第142話  最終決戦

「うん、使うのは久々だけど問題なさそうだね!」


 自身の身の丈以上の大鎌をバトントワリングよろしくブンブン振り回す、手元が狂えば体ごと真っ二つになりかねないその曲芸は見ている方の心臓に悪かった。 


「そんな物騒な物を隠し玉に持っていたとは…侮れませんわね」


 気の弱い者が直に見れば失神してもおかしくないと思えるほどに、禍々しい雰囲気を放つ漆黒の大鎌。見掛け倒しなら嬉しいが、先ほどの発言から期待は出来ない。件の大鎌が壊されなければ使う予定はなかったというのもおそらく本当なのだろう。短いやり取りの中で、天月ありすの人となりはある程度把握出来ている。少なくとも自身の事でハッタリや見栄を張るような性格ではないだろう。


「れーくん以外の人には使った事ないけど、織田さんならきっと大丈夫だよね。そんなに強いんだから」


 何が大丈夫なのだろうか。万魔央にしか使った事がないというのも不安しかない。こんな事なら壊さなければ良かった…いや、あの時点ではあれが最善だったのは間違いない。そもそもこんな物騒な厄物を持っているなど分かろうはずもない。


「褒めても何も出ませんわよ?私が強いのは厳然たる事実ですけれど!」


 おそらくあの大鎌も万魔央が与えたのでしょうけど…こんな見るからに呪われてそうな物を双子の姉に渡すなど頭がおかしいですわ。そして平気な顔して使っているこの娘も相当にやばいですわね…こうなったら私も…いえいえ!なにを弱気になってるんですの織田遥!大鎌の尋常じゃない雰囲気に当てられたとはいえ、思考が後ろ向きすぎますわ!!ちょっとヤバげな大鎌がなんですの!私にも四神の希少な素材から作られた種子島Mk-Hがありますわ!!武器の格は互角かこちらが上、であるならば勝負を決めるのは使い手の力量ですわ。またブンブン飛び回られても面倒ですわね。調子に乗らせると面倒ですし、今まではそちらに合わせてあげたんですから、今度はこちらに付き合ってもらいますわ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 こうして対峙すると初めて禁忌領域に入った時の事を思い出す。初めて四神と間近で対峙した時は、その存在感と恐怖に思わず漏ら…震えが止まらなかったが。今は違う。心身ともにあの時より遥かに成長し、数多の修羅場も潜って来た。この殺意は、怖気は天月ありすではなくあの大鎌から感じているもの。天月ありすは只者ではないが、あくまでそれは学生レベルで見た場合。あの大鎌を好き勝手に振るわせなければ十分対処は可能だろう。


 いかに大鎌の扱いに習熟しようとも、大鎌の欠陥が無くなるわけではない。ましてや先ほど使っていた物よりさらに大きいとなれば。あれが見た目と裏腹にどれだけ軽かろうと、小回りは効かず動作も大振りにならざるを得ない。だからこその雷属性身体強化での高速機動なのだと合点がいく。槍なり大剣なり使った方が遥かに活かせると思うが、今はそれは良いだろう。


 天月ありすはともかく、あの大鎌は警戒すべき。好き勝手走らせて向こうのタイミングで攻撃させるのは悪手。必然的に織田遥が選んだのは近接戦闘。相手が走り回る隙は与えない。


「それじゃ行くよ織田さん。あの子の仇はこの子で取らせてもらうよ!」


〔疾


 天月ありすが雷属性身体強化魔法を唱え―――終える前に織田遥が天月ありすへと接近し刺突を繰り出す。


「っとぉ!?」


 意表を突いた身体強化による刺突に驚いた声を上げるも、器用に柄で跳ね上げそのまま振り子のように大鎌の刃が織田遥の首に迫るが、余裕を持ってかわした織田遥はそのまま距離を取る。


「ビックリしたぁ。いきなり突っ込んでくるから驚いちゃった」


 完全に不意を突いたであろう身体強化での高速接近による刺突を、驚いたと言いつつも危なげなく捌かれた。初手で身体強化魔法を使おうとしていた辺り、馬鹿の一つ覚えで高速機動に入ろうとしていたのだろうが、それを見越した上でこちらから仕掛けたにも関わらず防がれた。天月ありすとの戦闘中、自身は一歩も動いていない。明確な攻撃に転じたのも大鎌を破壊した時のみ。あわよくばこれで終わらせるつもりだったが…まあいい、無詠唱での身体強化はまだ無理なようだし、使う隙を与えずに接近戦で仕留める。とはいえ長引けば使ってきかねない怖さがある為油断は禁物だが。


「また好き勝手走り回られるのは面倒ですし、今まで貴女に付き合ってあげたんですから、今度は私に付き合ってもらいますわ」


「ふふん。1vs1の近接戦は一杯練習してるからね。ちょっとやそっとじゃやられないよ!!」


 身体強化は使わせない。手数で押し切る。その大鎌がどんなに凄かろうと、当たらなければ意味はない。私の下級魔法を避けて攻撃せざるをえなかった貴女は一撃当たれば終わりでしょう?貴女が私にして来た事をそっくりそのままお返ししてあげますわ!


 不敵な笑みを浮かべる両者。仕掛ける織田遥、受ける天月ありす。決戦の火蓋が切って落とされた。

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