第154話 スタートライン
矢車風音。俺の万王様呼びを定着させた元凶であり、メイド喫茶ぱんでもにうむでのやらかしや、万生教のけも耳ブームの火付け役など、俺に対するヘイト活動に余念がない万生狂信者だ。ぶっちゃけこの娘、俺の敵なんじゃないかと思わないでもないのだが、あーちゃんとも仲が良いから対応に困るんだよな。本人に悪気がないから余計に性質が悪い、ありがた迷惑という言葉を体現している傍迷惑な存在といえるだろう。
そしてそんな娘がいる時点で、なるほどなと納得してしまった。人に†漆黒の堕天使†などとトンチキな汚名を付けるような奴などそうそう存在するわけがない。だが同時に安心もした。もしこの娘がバトルロイヤルに参加せずに決闘の時みたいに実況をしていたとしたら…!
考えるだに恐ろしい。外出すれば子供に†漆黒の堕天使†と指さされ、アレナちゃんねるでは†漆黒の堕天使†ちゃんと呼ばれる始末。なっちゃんが本当に堕天してブラックはむすたあになってしまう所だった。最悪の未来は回避されたわけだから、ここは素直に喜ぶべきだろうな。とりあえずお説教はするが、今はそれよりも気になる事があるんだよな。
「委員長。色々言いたい事はあるけど、とりあえずお姉さまってなに?」
「うっ…それは」
「それは風音さんが私の、いえ、私たちのお姉さまだからです」
俺を案内した女の子の発言に、うんうんとうなずく室内にいる女の子達。いや多いな!?外の奴らと合わせて10人はいるぞ。まじで何やってんのこいつら。ここだけリリ〇ン女学園かな?
「日向さんが困惑するのも無理はありません。順を追って説明しましょう。今ここにいる者達のほとんどは、お姉さまに助けられた者達なのです」
助けるって、今やってるのはバトルロイヤルなんだが?なにやってんの矢車さん。
「奈月さんが何を言いたいかは分かります。私だってバトルロイヤルというのは分かってますよ?でも女性が襲われてたら助けたくなりますよね?そして助けた後にルールだからと倒すなんて事、普通出来ませんよね?」
俺は出来るが。なんなら乱入してどっちも倒すが。
「私としてはバトルロイヤルに積極的に参加するつもりはなかったんですよ。一応私は参加者の中ではそこそこ強いという自負はありますから、万生教主催のイベントで万生教徒が出しゃばるのもどうかなと思いまして。仮に優勝したとしても万魔様にお願いなど畏れ多いですし、そんな事したら何されるか分かったものじゃないですし。ありすさんやレナさんが最後まで残ってたら、協力して織田遥さんを倒した後、ドン勝を譲っても良いかなと思ってたんです」
なるほど。あーちゃんにドン勝を譲られるのは非常に困るが、矢車さんの見立てでは織田遥は最後まで残るのか。
「そこそこ強いなどと御謙遜をなさる必要はありませんお姉さま!あの時襲われていた私を颯爽と現れ助けて下さったあの凛々しいお姿!襲ってきた下郎すら見逃す慈悲深さ!危険だからと私に寄り添って下さる優しさ!みな、そんなお姉さまのお姿に感銘を受けお慕いしているのです」
うんうんと頷く女の子達。ひざまずいて祈ってる子すらいる始末。風生教かな?まあ襲ってくるのがモンスターじゃなくて人間じゃ勝手が違うからな。それも男なら尚更か。見通しが甘いとしか言いようがないが所詮学生、こんなものだろう。あーちゃんもストーカー野郎のせいで泣いてたもんなぁ。あれは状況がちょっと違うが。
「成程。ここにいる女子全員、委員長が助けた結果懐かれて面倒を見ていると」
「そうなんです。何故か襲われてる女性とばかり遭遇してしまって、気付けばこんな大所帯に…」
なんて羨ましい!俺なんて襲ってくれる奴ほとんどいなかったのに!
「わたしには関係ないから好きにすればいい。委員長が百合でもわたしは友達でいてあげるから安心して。それよりもなんでNSCの事を知っていたか教えて欲しい」
クソ野郎は風評被害だったが、こちらは既成事実になりそうだな。良かった良かった。あーちゃんを巻き込まないなら好きにしてくれて構わないぞ。
「そんな酷い!私は男の子が好きな健全な女の子ですよ!?奈月さんも私が甲斐甲斐しく万王様のお世話してたの知ってますよね!?」
「そんな事は知らない。それよりNSCの件について教えて」
「うぅ…くれぐれも万王様には誤解だと伝えて下さいね?お願いしますよ?それでNSCの件ですが、奈月さんはスマホ持ってますか?」
心配しなくても君たちの邪魔はしないから安心してくれ。それとスマホ?そんなもん持ち歩くわけないだろ。
「持ってない」
「え、あんたスマホ持ってないの?」
また貴様か。外の見張りどうしたんだよ。気安くポンポンするんじゃねえよ。
「わたしのマジックバッグは全て魔弾で埋まっている。そんな余計な物に割くスペースなど存在しない」
「スマホ分のスペースくらい、どうってことないでしょ?むしろ魔弾で埋め尽くしてる方がおかしいでしょ」
「一人でここまで残ってきたわたしと、委員長に運良く助けられただけの本来なら脱落しているあなた、どちらの考えが正しいか比べるまでもない」
「まあまあ二人とも、喧嘩しないでください。それで奈月さん、スマホなんですけどね。外部と通話は出来ませんけどメール送ったりTVは見れたりするんですよ」
は!?
「は!?」
「おそらくTV放送する関係上、仕方なかったんじゃないですかね?そんなわけで奈月さんと東北探学の皆さんとの戦闘を見てたんです。NSC、凄いですよね!魔弾銃がないと使えないとはいえ、一部の術理だけでも取り入れる事ができたなら、6割といかずとも2割くらいは向上したりしないですか?是非とも千刃流にNSC部門を設立して継承していきたい所です!」
流石にそれはちょっと…恰好良い銃の構え方とか撃ち方くらいしか教えられる事がないので…とりあえず知りたい事は知れたか。もうここに用はないな。よし!断罪の時間だ。お前の罪を数えろ!!
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