第126話 バトロワ開始前

 天国の間から退出した後、レナちゃんと紗夜ちゃんと一緒に奈っちゃんが出てくるのを待つ。幸い時間はまだあるし、やっぱり何を貰うのか気になっちゃうし。


「奈っちゃん、なに貰うんだろうね」


「奈月が戦えない事は配信でバレてますし、護身用の魔道具じゃないですか?」


「でも守ってばかりじゃ勝てないよ?相手をやっつける武器がないと」


「仮に武器を貰ったとしても、奈月はまともに使えませんよ?」


「それはそうだけど…う~ん、気になるなぁ。聞いても奈っちゃんは教えてくれないだろうけど、バトルロイヤル中に出会えなきゃ、奈っちゃんがどうやって戦うのか分からなくない?」


「確かにそうですが。奈月が戦えるかどうかよりも、奈月が貰った物が規格外かどうかの方を心配した方が良い気もしますね」


「それは確かに…れーくんはその辺の感覚ズレてるからね。れーくんにとって大した物じゃなくても、私たちにとってはヤバい物をポンとくれたりするからね」


「そうですね」


 レナちゃんが腰に差している二本の刀をきゅっと握る。れーくんが魔法剣だ!とか騒いだ結果、無常先生経由でレナちゃんにプレゼントした刀だ。消滅しても替えがあるから存分に使えと言われたらしいけど、初めて貰ったプレゼントでそんな事を言われたレナちゃんは微妙な気持ちだったと思う。そもそも最初のプレゼントに刀をあげるという選択肢がダメダメだと思うんだけど、奈っちゃんも似たような感じになるのかな?でも奈っちゃんは羨ましがってたし、結局なんでも良いんだろうね。好きな人から貰えるなら。


 でもそっかぁ。レナちゃんも奈っちゃんもれーくんから貰ったとっておきを使って戦うんだよね。私も使いたいなぁ。でもピンチの時しか使っちゃ駄目って言われてるし…みんな強そうだったし、使うチャンスが来ると良いなぁ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「お待たせ」


 そろそろ移動しないと駄目な時間が近づいて来てようやく、奈月が万魔様と一緒に出てきました。  


「待ってなくても良かったのに」


「もう少し待って来ないようなら行く予定だったよ。…奈っちゃん?」


「なに?」


「…奈っちゃんだよね?」


 いぶかし気に奈月を見るありす。一体どうしたんでしょうか。奈月になにかおかしな所が…あ。


「変なありす。わたしがわたし以外に見えるなら、一度病院で診てもらった方がいい」


「そこまで言う必要ないじゃない!」


「わたしが普段と違って見えるなら、きっとこれのせい」


 両手を上げて手をプラプラさせる奈月。その両手首にはありすと同じブレスレットが、奈月の髪の色とおそろいの青色のブレスレットが嵌められていた。


「それは…」


「ふふん。ありすのしてるアイテムバッグと色違いらしい」


 心なしか自慢げに見せびらかしている奈月を見て、内心ちょっとだけションボリしてしまいました。


「それ大丈夫なの?奈っちゃんの持ってたアイテムバッグってリュック型だったよね?」


「問題ない。これは天獄殿で手に入れた物。ルールには抵触しない」


 確かにそうですが…あのルールは天獄殿に持ち込めさえすれば何を使っても問題ないと言ってるようなものでしたし。警備の方達にバレずに侵入し、受け渡し出来るなら、ですが。れーくんが好きに動く分には全く縛りになってませんね。隣におられる万魔様が何もおっしゃらないですし、問題はないのでしょう。


「なっちゃんも私とお揃いだね。でもそうなるとレナちゃんと紗夜ちゃんがちょっと可哀想じゃない?」


「…れーくんは後でプレゼントするって言ってた」


「そうなの?なら問題ないね。レナちゃんと紗夜ちゃんも一緒にいる時間が長いから、れーくんも気配りするくらいには慣れたのかな?私は嬉しいよ!」


 そうなんですか!バトルロイヤル後の楽しみが増えましたね!!


「それよりも早く行こう。貰った武器を早く使いたくてウズウズしてる」


「急いでも開始時間は変わらないよ?でも良い時間だし行こうか。それじゃ紗夜ちゃん、万魔様。行ってきます」


「うむ。頑張るのじゃぞ」


「行ってらっしゃいませ、御義姉様方。吉報をお待ちしております」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 あぶねぇ…なっちゃん本人でさえ見分けつかないって太鼓判押してたのに、なんで疑問に思うんだよ。とりあえず誤魔化せたから良いが、バトロワが始まるまでは大人しくしといた方がいいな。ほんとに大丈夫だよな?めっちゃ緊張するぜ…


「大丈夫奈っちゃん?いつもと様子が全然違うけど」


「実戦が初めてだから緊張してる。大丈夫じゃないけど慣れるしかない」


「それもそっか。奈っちゃん本人が戦う事になるかもしれないんだもんね。流石の奈っちゃんも普段通りにはいられないか」


 緊張してるのは本当だからな。緊張してる理由は全然違うけどな!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 初実戦という事であーちゃんも納得したのか、その後は訝しむ様子もなく集合場所に到着し、バスに乗って皆で仲良くパンデモランドへ。途中で眠らされたりすることもなく、無常さんの引率でバトロワ会場へと向かう。最初はお祭り気分だった空気も、流石にパンデモランドに到着すると皆の口数も減り、ピリついた緊張感が生まれ始める。誰も居ないパンデモランドを見て実感が湧いて来たんだろう。本当に貸し切り状態でバトロワするんだなと。敗者はそのまま遊び放題だが…これ序盤で負けた奴にはとんでもない罰ゲームになるな。


「それではこれより、栄えある第一回・天獄杯バトルロイヤルを執り行う」


 無常さんの声が響くと同時、参加者たちが居住まいを正す。


「基本ルールに関しては以前言った通り、殺しさえしなければ基本何をやっても問題ない。フィールド内にある物体も破壊して構わないし、使える物があった場合、好きに使って問題ない。バトルフィールドについてだが、時間経過によって徐々に縮小していき12時間後に全てが消失する。縮小する際は事前に兆候がある為、速やかに移動し該当エリアから離れる事をお勧めする。当然、消失時にその場にいた者は脱落となるため注意しろ。


 なお、今回のバトルロイヤルは、天獄杯の放送枠で特別に全国放送される事になっている為、お前達には入場時、このマーカーとカメラを付けてもらう事になる。特にマーカーだが、天獄郷解放で遊んだ事のある者なら分かるだろうが、お前達の状況をリアルタイムで把握する為のものになる為、体のどこかに身につけるように。仕様の都合上、壊れた場合は強制的にエリア外に退場、脱落する事になるが、そう簡単に壊れる物ではないから安心しろ。それこそ命に関わるような攻撃を食らわない限りはな」


「それでは名前を呼んだ者からマーカーとカメラを受け取って中に入ってもらう。全員が中に入ってから10分後にバトルロイヤルを開始する。合図があるまではその場で待機しておくように。最後に一つ。お前達の行動如何によって、このバトルロイヤルが今後も行われるか、それとも今回限りになるのかが決まるだろう。皆の健闘を期待する。それでは名前を呼んでいくぞ―――――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る