第138話 分析

 強さはれーくんに全くちっとも全然これっぽっちも及ばないけど、れーくんと戦ってるみたいだよ。平気な顔してポンポン王級魔法を使ってくるれーくんと違って、織田さんが使ってるのはおそらく低中級魔法だけど。無詠唱でこれだけポンポン撃てるだけで十分凄い。れーくんの場合は一発アウト、織田さんの場合は数発くらいなら問題ないかな。当たる気はしないけどね。


 それよりも問題なのは私の攻撃がちっとも通らない事だよ。こんなことなら攻撃魔法はれーくんがいるからいいやって、後回しにせずに一つくらいは身につけておくべきだったかな。でも大鎌使うのに関係ないからなぁ。必要になるなんて思わなかったし。あればこの状況も少しは変わってたかな?ない物ねだりしても仕方ないけど。


 何処から斬ってもどのタイミングで斬っても弾かれる。私の攻撃に合わせて防御してる感じじゃない。こっちの攻撃のタイミングで魔法もカウンターで使ってきてるから、攻守どちらかだけというわけでもない。おそらくれーくんの三次堅トライフォースと似たような感じ?防御に比重を置いてるせいで攻撃が低中級になってるのかな?


 本当に超劣化れーくんだね。全部が二番煎じでお粗末なお陰で余裕を持って戦えてるわけだけど。でも確かにこれが出来るなら、私たち全員とまとめて戦うなんて発言も頷けるよ。そしてそんなれーくんの超劣化版織田さんにすら現状の私じゃ歯が立たない。雷鳴ならおそらく通ると思うけど、溜めと集中する時間が作れないし。今後の課題だね。


 はぁ…弱いな私は。まだまだ全然だよ。れーくんは喜んでるから最低限の目的は達成できてるけど、私は喜ばせたいだけじゃなくて並びたいんだよね。目標は遥か遠く、影さえ踏めない、背中も見えない。何処にいるかも分からない。だけど…どれだけ無茶無理無謀でも、私は絶対諦めないよ!!


 ただ、現状私一人じゃ無理なのも分かったし、織田さんの凄さも十分理解したからここは大人しく一旦引くべきなんだろうけど、でもこのまま何も出来ずに引き下がるのもなぁ。現状の手札で出来そうなこと…レナちゃんの真似事くらいかな?レナちゃんみたいに器用じゃないから出来るかな…うん、出来る、きっと出来る。この子は小さな頃からずっと一緒で、私と一緒に成長して来たんだから!!



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 織田遥の追撃をかわし、十分以上に距離を置いた状態で、天月ありすが足を止めた。一体どういうつもりなのか。織田遥も追撃を止め、天月ありすの出方を窺う。最初のアレを使うつもりなのか?確かにアレなら防御が意味をなさないだろうが、予備動作が必要なのは確定だろう。そうでなければ通常の攻撃に紛れて放てば良いだけである以上、脅威足り得ない。それは当人も分かっているはず。


「強いね織田さん。大言壮語に偽りなしだね。現状の私じゃ打つ手無しだよ」


 天月ありすが口にしたのは実質の敗北宣言だった。彼我の実力差は明白、とはいえあっさり言ってのける姿に少々拍子抜けしてしまう。実際今の彼女は織田遥にとって脅威ではない。が、ブンブンと周りを飛び回られるのは非常にウザい。何よりここで逃して、再度初撃の不意打ちを仕掛けて来られた場合、またかわせるかは分からない。出来れば姿を捉えているこの場で仕留めておきたい。とはいえ逃げに徹されたら現状ではどうしようもない。不毛な戦いをこれ以上続けても意味がないし、試しに挑発して、乗ってきたらそこでケリをつけてしまおう。そう考え口を開く。


「私も貴女を侮っていた事を謝罪いたしますわ。所詮は万魔央の腰巾着。あっさりケリがつくと思っていたんですが、当てが外れてしまいましたわ」


「ま、そう思われても仕方ないね。とはいえ私もショックなんだよ?れーくんモドキに手も足も出ないなんて」


「…は?今なんと仰いまして?」


「私もショックなんだよって」


「その後ですわ!!」


「?れーくんモドキに手も足も出ない?」


「それですわ!!モドキ?私が万魔央の真似事ですって!?」


 試しに挑発してみたら、聞き捨てならない言葉が平然と返って来た。ふ、ふざけたことを…この小娘!!私が万魔央の真似事などと、冗談にも程がありますわ!!


「だって、今までの戦闘、れーくん相手にした時の焼き直しみたいなもので凄く温かったし。織田さんの防御魔法もれーくんみたいだったしさ。二番煎じ?猿真似?とにかくれーくんみたいだなって。れーくんの方が凄すぎて比較するのもおこがましいけどね」


 私が真似してるんじゃなくて万魔央が真似してるんですわ!私の方が年上なんですからそうに決まってますわ!!


「ふんっ!私が誰かの真似事など言い掛かりも甚だしいですわ。しかし万魔央も性格はともかく実力は万魔様に認められるほどですし、そうですわね。万魔央も魔法戦が得意のようですし、同じ強者同士、求めるもの、考える事が似通うのもある種当然かもしれませんわね」


「はぁ!?誰とれーくんの相性がバッチリって!?寝言は寝て言って!!織田さんみたいに我が強くて高飛車な人は、男の人に敬遠されて一生独身だよ!!当然れーくんだって眼中にないよ!!」


 天月ありすの暴言が織田遥に突き刺さる。普段の行いのせいで散々家族から嫁の貰い手を心配されていた織田遥は、この手の話題に辟易しつつも敏感だった。そして天月ありすの告白千人斬りを知っていただけに、効果は抜群だった。


「ふ、ふ、ふざけるんじゃないですわ!!私が選ばれないのではなく私が選ばないだけですわ!!そもそも私より弱い男なんてこっちから願い下げですわ!!」


「つまりれーくん狙いって事!?…まさかれーくんの悪口言ってたのも気を引く為?ふざけないで!そんなの絶対認めないよ!!ちょっとれーくんと似たようなことが出来るからって…!織田さんはれーくんに及ばない!その防御、絶対突破してやるんだから!!」


「そちらこそ、私が万魔央のように魔法しか取り柄がないと思っているのなら大間違いですわ!!二度と舐めた口を聞けないように、私の凄さをその身にしかと刻んで差し上げますわ!!」


 戦いと全く関係ない事でお互いの地雷を踏み抜いた結果、引く選択肢は消滅し、戦闘は続行される。

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