第170話 ブーメラン

「はぁ…人に歴史ありとは良く言ったものですね。まさか草薙さんと万君にそんな因縁があったとは」


「私としてはそれ以上に、万王様が発見!ヒーローキッズ!に出演していた事に驚きました!私あの番組好きだったんですよ」


「確かに。誰もそんな事教えてくれなかったし…隊長は知ってたんですか?」


「当然だ…と言いたい所だが、私も初耳だ。万魔様はご存じだったのでしょうか?」


「うむ。何を隠そうあの番組を打ち切りにさせたのは儂じゃ!!」


「「な…なんですってぇぇぇええええ!!??」」


「ちなみにますたあてえぷも回収しておるから、当時の映像を見るのはほぼ不可能じゃぞ」


「10年くらい前ですよね?誰か当時の番組を録画してる人いたりしませんか!?高値で買い取ります!!」 


「身内で見る分には構わんが…表に出すつもりなら相応の対応をするからの」


「…そんなにやばいんですか?仮にもテレビで放映された内容ですよね?」


「やばいの。あの発言のせいで一時的にとはいえ探索者の風評被害が半端なかったからの。更に子どもが大勢探恊に押し寄せたりして実務に影響が出て甚だ迷惑じゃった」


「当時のニュースを見た記憶がありますが、あれは魔央様が原因だったのですか」


「まあ、あれのおかげでだんじょん配信がばずった側面もあるから、悪いとばかりとも言えんのじゃが」


「そうなんですか!?」


「うむ、なにせ魔央は若干7才でびい級探索者じゃろ。その年齢でなれるなら探索者など大したことないと侮られる要因にもなったのじゃ。その要因を取り除くにはどうすればよいか?答えは実際に探索している所を見せればよい。声がでかいだけの輩も、いざ同じことをやってみろと映像を見せられれば口を紡ぐしかあるまい」


「なるほど。百聞は一見に如かずですね」


「うむ。魔央の場合は火種は大きかったが、その分鎮火するのも早かった。騒いでいたのも一部の大人じゃったからな。むしろ困ったのは双子のいい級探索者の方じゃ」


「といいますと、草薙姉弟でしょうか?確かに7才で探索者デビューをしているというのは中々衝撃的な内容ですが、でもこう言っては何ですが、所詮E級ですよ?」


「だからじゃ。びい級ともなれば場数を踏まねば成れんが、いい級探索者はそうでもないじゃろ」


「確かにそうですね。最近は十代前半でFやE級探索者になっている人も珍しくないですし」


「レナさんがそうですね。彼女の場合は探学入学前にC級ですからかなりのハイペースですけど」


「まあそんな訳での。今程ではないが、若年のえふやいい級探索者ともなれば割と身近な存在なのじゃ」


「成程…身近であるが故に、誰でもなれるだろうと錯覚してしまったわけですか」


「ちょっとしたお小遣い稼ぎとかで潜ってる子も多いですよね。というかFやE級探索者で1年以上止まってる人は大半がそうですね。天獄郷にはそんな軟弱者は居ませんが」


「探索者として生活していくならC級になるのが最低条件だからな。逆に言えばD級以下はそこまで本気にならなくても誰でも探索自体は出来るという事だ」


「足切りは、しい級になれるかどうかじゃからな。ともかく、そんなわけで家の子も試しに探索者をやらしてみようと軽く考えた阿呆親が大勢出てきた訳じゃ。それを強く拒否する事も出来んかった。探索者は自己責任。この言葉を盾に強く出られると探恊としても拒絶は出来ん。嫌々連れてこられたならまだしも、大抵子供自体が乗り気なのが更に事態を厄介にしてのう」


「子供はそういう話、大好きですもんねぇ」


「うむ。当時は子供相手のかりきゅらむ等なかったからのう。現場はてんやわんやじゃったぞ。子ども相手の探索者承認方法や指導法が出来上がるまで修羅場じゃったな」


「上級探索者ともなれば稼ぎも凄いですし、自分の子供に夢を見たがる気持ちも分かります」


「それで子供を失ってしまえば取り返しがつかんだろうに…愚かだな」


「実際、何人か死亡しておる…そんなわけでの、当時の社会に与えた影響としては魔央よりそちらの方が余程大きかったのじゃ。この話が大して広がらなかったのは、探索者は自己責任だからじゃ。皮肉なもんじゃの」


「当人が聞いたら卒倒しそうな内容ですね!」


「風音、念の為言っておくが、余計な事は言うなよ?この件は草薙が悪いわけではない。いずれは起きた事だろう」


「言いませんよ。言ったら私が嫌味な女みたいじゃないですか」


「ところで皆さんが何も言わないので私が言うんですけど、なんで八車風音様がいらっしゃるんですか?いえ、邪魔という訳ではなく」


「え?あははは…会う人会う人に十傑衆の面汚しとか言われて、何処にも居場所がないのでここに来ちゃいました!みんな酷いですよね!?私頑張ったんですけど!!」


「日頃からお前は周りのヘイトを買っているからな。皆も本気で言っているわけではあるまい」


「余計酷いと思うんですけど!?私は、みんなの玩具じゃない!!私は私の任務を最大限遂行しているだけです!私は悪くない!!」


「しれっと万王様の事を万君呼びしてますし、八車様も大概なのでは?」


「私の任務は万王様を見守ってお助けする事ですから。そもそも万君呼びは万王様に許可されてますし?見守り対象と仲良くなるに越した事はないと思います!」


「―――はい、えー、その件に関してクレームを頂きました。八車様は何で大道寺の糞餓鬼を始末しなかったんですか?貴女がさっさと始末していれば決闘沙汰になどならず、万王様も心安らかにありす様と一緒に探学生活を送れたのでは?だそうです」


「う…痛い所をついてきますね。でもですね、あそこで万生教が介入した場合、余計ややこしい事になると言いますか…そもそもありす様に対してどこまで踏み込んで良いかの判断が、あの時点でついていませんでしたので。静観するのが当時の最適解であり、それが結果的に英断だったと私は断言します」


「そうだな。その件に関しては私も風音に同意見だ。魔央様のありす様に対するスタンスは、安全を確保した上でギリギリまで本人の意思に委ねているように思える。そこに我々が独自の判断で介入するのは、魔央様の意思にそぐわない。むしろ反感を買う行為だろう」


「さすが隊長!良く分かってらっしゃる!!ちょくちょく万王様のお家に呼ばれて夕飯を一緒に食べているだけありますね!!凄く羨ましいです!!!」


「…風音、そういう所だと儂は思うぞ」

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