第153話 汚名
新たな拠点に辿り着くまでの道中、今後の方針について考える事にする。まず拠点で待ち構えるという方針だが、これ自体は間違っていない。ただやり方がダメだったのだ。それをあの黒巫女候補ちゃん達が教えてくれた。地元に根付いた料理店や一見さんお断りの高級料亭じゃないんだ。ほっといても客が来るわけないんだよなぁ!
黒巫女候補ちゃん達は火柱を目印に合流したといっていた。そこから推察できる事は、このバトルフィールドにでっかくて目立つなにかは存在せず、目立つ何かがあればホイホイ釣られてやってくる奴が一定数存在するという事。
別にバトルロイヤルだからといって、コソコソしたり待ちに徹したりする必要はなかったのだ。探すのが面倒だから襲ってくれることを期待していたが、その心構えがダメだったのだ。そう、改めるべきは俺の思考。足りなかったのは攻めの姿勢。来ないなら来させればいいのだ。新規開店するお店が広告をバラまくように、誰の目にも分かるような目立ち方をすればそれなりの人数が寄ってくるのではなかろうか。とはいえ過剰な目立ち方は逆に相手に警戒心を与えるから注意する必要がある。
例えばもう一度火柱を上げたとしても、黒巫女候補ちゃん達は警戒して近寄ってこないだろう。毛利恒之は…正直面倒くさいからもう会いたくないんだよな。誰か倒してくれないかな。あいつと戦ってると俺が引き立て役になってる気がするんだよね。なにより一番の問題点はNSCが目立たない事だろう。悉く魔法を斬られるなど、まるであいつが俺より格上のようじゃないか。とてもじゃないが許せない。くそ、あんな奴は紗夜ちゃんにこっぴどく振られてしまえばいいんだ。その時はぴょんぴょん周りを飛び回って煽ってやるぜ。
NSCに関しても見直す必要があるかもしれない。当初の予定と違って銃というよりはロケット砲だし。無限ロケラン…それはそれで全然ありなんだが、むしろこれならガンブレードの方が良かったのでは?いや、なっちゃんには合わないか。なっちゃんにはあくまで二丁拳銃で頑張ってもらいたいが、臨機応変さも必要か。まあ今回は仕方ない。次の機会があれば二丁拳銃だけじゃなくてライフルやショットガンも用意して適宜対応出来るようにするべきだろうな。あくまで二丁拳銃は選択肢の一つにすぎないのだ。拘り過ぎて大事なものを見失ってはいけない。やはり実戦となると色々イレギュラーが発生するな。だがこうして改善点が見つかる事によってより理想に近づいていくと思えば悪い事ではない。なっちゃんのフルウェポン化は今後の課題にしよう。
まずは新しい拠点に着いた後、参加者をおびき寄せる方法を考えないとな。頻繁に火柱上がるような場所には誰も近寄ってこないだろうし…好奇心を刺激しつつ、来たくなるような演出が必要という事か。ふむ…看板でも立てるか?この先休憩所とか。いや、そんなので来たら世話ねぇよ。あからさまな罠じゃねえか。
やはり誰の目からでも分かるような、遠くからでも分かる目印が必要だな。火柱がダメなら花火とか?…良いかもしれないな。花火ならそこまで警戒心を抱かないだろう。むしろなにかのイベントが始まったと勘違いした馬鹿が大量に釣れるかもしれない。ワラワラと集まって来た間抜けな参加者を纏めてドバっと処分…ありだな。よし、とりあえず花火作戦で行こう!どでかい花火を打ち上げてやるぜ!!
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とっとこ歩いてようやく目的地に到着する。しかしここで想定外に見舞われた。俺の拠点が何者かに占拠されていたのだ。
「止まりなさい!」
森からひょっこり出てきた俺を見咎めた女の子が声を上げる。その声に反応して集まって来た子は全部で4人。こいつら一体ここで何を…は!?もしかして、目的は俺と同じということか?確かにトイレの有無は乙女の尊厳に直結する重大事項。つまりこいつらはトイレを守る為に共同戦線を張ってるという事か。
ふむ…同じ悩みを抱える者同士、親近感が沸いてくるな。ざっと見た感じ、違う探学の奴らも混じってるっぽいし、手を組む事は可能かもしれない。だがしかし、俺はなっちゃん(偽)なのだ。女の子の中に混じるのは色々ときつい。そもそも仲間なんて必要ないしな。仮に組んだとしても、どうせ最後には始末するんだから遅かれ早かれだし。他に面子はいないのかな?黒巫女候補ちゃん達相手に対少人数で遊んだし、出来ればもっと多人数が良いんだけど。
「貴女、ここには一人で来たの?それとも仲間が隠れてるのかしら」
ツンツンしてそうな女の子が人数差で優位に立っているのに気を大きくしたのか、不用意に近づいて声を掛けてくる。君が声を掛けているのは獰猛な肉食はむすたあだぞ!ほいほい近づくと撃っちまうぜ?問答無用とばかりにぶっ放しても良いんだが…急ぎの用事は今のところないしな。むしろ用があるのはこの場所だし。なっちゃん(真)も誰彼構わず噛みつく狂はむすたあと思われるのは心外だろう。誠意には誠意で返した後にぶっ放す。情けは人の為ならずと教えてあげるのも誠意か。
「ここには一人で来た」
「あなたみたいな子が一人で?本当かしら?」
