるんだからさぁ。そこはあれでしょ。忖度しないと駄目でしょ。そうじゃなきゃドヤ顔で握手してやるなんて言った俺がピエロになっちゃうじゃん。なっちゃんが勘違い構ってちゃんみたいな感じになっちゃうじゃん。


 くそ、このままではなっちゃんの面子が丸つぶれだぞ…この場でこいつらを葬り去るのは簡単だが、それをやるとなっちゃんが相手にされない腹いせで暴れた事になりかねん。やってしまった事は仕方がないが、ここは一つ、被害を最小限に抑える為に行動すべきだろう。ようはこいつらの一番じゃなくて良かったねと思われる状況を作ればいいのだ。見ていて心配だろうが、安心してくれなっちゃん。俺は損切は得意なんだ。可及的速やかにこいつらを貶める事で、相対的になっちゃんの価値を高めてみせる!むしろこれでなっちゃんファンが増えて逆転大勝利だぜ!!


 その為にはとりあえずこのアレナちゃんねる過激派共を隔離しないとな。覚悟しろ。貴様らは一途であるが故に、一途であったが故に、空気を読まなかったが故に!これから凄惨な結末を迎えるのだ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「貴方達、一体何をしてますの?矢車風音は大人しくありすの居所を吐いたんですの?」


 非情なるバトルロワイヤル開催の為に動こうとした矢先、新たなる闖入者が現れた。何人かの取り巻き男を引き連れて現れたのは、肩口でばっさり切った金髪ミディアムボブの女の子。野郎連中の中に一人君臨するその存在感は中々のもの。はは~ん、これはあれか。いわゆる一種の姫プレイってやつか?オタサーの姫みたいな?ちょっと気の強そうな顔してるけどかなりの美人さんだし、男ウケする体型してやがる。


 なるほどね、そういう事か。そりゃ握手くらいじゃ見向きもされないわけだ。トータルバランスで負けているとは思わないが、如何せんどことは言わないが戦力差が絶望的すぎる。あちらがスイカだとしたらこちらはさくらんぼ。比較するのも烏滸がましい。けしからん、実にけしからん。そして何よりこの野郎ども。あーちゃんファンでありながら他の女に現を抜かすとは…その腐った性根、やはり浄化せねばならんようだな!最早これはなっちゃんだけの戦いに非ず。持つ者と持たざる者の生存戦争だ!!


 ふむん!と持たざる者代表として義憤に駆られる俺を余所に、オタ姫ちゃんと矢車さんの、持つ者同士が高みでぶつかりあう。


「姐御!来てくれたんですね!へっ、お前ら、姐御が来た以上もう今までの様にはいかねえぞ!!」


「姐御さえいれば、いかな矢車さんと言えどもちょちょいのちょいよ。観念するのも今の内だぜ!」


「姐御、あそこにいるのが矢車風音です。頑固な女でして、一向に口を割ろうとしません」


「ありすの居場所が分かると言うから、貴方たちの口車に敢えて乗ってあげたのですわ。これで無駄足だったら許しませんわよ」


「矢車風音が連絡手段を持っているのは確かです。僕たちでは聞きだせませんでしたが、そこは姐御の腕次第かと…」


「まあいいですわ。貴女が矢車風音さんですわね?私は織田遥ですわ。貴女が天月ありすと連絡が取れると聞いて、ここまでやってきましたの」


「織田遥さん、ですか?」


「嘘だっ!!」


「ど、どうしたんですか奈月さん?そんな大声出して」


「委員長、騙されてはいけない。こいつは嘘をついている」


「私を嘘つき呼ばわりなどと、誰かと思えば…貴女ですの日向奈月」


「ふん。わたしはあなたなんて知らない。気安く名前を呼ばないで」


「な!?あ、貴女…あれだけ私を雌豚だのと扱き下ろしておいて、知らないなどとよく言えましたわね!!」


「知らないものは知らない。ツン子、あなたは私を本物か疑ったけど、こういうのが偽物。見てすぐ分かる杜撰な変装、態度だけ真似ても本質が違えばこうも容易くバレるもの」


 俺とは大違いだな!!


