第128話 ファーストブラッド1

 バトルフィールドに盛大にサイレンが鳴り響く。これが開始の合図だろう。この無骨なサイレンの音。空襲警報や災害発生みたいな感じで不穏な雰囲気出してて良い感じじゃないか。担当者は分かってるな。まあこれから響くのは警報じゃなくて絶叫だけどな。とりあえずは…適当で良いか。探査魔法使うかどうかは縮小範囲に巻き込まれそうになってから考えればいいかな。まだ序盤だし誰もが様子見してるだろうから、適当にほっつき歩いても多分大丈夫だろ、森の中だから目立たないだろうし。


 誰か見つけたら…森の中を追いかけるのは面倒だな。襲ってきた奴を返り討ちする方針で行くか。まあ、こんな可愛い女の子をいきなり襲う奴なんて、まずいないだろうけど。礼儀には礼儀を、無法には無法を。まだ序盤なんだから気楽に行こうぜ!先は長いんだからさ。問答無用で仕掛けてくるような不届きものなら…何されても文句言えないよなぁ!



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「さて、バトルロイヤルが始まったわけですが、流石にいきなり戦闘が始まったりはしませんね」


「初期位置はバトルフィールド中心部を除いて、一定距離を空けてランダムに配置されているはずだ。場所によってかなり有利不利が出てくるだろうが、その辺りは完全に運だからな」


「確かにここで確認する限り均等に散らばってます。バトルロイヤル参加者がスマホで確認できる関係上、このミニマップをTVでご覧の皆さんにお見せ出来ないのが残念です。このバトルロイヤルが再放送されることがあればその時は見れると思いますのでそれまで我慢してください。これを見ると平原エリアに飛ばされた人はかなり運が悪いですね。発見するもされるもかなり遠目から分かりますからね」


「逆に建物の近くに飛ばされた者はある程度余裕を持って行動出来るだろう。スマホが使える事にいち早く気付くのはそういった者達だろうな」


「家の中に身を隠せばまず気付かれませんしね。誰かが入ってきたらすぐ分かりますし」


「決戦の舞台となるだろう中心エリア、水場や食料確保が出来る場所には定点カメラが設置されていますが、今のところ誰も映りませんね」


「あれも駄目これも駄目では、環境映像を見ているようなものだしな。ミニマップに表示されている番号を押してみるといい」


「これですか?画面が切り替わりましたね。ここは…森の中でしょうか」


『ある日~、森の中~、ドンチュウに~、出会った~♪』


「ドンチュウ?無常様、これは何なんでしょうか」


「参加者にはマーカーと、小型カメラを首元に身につけてもらっている。今映っている映像は先ほど押した番号の参加者視点だ」


「ラッキーセブンを押してみたんですけど、凄いの引いちゃいましたね」


「面白そうじゃの。鏡花、番号がそやつがおる位置になるのか?」


「ご推察通りです万魔様。こちらが参加者と番号の対応表となっております」


「へ~、そうなんですね。それじゃ番号同士が接触してるここなんかは、参加者同士が近くにいるって事ですか?」



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 クソッ!何なんなんだ、何なんだアイツはよぉぉおお!!森の中を必死で逃げ回る。背後からは魔法?おそらく魔法だろう。俺を狙って襲い掛かってくる。後ろから追い立てるように、逃げ道を潰すように飛んでくる魔法を回避しながら、俺は必死に逃げまわる。どうしてこんな事になってんだ!?反撃する糸口さえ見つからない。景気付けにサクっと倒す予定の筈が!なんで俺が逃げ回る羽目になってんだよぉぉ!!とにかく今は距離を取るのが最優先だ!!幸いアイツは足が遅い。この調子なら逃げ切れるはずだ。くそ…くそくそくそ!こんなはずじゃなかったのに!!

天獄杯がバトルロイヤル形式で行われると決まった時、チャンスだと思った。四国探学から天獄杯出場者に選ばれるのは、はっきり言ってしまえば落ちこぼれの証明だ。毎年一度、この時期に行われる禁忌領域の侵食防衛戦。当然戦う力を持っている以上、探学生にもお鉢が回ってくる。これは四国全土で行われる総力戦だからだ。


 しかしここにいる俺たちは違う。戦力外通告。安全に考慮して、経験を積む為に、将来に期待して…そんな見え透いた建前を並べちゃいるが、実際は戦力にならないから、足を引っ張られたら困るから、邪魔にならない所に隔離する。そうやって天獄杯に出場させられたのが俺達だ。誰もが分かっているからこそ、ここに来た奴らは皆やる気がない。モチベーションが低い。なんなら天獄杯を無料で行ける観光旅行気分なお気楽な奴らが大半だ。


 だけど俺は違う。なぜ俺が天獄杯代表になんて選ばれてるんだ。納得がいかなかった。当然抗議もしたが、覆る事はなかった。俺より弱い奴なんて他に幾らでも居るだろう。なぜそいつらが四国に残って、俺が四国探学代表になんて選ばれてるんだ。俺残れないなら全員不適格だろうが!お前がそんな考え方をしているからだと教師は言っていたが、探索者は自己責任だろう?俺は自分の強さに責任を持っている。だからこそ四国探学に入ったし、防衛戦に参加するつもりだった。俺にはその資格がある。強さもある。意思もある。だが結果はどうだ?雑魚どものお守りで天獄郷だ。


 許せなかった。俺を下に見る教師も、みんなを頼むなんて笑顔で言ってきた同級生の奴らも、全員俺を内心で見下してやがる。お前にはその程度がお似合いなんだと。確かに上には上がいるだろう。俺は自分が最強だなんて自惚れちゃいない。だが自分が弱いとも思っちゃいない。団体戦は他の奴らが足を引っ張って勝てやしないだろうが、個人戦なら当たり方次第で良い所まで行けるはずだった。努力だってして来たんだ。俺が評価されないのは間違ってる!!


 個人戦での対戦相手次第では初戦負けして無様に帰路につく可能性もあったが、天は俺に味方した。あの織田家の女が突然言い出したバトルロイヤル形式が何故か採用された。万魔様の気まぐれに感謝するしかない。これで俄然俺にも勝ちの目が出てきた。優勝は出来ずとも、立ち回り次第では最後まで残るのも不可能じゃない。だが隠れて生き残っただけじゃ評価なんてされないだろう。それじゃ狡猾な臆病者のレッテルを貼られるだけで、むしろ卑下される行いだ。


 とはいえ正面から戦いを挑むほど俺は自分に自惚れちゃいない。相手は四国探学と違って、校内対抗戦でライバル相手に勝ち抜いてきた猛者達だ。重要なのは相手より先に見つける事。行動は慎重に。息を潜め機会を伺い、しかしチャンスが来たら一息で仕留める。四国探学でのサバイバル訓練がまさか役に立つとはな。ダンジョンがある他の探学の奴らは、実地で対人相手のサバイバル訓練なんてしてないだろう。このアドバンテージを活かし切って、俺は自分の価値を証明して見せる!!

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