第163話 仲良し
「ストレス解消?別に良いけど…今はバトルロイヤル中だし、終わってからでいいかな?あ、そもそもバトルロイヤルが終わったらパンデモランドで思いっきり遊べるんだから、ストレス解消になるよ!」
良い事を思いついたとばかりににっこり笑顔を見せるありす。確かに貸し切りのパンデモランドで思いっきり遊べばストレス解消にはうってつけでしょうが、草薙さんはそういう事がしたいわけではないと思いますよ。
「遊んだくらいでこの溜まりに溜まったストレスが解消されれば世話ないの!このストレスを解消するのに必要なのは、天月ありす、お前の悲鳴なの!!」
案の定、草薙さんの怒りに火をくべてしまったようです。一方ありすはへにょっと困った顔をして笑うだけ。ヤる気満々の草薙さんに対してこの反応は…れーくんの過去話で盛り上がったせいで、完全に気が抜けてるっぽいです。一方的に草薙さんに対して親近感を持っちゃってますねこれは。話の内容はかなり重かったと思うのですが、ありすにとっては昔のれーくんの事を語りあえる貴重な存在という事でしょうか。
「ええ?悲鳴って言われても。そもそも今はバトルロイヤル中なんだから大きな声出したら駄目だよ草薙さん。あとパンデモランドにもお化け屋敷はあるから、バトルロイヤル終わったら一緒に行こうよ。あ、悲鳴ならジェットコースターの方が良いのかな?パンデモランドのジェットコースターはね、凄いんだよ!ね、レナちゃん?」
確かに凄いですけど、そこで私に話を振らないでください。この二人、互いに抱く感情が噛み合ってないせいで酷い事になってますね。相性はそんなに悪くないと思うんですけど。
「馬鹿にするのもいい加減にするの!お前の言った通り、今はバトルロイヤルの最中なの!そこでする事なんて一つしかないの!さあ、武器を出すの天月ありす、いざ尋常に勝負なの!!」
鼻息荒くふぬぬと怒る草薙さん。そもそもバトルロイヤルなのですから問答無用で切りかかればいいと思うのですが。にも関わらず律義にありすと会話を続けている辺り、根は良い子なのは間違いないでしょう。
「うーん、勝負って言われても…使ってた武器が壊れちゃってさ、今持ってないんだよね…」
ションボリ顔をするありすですが、それもそうでしょう。普段から愛用している大鎌が織田さんとの遭遇戦で破壊されてしまい、今ありすが持っている武器は一つだけですから。ですが流石にあれで戦うのは非常識にも程があると私も思います。むしろ織田さんはあれを持ったありすと対峙してよく死にませんでしたね。流石は禁忌領域守護職織田家の御令嬢といった所でしょうか。
「武器が壊れた?ふふんっ、予備の武器も持たずに戦いに挑むなんて未熟にも程があるの。とはいえ弱い者いじめをしてお前に勝っても意味がないの。仕方ないから私が持ってる武器を貸してあげるの。使いたい武器を選ぶと良いの!」
そう言うや草薙さんはアイテムバッグから武器をドバッと取り出しました。剣、刀、槍、薙刀、斧、こん棒、杖、鞭、弓等々…ここで武器の展覧会でも始めるつもりと言わんばかりのラインナップです。見た感じ、どれもしっかり手入れされていますね。そういえば天獄杯の個人戦でも相手に合わせて武器を換えてましたし、凄く器用な人だと思ってましたが、まさかこれらを全部使えるのでしょうか?もしそうだとすれば非常識にも程がありますね…
「うわ~凄いね、なんでこんなに一杯持ってるの?武器を集めるのが趣味とか?」
「そんなわけないの。ちゃんと全部使えるの。相手に合わせて常に有利を取って戦うのは戦闘の基本なの。私と勇輝は二人でダンジョンに潜っていたから引き出しの多さがそのまま生存確率に影響するの。そう、私と勇輝の二人で…私が途中でダンジョンに潜らなくなったから…勇輝は…」
それにしても、草薙さんはどうやってこれだけの武器を用意出来たんでしょうか。バトルロイヤル参加者は全員、天獄杯開会式からそのまま天獄殿に強制連行されたので準備する暇はありませんでした。つまり、草薙さんは、普段からこれだけの武器を常に持ち歩いてると…
「元気出して草薙さん。勇輝君?も草葉の陰から草薙さんを応援してるよ!それよりなんでこんなに一杯武器があるのに大鎌がないの?」
