第135話 観戦

 フィールド崩壊に巻き込まれない様、森の中を走って逃げる事を強制された俺は、少なくない精神的ダメージを負っていた。なっちゃんやばない?なんでこんなちっこいのにこんなに速く走れるの?持久力も間違いなく俺よりあるんだが?その姿は、さながら森の中を縦横無尽に駆け回るシマリスの如く。なっちゃんははむすたあじゃなくてリスだった!?


 これなら余裕を持ってフィールド縮小から逃げられるだろう。嬉しい誤算には違いない、違いないのだが…なっちゃんは戦えない運動音痴じゃなかったの?詐欺だよこれ。見た目に偽りありだよ。こんなの絶対おかしいよ!仲間だと思ってたのに…でもよく考えたら身体能力低い奴が探学に受かるわけないな。くそ、運動音痴仲間は紗夜ちゃんだけか。3vs2で優勢だと思ってたのに逆転されちまったぜ…


 この調子なら、目星をつけた開けた場所にも問題なく辿り着けそうだな。残る問題はトイレのみ。あればよし、なければ中心エリアに行くしかないが、それは当初の予定通りだしな。現状逼迫はしていないが余裕はない。可及的速やかに目標を達成する必要がある。


 キンッと澄んだ音と共に魔法が消費される感覚。攻撃された?大した事ない攻撃っぽいが…どこからだ?こんな時に一体誰だよ。走る速度はそのままに横を見やると、そこには俺を追い越そうとする見知らぬ女の子が。攻撃してきたのはこの子か。放っておいても良いけど、絡まれたら面倒くさいな。よし、始末しよう。遠距離から攻撃してくりゃ放置してたんだが…わざわざ接近した己の不幸を呪うがいい。


「邪魔」


 追い抜こうとする女の子に銃口を向ける。俺と視線が合い、突き付けられた銃口に驚愕の表情を浮かべる女の子。勘違いしている奴が多いが、銃は遠距離武器なんかじゃない。近距離武器なんだぜ?正しくは近距離、中距離、遠距離全てにおいて隙の無い完全万能兵器なのだ。なのにのこのこ近接戦を仕掛けてくるとは!己の見識の甘さを、パンデモランドのメリーゴーランドにでも乗って反省するんだな!!


 玩具の銃から放たれた閃光は名も知らぬ少女を飲み込み、俺は脱落の確認をするのも面倒なのでそのまま走り去った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ナツキちゃんの無慈悲な一撃が炸裂ぅ!!東北探学1年生・須藤裕子さん、残念ながらここでリタイアです!!」


「背後からの一撃、完璧に決まったと思ったが、日向の防御を突破する事が出来なかったな」


「見ているこっちも手に汗握る刹那の攻防でしたね!須藤さんに全く気付いていないナツキちゃんにハラハラしちゃいました!!」


「須藤の判断は間違ってはいない。無防備に背中を見せて隙を晒して走っている敵を狙うなというのは酷な話でもある。ましてや相手は日向奈月、攻撃能力が皆無という事くらいは知っていただろうからな。魔法による遠距離攻撃をせず近接攻撃を選んだのは確実に仕留める為だろう。タイミングも申し分なかった。相手が悪かったとしか言いようがない」


「そもそもあそこまで隙を晒して走る奈月も大概じゃの」


「それだけ防御に自信があったという事でしょうか?攻撃は出来ないナツキちゃんですが自衛は出来ますし」


「防御魔法を使うそぶりすら見せなかったな。日向の着ている黒巫女の衣装は本物だが、あそこまでの防御性能はない。先ほどの防御、あれはまるで…」


「余程奈月が大切じゃったのかの?攻防ともに過剰な魔道具を渡しすぎじゃ。一体何を想定すればこんなものを渡そうとするんじゃ…これはちょっと反則じゃのぅ。殺さなければ何でもありといった手前、咎めるのも筋違いじゃがの」


「見ている分には楽しいですけどね!圧倒的な火力、強固な防御力、プチ万王様を見てるみたいでワクワクします!なにより可愛いのが最高です!!」


「映像映えするのは確かだな。以前魔央様がおっしゃっていたギャップ萌えというやつだろう」


「確かに!ナツキちゃんのような小柄で華奢な可愛い女の子が、圧倒的な力で蹂躙する様は見ていて爽快です!!」


「それを言うならこちらの戦闘も中々に見物じゃな」


「そうでした!ナツキちゃんのかっこ可愛さに思わず気を取られてしまいましたが、何の因果か、こちらも同タイミングで戦闘が展開されています!!」


「黒い目玉の出現で参加者が一斉に動き出したからな。散発的に遭遇戦が発生しているが、倒すというよりは牽制の意味合いが強い。不意を突かれて脱落する奴も出てくるだろうが…この突発的に発生した戦闘で一番の見所は何処かと言われたら、やはりここだろう」


「天月ありす様と織田遥さんですね!遮るものがない平原エリアでの1vs1での遭遇戦です!!」


「ありす様が得意とするのは接近戦、織田遥が得意とするのは魔法戦だ。本来なら平原エリアはありす様にとっては不利になるはずなのだが」


「身を隠せる場所がありませんからね。魔法戦が得意な織田遥さんを相手に、常に身を晒しながら戦う事になります」


「初手の不意打ちで織田遥を仕留められなかった以上、本来ならそのまま離脱すべきなのだが。先ほどの須藤と違って、その余裕は十分あったはずだ」


「ありす様はその場に留まる事を選択されましたね。お互いに何やら思う所がある様ですから、そのまますんなり解散とはいかなそうです」


「織田遥に立て直す余裕を与えた以上、ありす様がいかに織田遥から逃げ切るかの撤退戦になると思っていたのだが。ありす様を少々見縊っていたようだ」


「私も驚きです!アレナちゃんねるのダンジョン配信は毎回欠かさず視聴していますが、こんなありす様の戦い方は初めて見ました!!」


「これがありす様本来の戦い方なのだろう。ダンジョン配信時での戦い方とも、私と模擬戦をした時とも違う。平原エリアでの戦闘は織田遥に利するだけかと思ったが、ありす様にとってもその方が都合が良かったという事か」


「裏を返せば、織田遥さんは本気で戦わなければ勝ち目のない相手という事ですね!果たしてこの二人の勝負の行方はどうなるのでしょうか!?ここからはTVの前の皆さんと一緒に見守りたいと思います!!」

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