第140話 決着

 魔法銃剣・種子島Mk-Hを取り出した織田遥と、雷属性身体強化により武器ごと雷属性を纏った天月ありす。両者新たなカードを切り迎える第二ラウンド。視聴者もここから更なる激闘が展開されると期待に胸を膨らませる。が、視聴者の期待は半分叶い半分裏切られる事になる。



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「ああもう、鬱陶しいったらありませんわ!!アブにランクアップですわ!!」


 先ほど同様、平原エリアを縦横無尽に駆け回る天月ありす。魔法の雨を回避して斬り掛かってくる動作に放雷現象が加わった事により、派手さと鬱陶しさが半端ではなくなっていた。


「う~ん、これ威力上がってるのかな?上がってる気はするんだけど通じてないからわかんないや」


 織田遥に対し一撃離脱する天月ありす。雷を纏った大鎌による斬撃は、相変わらず織田遥の防御魔法に衝突した際弾かれるが、放出された雷が防御魔法に沿うように走り、不可視の防御魔法の姿を詳らかにする。


「なにそれ、ハチの巣みたいだね。さしずめ織田さんは女王蜂かな?」


 天月隷人がそれを見たなら、ハニカム構造で全天周囲防御!?とテンションを上げて叫んでいただろう。


「それも悪くありませんわね。ならば女王の一刺しをくらうと良いですわ!!」


 種子島により威力と速度が増幅された魔法射撃が天月ありすを襲う。常人であれば回避不可であろうその高速の銃撃はしかし、余裕で回避される。雷速とまではいかずとも、埒外の速さで移動する天月ありすを捉えるにはそれこそ雷の速度が必要だろうが、その雷を纏っている天月ありすに雷撃はおそらく通用しない。試してみても良いが、それで逆に強化されでもしたら厄介極まりない。



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 ますます白虎じみてきましたわね…高速の斬撃をいなしながら四神争哭黄龍門の難敵を思い浮かべ、内心舌打ちしつつも天月ありすへの評価が上昇していく。雷属性に対する耐性、そして白虎を彷彿とさせる速度。もし彼女が協力してくれたなら、四神争哭黄龍門の解放も現実的になるのでは?倒した四神の能力を得て強さを増していく四神。単体ならば一匹は倒せない事はない。しかし数が減る毎に強さを増していく四神相手にそれは悪手極まりない。アレを倒すなら4体同時討伐が必須。私、万魔央、最強仮面様、天月ありすと織田精鋭、これはとんだ拾い物かもしれない。今はまだ未熟でも、近い将来対抗し得るだけの実力を身に着ける可能性は高い。現に今も、戦いの中で成長しているのだから。であるならば―――



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 天月ありすの行動が徐々にではあるが変化しつつあった。雷速による一撃離脱戦法は織田遥相手に通用しない。ゆえに即興で編み出した武器を巻き込んだ身体強化魔法の発動。現状これに懸ける以外に打開策はない以上、やるだけやって駄目なら逃げよう。そう覚悟を決めた天月ありすは、身体強化魔法の配分を武器へと傾ける。過剰な速度は必要ない。織田遥の魔法攻撃をかわせるだけの速度があればいい。銃による高速射撃は厄介だが、銃口の向きさえ気を付けていれば何ら問題はない。身体強化魔法による斬撃が通用せず雷鳴が使えない以上、強化した大鎌の斬撃に懸けるしかない。


 徐々に速度が落ちていくのと反比例して、大鎌の放雷が増していく。天月ありすの何度目になるか分からない斬撃。常と変わらず弾かるそれに、わずかなラグがあった。最初は気にも留めなかったそれが、回を重ねる毎に徐々にではあるが増えていく。そして、何度目かの斬撃の後。相変わらず防御魔法に沿うように走る雷の中に、わずかな亀裂が浮かび上がる。天月ありすは斬撃の際に確かな手ごたえを感じ、織田遥は目の前であったが故にその亀裂を視認し。一方は会心の笑みを、一方は目を見開くも不敵な笑みをすぐに浮かべる。


 雷属性よる武器強化、おそらくこの場で必要に迫られて即興で試したものだろう。でなければここまで温存する意味などない。加えて即興にも関わらず身体強化と武器強化のバランスを取る戦闘センス。そしていずれの禁忌領域とも関わっていない浮いた人材。見逃す理由はない。来るべき時の為に、助力を得るには最適な存在だろう。