「わたしに仲間は必要ない」
「そう。なら見逃してあげるからさっさと立ち去りなさい」
ふん。そんな態度を取れるのも今の内だぜ。可愛い見た目に騙された己の見る目の無さを呪うがいい。
「待って麗子さん。一人でここまで…大変だったでしょう?」
確かに大変だった。危うく人生詰みかけたからな。
「大変だった」
「警戒しなくても大丈夫。ここなら安心よ。ずっと気を張って疲れたでしょう?小屋の中で休むといいわ」
「ちょっと真帆さん。この子の言う事信じるつもり?」
「ええ。この子ならおそらく大丈夫よ。それに人数が大いに越した事はないでしょう?」
いや、俺は仲間になるつもりはないんだが…しかしこの言い方だと他にもいそうだな。ふむん…おそらく他の仲間は小屋の中にいるんだろうな。一網打尽にすべきか。
「それはそうだけど…貴女、名前は?」
「名前を名乗る時はまず自分から名乗るべき」
「くっ生意気ね貴女…まあいいわ。私の名前は
「わたしの名前は日向奈月。覚えなくていい」
「ちょっと!?」
「日向奈月!?」
「うそ、本物?目が合ったら噛みついてくる狂犬みたいな子だと思ってたんだけど意外と普通ね。いえ、むしろ可愛い?」
この借りてきた猫のような大人しい姿を見て狂犬扱いとは、こいつら人を見る目がないな。
「やっぱり。そうじゃないかと思ってたの。気を悪くしたらごめんなさい。みなさん悪気があるわけじゃないのよ。画面越しに見るのとでは大違いだから。日向さんの事はお姉さまから聞いてるわ。敵対者を蹂躙するその姿。正に漆黒の堕天使と呼ぶにふさわしい、と」
†漆黒の堕天使†だと!?誰だそんな事言った奴は!予定変更だ!!今すぐ出て来いぶっ殺してやる!!一体俺のどこに†漆黒の堕天使†要素があると言うのか。風評被害も甚だしい。俺をそんな呼び方した奴は小一時間説教した上で抹殺してやる…!いや、こいつらのグループにその呼び方が浸透してしまっている可能性もある。訂正した上で始末しなければ…その為にはこいつらの仲間になる必要があるな。
「日向さん。あなたが仲間になってくれるならとても心強いわ」
「…ほんとにこの子が日向奈月なの?他人の空似じゃない?全然強そうに見えないわよ?」
失礼な!どこからどう見てもなっちゃんだろ!?
「わざわざ日向さんを名乗る意味がないと思うけれど」
「それはそうだけど…アンタ、まともに戦えなかったんじゃないの?私も配信見た事あるけどさ、アリスって子ばかり戦ってたじゃないの。NSCだっけ?そんな御大層なものが使えるの隠してた理由はなんなの?」
気安くポンポン頭を叩くな。確かになっちゃんの頭は撫でたくなる位置にあるが。
「なんでNSCの事を知っている?わたしと戦って生きている人は片手で数えられるくらいしかいない」
NSCは黒巫女ちゃん達3人とクソ野郎しか知らないはずなんだが?それにしても生存者が多すぎる。6人中4人生存とかダメダメだろう。見た者は死ぬくらいのインパクトが欲しいのに。これではNSCに箔が付けられない。こいつらでかさ増ししないと。
「そりゃ、あなたの戦ってる所を見たからよ。攻撃効果が63%上昇して、防御面は120%上昇するんだっけ?」
情報全部筒抜けじゃねえか。黒巫女ちゃん達との戦闘を見てなきゃ知り様がない情報だろ…あの戦闘を見てたのか?それとも黒巫女ちゃん達の仲間?いや、仲間ならこんな馴れ馴れしい態度取れないだろう。となるとどこかであの戦闘見てたって事か。
そういや画面越しで見たっていってたな…もしかしてTVがあるのか!?おいおいマジか。なんでTVがあるんだよ。俺のいた小屋にはなかったぞ。
しかし…黒巫女ちゃん達との戦闘が放送されてたのなら、その後のクソ野郎との戦闘も続けて放送されてる可能性があるな。つまりはホモ疑惑と紗夜ちゃんへの告白が全国生放送されてしまった能性が…まあいいか。起きてしまった事はしょうがない。
あいつも男だ。その辺割り切ってくれるだろう。
「どうやら日向さんは知らないみたいですね。どうでしょうか、仲間になるかはともかく、一度お姉さまと話されてみませんか?きっと喜ばれますよ」
そうだな、とりあえず情報の出所を確定しよう。そしてそのお姉さまとやらにお説教するのだ。万王様の悲劇を繰り返すわけにはいかない。
「それよりさ、魔弾銃だっけ。本物なら持ってるわよね?あれって誰でも使えるの?ちょっと見せてくれない?」
見せるわけねえだろ!玩具の銃だってバレちゃうし。
「魔弾銃を扱えるのは選ばれし者だけ。あなたには無理」
「なんでよ。やってみなきゃわからないでしょ」
「とりあえずそのお姉さまとやらに会う。案内して」
「ではこちらへどうぞ。みなさん、私は日向さんを案内するので後は頼みます」
「ちょっと!?なんで私だけ無視するのよ!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ようこそ日向奈月さん、いえ、万王様より遣わされし漆黒の堕天使よ。歓迎しましょう」
矢車さんじゃん。何やってるのこの子…
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