「誰がツン子よ!でもそれを言ったらあなたの時と同じじゃない。織田遥を名乗るメリットなんてないでしょ?」


「メリットはある。こいつは自分の容姿を武器にして男共を手駒にしている。そこに織田遥のネームバリューを加味する事で、上手い事こき使っている」


「そんな事しませんわ!じ、自分の体を武器などと、なんて破廉恥な…私を何だと思ってるんですの!」

 

「ふん、自分で雌豚と名乗っておいて、どの口が言う」


「それはあなたが言ったんですわ!!」


「でも確かに、本物の織田遥さんなら自分の体を武器にして男を操るくらいはしそうですね…何せ天獄杯の行進前に大勢の前で自分が処


「わーわーわーですわー!!あれは星上レナの狡猾な罠に嵌まってしまっただけですわ!!私はそんな破廉恥ではないですわ!!」


「そこを全力で否定にかかるという事は、どうも本物っぽいですよ奈月さん」


 一体織田遥は何を言ったんだ?処?…いやまさかな。どんな理由があるにせよ、そんな事を大勢の前で言うような奴は立派な痴女だろうよ。


「委員長、騙されてはいけない。委員長がその事を知っているという事は、少なくとも二校の探学生は知っていることになる。何の証明にもならない」


「確かにそうですね。そもそも織田遥さんとありすさんに接点なんてその時くらいでしょうし」


「本当ですわよ?私とありすはお互いを認め合った親友ライバルと言っても過言ではありませんわ」


 こいつ…よりによってあーちゃんのライバルを騙るだと?どこの誰だか知らないがふざけた奴だな。織田遥の実力次第ではワンチャンあるかもしれないが…ライバルなんて言うからには、少なくともあーちゃんと良い勝負して生き残ったって事だろ?いや無理だろ、あーちゃんに勝てるわけないでしょ。あーちゃんが優勢なら見逃す理由なんてないだろうし、あーちゃんが劣勢でそれこそ脱落しそうな状況なら、それこそシマちゃんが大暴れして俺にも分かるはずだし。


 …何を目的にあーちゃんに近づこうとしてるかは分からないが、ここに俺がいたのが運の尽きだったな。織田遥の名前を騙ってる理由は…そうか!おそらくあーちゃんと織田遥が戦ったのは本当で、その戦いで織田遥は脱落しちゃったんだな。その現場をこいつがこっそり目撃してて、織田遥に成り済ます事を思いついたわけだ。そして唯一真贋の判断が出来るあーちゃんを亡き者にしようと必死に行方を捜してるわけか。


 そうか…織田遥は脱落したのか。大したことない奴だったんだな。あれだけでかい口叩くくらいだからちょっと楽しみにしてたんだが。となると最大の問題はいかにしてあーちゃんの優勝を阻止するか、だな…穏便にあーちゃんを脱落させるために織田遥を使うつもりだったんだが…こうなったらその役目、毛利恒之君に任せるしかないな!紗夜ちゃんと会わせてあげるとか言ったら愛のパワーでどうにか頑張ってくれないだろうか。


「奈月さん、どう思います?この人、こんな事言ってますけど」


「もうネタは上がっている。いつまで猿芝居をしているつもり?下手な推理小説の犯人でもここまで無様に自己弁護はしない」


「ほ、本物に自己弁護も何もないですわ!?私は正真正銘織田遥ですわ!!貴女こそ何を理由に私を偽者などと難癖付けてるんですの!!」


「知れた事。貴女にはドリルがない。ドリルが織田遥。ドリルのない織田遥などカツのないカツ丼、麺の入ってないラーメンみたいなもの」


 馬鹿だよなこいつ。これで騙される奴なんているわけねえだろ。むしろこれで騙されてるアレナちゃんねる過激派共が心配になるわ。お前ら一体どこ見てファンになってるんだ?全く…とてもじゃないが許せないぜ!!


「謎は全て解けた。この期に及んで見苦しい言い訳はいらない。大人しく正体を現せ」


「か…髪はありすに斬られたんですわっ!!真っ黒な大鎌で、それはもう綺麗さっぱりバッサリと!!!わ…私があの髪型を維持する為に、一体どれだけの年月と労力をかけていたと…!!!」


 ―――――――え?あーちゃんアレ使っちゃったの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る