第139話 話が進まない

「天月ありす、格の違いというものを思い知ると良いですわ」


 言い放つと同時、織田遥が取り出したのは一丁の長細い筒のようなものであった。非常にシンプルな造形をしているそれを見て天月ありすは首を傾げる。もし天月隷人がその筒を見たならば、火縄銃に似ていると指摘しただろう。


「これが何だか分からないという顔をしてますわね。良いでしょう、教えて差し上げますわ!これは我が織田家が開発した魔法銃、種子島Mk-Hですわ!!」


「魔法銃?それが?」


「そうですわ!従来の魔法銃は、小型ゆえに魔法増幅率が低い上に発動までラグがあり連射が効かない、銃を使うくらいなら投石の方がマシと言われるくらい散々な代物ですわ。欠点だらけの魔法銃、しかし唯一他の武器に勝るものがありますわ。それは誰もが見向きもしないという事。そして恰好良いという事ですわ!!私の活躍で銃の悪評を吹き飛ばし、銃と言えば織田遥、織田遥と言えば銃と言われるようになり、探索者の使いたい武器ナンバー1の栄光を手にし、私こそが銃の救世主となるのですわ!!その為に試行錯誤を重ね、従来の欠点を克服し、そうして生み出されたのがこの魔法銃、種子島ですわ!!」


 天月ありすは確信した。やはりこの女は危険だと。嬉々とした表情で語るその姿が、かつて大鎌がいかに格好良いのか語っていたれーくんの姿とダブる。こんなところまでれーくんに似なくても良いのに。


「そうなんだ。それじゃなんで筒に刀がくっついてるの?それじゃ刀じゃない?」


「良い質問ですわ!貴女に限らず世間の人たちはこう思っているんじゃありませんこと?銃は遠距離武器だと。確かに飛び道具ですから遠距離武器と言うのは間違っていませんわ。しかし!!こうして銃に刀身をつければあら不思議!近接戦にも対応しますわ!!この斬新な発想によって!遠距離・中距離・近距離全てにおいて死角のない浪漫溢れる究極の武器として銃は生まれ変わったのですわ!!」


 それは銃である必要があるのか。織田遥の主張を聞いた誰もがそう思ったが、幸いな事に織田遥に届くことはなかった。


「なるほど…確かに侮れないね!でも浪漫なら!私だって負けてないよ!!」


 突っ込める唯一の存在は、自身の使う武器が武器だけに織田遥の発言を肯定していた。


「そうですわね。貴女の大鎌にも私の銃と似たような物を感じますわ」


「ちなみにMk-Hってなんなの?」


「遥のHですわ。これは一点物ですので。種子島は私の私による私の為の銃なのですわ!!」


 長年に渡る禁忌領域での希少な戦果が大盤振る舞いで種子島には使われている為、織田の至宝と言っても過言ではなかった。当然量産などは不可能である。


「この大鎌だってれーくんが私の為だけに作ってくれたんだから、負けるわけにはいかないよ!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 種子島がどういった物かは不明だけど、自分のやる事は変わらない。相手の攻撃をかわして斬るだけ。少しの間、短い会話を交わしただけだけど理解した。いろんな意味でこの人には負けられないと。やる事は身体強化の延長線上、自分だけじゃなく武器を含めて私の一部とみなし、強化する。


 他の武器なら無理だろう。でもこの武器は違う。小さい頃からずっと使ってきた。私と一緒に成長してきた。なによりれーくんから貰った物!だから!この武器ならば、可能!!


〔疾風迅雷〕


 天月ありすの雷属性身体強化魔法は、一見する分には通常の身体強化魔法と変わらない。が、自身の武器を含めての身体強化魔法の使用というある種の離れ業を行った結果、天月ありすほどの雷属性との親和性を持たない大鎌から、過剰分の放電が奔り、体を覆う様に伝播していく。


「…正気、ですの?」


「流石にそれは失礼だよ織田さん、私はいたって正気だよ」


「貴女…自分が一体何をしているのか理解してますの?」


「何って、普通の身体強化魔法だけど」


「普通…普通って貴女、属性魔法で身体強化なんて、ありえませんわ!!」


「ありえないって言われても、れーくんに教えて貰った方法だし」


「なんてものを教えてるんですの万魔央は!仮にも姉の命を何だと思ってるんですの!?」


「れーくんは私の命を大切に思ってくれてるに決まってるじゃん!」


「ああもう!!身体強化魔法を使っているにしてもやけに速いと思ってましたが、まさか雷属性での身体強化だなんて…天月ありすさん、万魔央の腰巾着と言ったのは撤回しますわ。ぶちゃけ半分勢いで種子島を出してしまったんですけど、貴女はこの子のデビューに相応しい存在ですわ!!」


「私はまだ撤回しないからね」


「構いませんわ。すぐにでも撤回する事になりましてよ!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ありす様がなんか凄い事になってますね。正直理解が追い付いてないんですけど」


「…そもそも身体強化魔法は、自身の魔力で自身の身体能力を底上げする魔法なのだが、その強化に属性魔法を使った場合、普通は死ぬ」


「死ぬんですか!?」


「そもそも属性魔法でどうやったら身体を強化出来るのかという問題があるが、今ありす様がやっていることは、絶えず溶岩を飲みながら戦闘しているようなものだと言えば分かりやすいか?」


「それ普通に死ぬと思うんですが。溶岩ですよね?飲んだ瞬間体内が焼け爛れるんじゃないでしょうか。飲んだ事ないですけど」


「だから死ぬと言っただろう。ありす様の場合は雷だが似たようなものだ」


「それって雷に打たれ続けているということですよね?なんでありす様は何ともないんですか?」


「知らん。私も試したことがない。試す気もない。ダンジョンには属性による身体強化を使ってくるモンスターもいるから理論上は可能なはずだが、私が知っている範囲で試した者は全員死んでいる。軽い気持ちでありす様の真似をしても、まず間違いなく死ぬか良くて瀕死になるだけだからやめておいた方が良いだろう」


「成程!つまり流石はありす様という事ですね!万魔央様の姉は伊達じゃないということですか!万魔様はどう思われますか!!」


「そうじゃの。とりあえずなんでこやつらは探学生なんぞやっておるんじゃ?これもう学生レベルじゃないじゃろ」

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