第171話 背中
この状況、どうすればいいんでしょうか?
「ふふん!よくよく考えれば、遥さんには勝てなかったからね…次は勝つけど!れーくんに後で褒めてもらう為にも恰好良い所を見せないと!」
「取らぬ狸の皮算用は、実際にボクに勝ってからする事だ。そもそも褒められる心配をする必要はないよ。無様に負けて慰めて貰えばいいさ」
「それはそれで…いやいや駄目だよ。遥さん相手に不覚を取ったからね。これ以上れーくんの前で格好悪い所は見せられないから」
そういえば、泣きながられーくんを呼んでた事があったと思うんですが…あれは格好悪くなかったんでしょうか。
「やる気が出たなら結構。ところで、壊れた大鎌の替わりはどうするんだい?それとも無手でやるつもり?今からでも他の武器を使う気があるなら、そのくらいは待ってあげるけど」
「確かに愛用の大鎌は壊れちゃったけど、他に持ってないとは言ってないよ?そう、これはれーくんに褒められる為!その為なら私に躊躇いは…ない!」
ちょちょちょちょちょっ!?それは流石に駄目でしょう!!あんなに渋ってたのに、何で躊躇いなく使おうとしてるんですか!?
「ちょっとありす待ってください!あなた正気ですか?草薙さん相手にあれを使うと?織田さんくらい強くなければ使いたくないと言ってましたよね?」
「へぇ…まあ確かに、ボクは織田遥さんよりはまだ弱いとは思うけどさ。遠慮はいらない、隠し玉があるなら使いなよ。それともなにかな?君のれーくんは、手抜きして負けるような人を褒めたりするのかな?そしてなにより、君は手抜きして勝った事を褒められて嬉しいのかな?」
草薙さん…あなたはあれを見た事ないからそんな事言えるんですよ!勝ち負け以前の問題なんですよ…
「君のれーくんだなんて…えへへへ。でも確かにそうだね。私のれーくんなら、遠慮する必要はないよ。あーちゃん、歯向かう奴は二度と立ち上がれないくらい痛い目見せて分からせてあげると良いって言うだろうね!」
二人ともやる気ですし、もう好きにさせた方が…いやいや、駄目です星上レナ。ここでありすの好きにさせたら間違いなく面倒くさい事になるに決まっています!
「落ち着きなさいありす。あれは気軽に使うなとれーくんから言われているのでしょう?織田さんの時は仕方なかったとしても、今この状況は本当に使っても仕方ない状況ですか?」
「う…それは…でもでも、素手だとさすがに草薙さんに勝てないよ!ならきっとれーくんも許してくれると思うな」
「槍でも棒でも使えば良いじゃないですか。天獄杯予選の時は使ってたでしょう?」
「分かってないなぁレナちゃんは。今この場は、大鎌をアピールする絶好の機会なんだから!会う人会う人欠陥武器欠陥武器って、これでも私怒ってるんだからね!!」
使える武器なら普及してますから…普及してないという事はそういう事なのです。そもそもれーくんの言う浪漫は、実用性を度外視して恰好良さに全振りですから、アピールしても探索者が使うかとなると…
「大鎌の良さを分かる人は少ないと思いますよ…ともかく、私としてはお勧めできません。大鎌を本気でアピールしたいなら、戦い方にもこだわる必要があるでしょう。あれを使って勝っても、大鎌が凄いとはなりませんよ?むしろ、あそこまでしないと大鎌使っても勝てないんだなと、皆さん敬遠するでしょう」
「そうかな?レナちゃんが言うならそうかも?でもどうするの?草薙さんもやる気だし、私だってやるからには勝ちたいんだけど」
「さっきも言ったけど、二人同時でもボクは構わない。君達の言う大鎌に興味はあるけど、使いたくないならそれでいいさ。後悔するのは君達だしね」
「いいえ、草薙さん。貴方と戦うのは私です」
「そういうことか…本当はレナちゃんも無常さんに良い所見せたかったんだね?確かにここは天獄郷、万生教のお膝元だし。師匠の故郷で一旗揚げたくてウズウズしてたんだね?水くさいよレナちゃん、そうならそうと言ってくれればいいのに」
いえ、別にそういう訳ではないです…
「この辺りは騒がしくなりそうですから、ありすはどこか適当な場所に移動してください。奈月と合流出来ればそれが一番ですけど、今どこにいるか分かりませんしね」
「それは聞き捨てならないな、ボクの本命は天月ありすなんだけど?」
「そうだよレナちゃん!レナちゃんを見捨てて私だけ逃げるなんて出来ないよ。あれ?でもこれって、ここは私に任せて先に行けってやつだよね?なら先に行った方がいいのかな?」
「ふふ、そうですね。草薙さんは私が足止めしますから、ありすは先に行ってください」
図らずも、れーくんが好きそうなシチュエーションになっちゃいましたね。
「あははは。別に足止めなんて言わずに、倒しちゃっても構わないんだよ?」
「そうですか。ならその期待に応えるとしましょう」
「…あのさ、好き勝手言ってる所悪いけど、この状況で逃がすわけないよね?」
草薙さん、本気でありすと戦うつもりなら、口より先に手を出せば、問答無用で斬りかかればいいのです。ですが貴女はこの状況ですらそれを選ばない、選べない。何故なら、草薙勇輝さんはそんな事をしないでしょうから。
「落ち着いて下さい草薙さん。怒る気持ちは分かりますが、これは貴女の為を思っての事でもあるんですよ?」
「ボクの為?ボクの為を思うなら、それこそ天月ありすと戦わせてくれると思うんだけど?」
「そうでしょうか?本当にありすと戦う事が貴方の為になるでしょうか?そう思うなら、私を無視して逃げるありすを追いかけて、背中から斬りつければいいのでは?卑怯で卑劣な行いですが、別に禁止されているわけではありませんし」
「あなたに私のなにがッ!―――何を考えてるか分からないけど、いいよ、その挑発に乗ってあげるよ。今この場で見逃した所で、また見つけるのはそんなに難しいわけじゃないからね」
「何ボケっとしてるんですか。ほら、さっさと行ってください。ありすが居るといつまで経っても話が進みません」
「天月ありす。星上さんを片付けたら、次は君の番だ。首を洗って待っておくといい」
「えぇ…なんか思ってたのと違うんだけど」
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