「天月ありすさん、ひとつ賭けをしません事?」


「賭け?」


「そう、賭けですわ。この勝負で負けた方が相手のいう事を一つ聞くという賭けですわ」


「賭け、賭けかぁ。う~ん」


「心配しなくても貴女の尊厳を傷つけるようなものではありませんし、私が勝ったとしても貴女にお願いするのはちょっとした約束の様なものですわ」


「うん、遠慮するね。私にメリットないし」


「私に勝てば貴女が言っていた通り、万魔央に土下座して謝罪でもなんでもしますわよ?貴女にとってメリットではなくて?」


「言われたからするような謝罪なんて意味ないよ。それにれーくんに口を酸っぱくして言われてるから」


「万魔央が何を?」


「自分から賭け事持ち出しくてるような相手には何を言われても絶対に乗るなって。勝てる見込みがなきゃそんな事言いだすわけないんだから、賭けるだけ無駄だって」


「なら貴女がこの防御を突破できるかでもよろしいですわ」


「れーくんが、条件下げてでも賭けさせようとしてくる奴は絶対碌な事考えてないから関わるなって言ってたから遠慮しとくよ。織田さんじゃ私が欲しいものは絶対用意できないしね」


「そうですか、残念ですわ。それならそれで構いませんけど。なら私なりに貴女を見極めさせてもらいますわ」


「何を考えてるか分からないけど、私はやれる事をやるだけだよ」


 話は終わりと、天月ありすが高速機動に移行する。相変わらず疾いが大鎌を強化している為か速度が目に見えて落ちている。魔法を回避する速度を維持しつつ斬撃を強化する比率を慎重に測っているのだろう。であるならば試すには好都合。左右後方から追い込むように魔法を放ち、天月ありすを正面へと引きずり出す。お構いなしとばかりに突っ込んでくる天月ありすに種子島Mk-Hを向け、最速の雷魔法をぶっ放す。一度も切っていない手札。最速の攻撃は狙い通り、天月ありすは回避行動すらとれず直撃したが―――


 やはり無傷。それどころか天月ありすの速度が増した。直撃。防御魔法に目に見えるほど大きな亀裂が走る。雷魔法をそのまま取り込んだ!?無効ではなく吸収!?なんて出鱈目な!!だがこれで確信した。天月ありすは関西禁忌領域・四神争哭黄龍門の攻略において絶対必要なピースであると。



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 いける!天月ありすは確かな手ごたえを感じた。さっきの攻撃、直撃したのは想定外だった。回避する間もなく食らったのは雷魔法。食らうつもりは微塵もなかった。油断と言えばそれまでだが、雷属性だったのは不幸中の幸いだった。種子島によって放たれた雷魔法の速度は想定外だった。そしてダメージを食らうどころか速度が上がるのも想定外だった。雷魔法にこんな効果があったなんて…れーくんの魔法は食らったら全部アウトだったんだけど。お陰で斬撃のタイミングを外したがなんら問題ない。むしろこれはチャンスだ。織田さんもこの状況は想定できなかったはず。今後雷魔法を使ってくるとも思えない。余剰分は大鎌に、次で決める!!



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 天月ありすの使う大鎌、魂喰らう死神の大鎌・餐式は天月隷人による一品物であるが、過剰な攻撃力は本人の為にならないからと刃の部分に関しては妥協の産物である。対して織田遥の種子島Mk-Hは禁忌領域・四神争哭黄龍門のモンスター素材、すなわち四神の素材を用いて作られている、なぜこんな物に使ったのかと正気を疑う程の逸品であり、銃剣の刃を構成しているのは白虎の大牙である。そして織田遥は多才で努力家であり、近接戦においても確かな才能を有していた。全力での雷光刹華ではなく、疾風迅雷の最高速でもない天月ありすの斬撃は、織田遥にとって見切れない領域ではなかった。


 度重なる織田遥の防御魔法への攻撃、雷属性強化による武器への負荷、勝負時と見極めた天月ありすの斬撃と、それに合わせる織田遥。織田遥の防御魔法が砕けると同時、天月ありすの大鎌と織田遥の種子島Mk-Hによる剣撃が衝突する。結果――――



 確かに天月ありすは目標を達成した。見事織田遥の防御魔法を撃ち破った。魂喰らう死神の大鎌・餐式の刃が砕け散る代償と引き換えに。

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