「勇輝は死んでないの!縁起でもない事言わないで!!全く、なんてデリカシーのない女なの。あの男と双子なだけあるの。それに大鎌?鎖鎌ならともかく大鎌なんてないの。あんなの武器じゃないの」
「はぁああ!?大鎌は立派な武器なんですけど!?なんなら最強なんですけど!?」
「そんなわけないの。大鎌なんて使うくらいなら素手の方が百倍マシなの。あんな欠陥品、使える用途は草刈りくらいなの。それも草刈り機の方が千倍優秀なの。要らない子なの」
「それは違うよ!大鎌は浪漫と実益に沿った最強武器なんだから!れーくん一押しなんだから!」
「最強武器なんて使う人によって変わるの。そもそも大鎌なんて使えるなら、槍や薙刀を使った方が有利に戦えるの」
「そんなことないですぅ!ちゃんと大鎌でも立派に戦えますぅ!その証拠に遥さんと大鎌使って良い勝負出来たんだから!」
ありす、有利に戦えるという部分は否定しないんですね…最強武器とは一体。そもそもあなたの愛用していた大鎌は、織田さんに壊されたでしょうに。その後に出したあの大鎌で圧倒したわけですが、あれは大鎌関係なく、それこそ待ち針や眼鏡であっても圧倒できたと思いますが…いえ、他でもないれーくんが大鎌として創り、それがありすの大鎌しか存在していない以上、比較するのに意味はなく、最強というのは間違いではないのかもしれませんが。
「遥さん?」
「そうだよ。ほら、織田遥さん。開会式に乱入して凄く目立ってた人だよ」
「もしかしなくても、織田遥さんの事を言ってるの?関西探学代表の、禁忌領域守護職織田家の織田遥さんの事?」
「そうそう。言動もそうだけど見た目も凄くインパクトあるよねあの人!一体どうやったらあんな立派なドリルヘアーを…まあ、うん、とにかく一度見たら忘れられないくらい凄く目立つ人だから間違えるわけないよ」
不可抗力とはいえそのドリルヘアーを刈っちゃいましたからね…まあ、言動だけでも凄く目立つ人なのは間違いないですが。
「それはおかしいの。それならなんでお前はここにいるの?」
「?なんでって言われても…」
「あの人の実力はお前なんかよりはるかに上なの。少なくとも個人戦本選で矢車さんに負けたお前が勝てるわけないの」
「勝ったわけじゃないよ。どちらかというと負けなんじゃないかな?」
「織田さんは自分の負けだと言ってましたが」
「さすがにあれを勝ったとは言えないよレナちゃん。織田さんが最初から本気を出してればその前に決着はついてたわけだしさ」
「それも含めてありすの勝ちだと私は思いますが…勝手に手加減して、結果自滅したのは織田さんでしょう?」
「レナちゃん、なんか織田さんに手厳しくない?」
「そんなことありませんよ。でもそうですね、戦った二人がお互い負けたと思っているのなら、引き分けでいいんじゃないですか?生き残ればいずれ再戦するわけですし、決着はその時に付ければいいのでは?」
「それはそうなんだけど…う~ん…」
気まずい気持ちは分かりますが、奈月とのやり取りを見たでしょう?ありすを探してましたし、見つけたら間違いなく目の色変えて襲い掛かってくると思いますよ。
「負けた?織田遥さんが?この女に?そんなのありえないの!なにかの間違いなの!」
「だから私は勝ってないよ。どうしようレナちゃん、草薙さんが話を聞いてくれないよ」
「もしかして草薙さんは織田遥さんの熱狂的なファンなんでしょうか?」
「なるほど。つまり草薙さんは遥さんの処女厨ってやつだね?」
それは違います。そもそもありすはこんな事を言う子じゃなかったはずなんですが。一緒に住むようになってからの奈月の影響が強すぎるんでしょうか…奈月もあんな子じゃなかったと思うんですが…下ネタを言い合えるくらい仲が良くなれたとプラスに考えるべきなのでしょうが、せめて私だけでもしっかりしないといけませんね。
「ありす、人前でそんなはしたない事を言ってはいけません。織田さんでもあるまいし」
「やっぱり遥さんに対して当たりがきつくない?」
そんな事はありません。
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