第115話 大義

「全国に存在する8つの探索者学校。そこから選び抜かれたエリート探索者の卵たち。その全てが遂に出揃いました。皆さん自信に満ち溢れた表情をしています」


「凄く楽しみだね。織田や毛利が実力を見せつけるのか、それとも隠れた実力者が話題を攫っていくのか。今年の天獄杯は今まで以上に見過ごせないよ」


「さあ、それでは選手宣誓です。今年の天獄杯で宣誓するのは北陸探学の伊達梓さんです。宣誓するのが一人の都合上、前年の個人戦で最も優れた成績を残した探学生が選ばれる事が多いですね」


「その慣例に倣えば、本来宣誓するのは北条泰正君の予定だったんだけどね」


「覚えている人も多いんじゃないでしょうか?北条泰正さん、万魔央様の逆鱗に触れ、無謀な決闘の原因となった北条家の嫡男ですね」


「あの決闘は不運に不運が積み重なった結果行われたものだと僕は思ってるよ。今だから言えるけど、巻き込まれた泰正君はちょっと可哀想だったかな」


「巻き込まれたというより巻き込まれに行ったという方が正しいと思いますね。私は自業自得だと思いますが」


「そこは否定しないよ。ただ騒動の中心にいて、最も遠い人だけが亡くなったのはちょっと納得いかないけどね」


「そのお陰で残り二人が生き残ったという面はあるかもしれませんね」


「ま、残念だけどいない人の事を言っても仕方ない。参加してる子達だけでも十分凄いのは確かだしね」


「これだけ豪華なメンバーが揃っているわけですから、いっその事最強を決めるバトルロイヤルでもしてくれたら面白そうなんですが」


「そんな事したら大会の体を為さないよ。あくまで天獄杯は日頃培ってきた探索者としての技能を披露する場なんだから」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 伊達梓と言いましたか。中々彼女は見所ありますわね。流石は元東北禁忌領域守護職、伊達家の末裔なだけありますわ。ふらっと現れた万魔が禁忌領域を解放した後、解放された禁忌領域への権利を主張せず潔く身を引いた清廉さ、その後も他の禁忌領域へと赴き解放を果たさんとするその志の高さ。私欲に塗れず真に日本の未来を憂い、その身を捧げ続ける高潔さ。あれこそが理想の禁忌領域守護職と言えるでしょう。滅私奉公、日本とそこに住まう力なき人々の安寧の為、私達は今まで戦い続けてきたというのに…


 万魔央。万魔の後継者というだけのぽっと出野郎の発言で、今まで築き上げてきた領域守護としての名誉と誇りがこうも容易く汚されるとは思いもしませんでしたわ。とはいえ国民の皆さんを恨むのも筋違いというもの。水が低きに流れるように、雪が降り積もる様に、力なき者は楽な方へ、他人を貶める方へと向かってしまうものですわ。だからこそ力ある者が正しき道に人々を導く責任があるというのに!


 万魔の様に人の営みに口出しせず傍観するならまだしも、その影響力を背景に、あれほどの力を私利私欲で好き勝手に振るう子どものような未熟な精神性、それを当然と考える傲慢さ、万魔の後継者というネームバリュー、それに盲目的に追従しかねない日本国民。あの男を放置すれば最悪日本滅亡ですわ!


 万魔央がまともでしたら禁忌領域解放も夢物語ではないというのに。別に関西禁忌領域を解放しろなどと言うつもりは微塵もありませんわ。それこそ北条との決闘の責任を取って関東禁忌領域を解放するべく尽力するだけでも良いのですわ。日本を導けるだけの立場と力を持っていながらあの体たらく。万魔も諦めているのか放置していますし、誰かが一発ガツンと言ってやらなければなりませんわ。誰もが腰が引けているのなら、代わりに私がやってあげますわ!丁度選手宣誓が終わりましたし、今がチャンスですわ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「伊達梓さんの選手宣誓が終わりましたね。今年こそはと意気込みがここまで伝わる素晴らしい宣誓でした。個人戦でも是非活躍して欲しいですね。さあ続いては天覧席から万魔様の開会宣言です!実は万魔央様と一緒にして下さるかもと内心期待していたんですが、観客席におられましたので流石に無理ですね。残念です」


「ま、心配しなくても近いうちに話す機会があるかもしれないよ?夏休みの間は天獄郷に滞在されるらしいからね」


「そうなんですか!?それだけ期間があるなら是非とも特別ゲストとしてTVに出演して頂きたいですね!全ての予定をキャンセルしてでもねじ込みますので!!」


「それは難しいんじゃないかな?でもありす様達ならオファーすれば引き受けてくださるんじゃない?」


「確かに!それも全然アリですよ!!番組プロデューサーさん今すぐ段取りお願いします!!…あれ?何でしょうか。伊達梓さんと入れ違いで宣誓台に歩いていく人がいますね。あの特徴的な髪型は…織田遥さんですね。プログラムの変更があったんでしょうか?こちらには情報が届いてないですが」


「変更はないと思うけど。それよりもあまりにも歩く姿が堂々としすぎていて誰も止めに入らないね」


「スタッフの皆さんも突然の事過ぎて戸惑っているようですね。急遽差し込まれたイベントだと思ってるんでしょうか」


「あらら。宣誓台に上っちゃったね。流石に今から取り押さえるのは無理かなぁ」


「一体何をするつもりなんでしょうか?伊達梓さんの選手宣誓にあてられて自分も一言言いたくなったんでしょうか?」


「そこまで身勝手な子じゃないと思うけど…いやどうなんだろう?聞いた話だと織田家当主に無断で天獄杯出場決める位だし。ま、暴れでもしない限りとりあえず静観するしかないんじゃない?観客の人たちはこれもプログラムの一環だと思ってそうだから、取り押さえる方が事が大きくなりそうだ」


「天獄ドーム9万人の観衆の見守る中、一人宣誓台に上がった織田遥さんは一体何をするつもりなんでしょうか?一挙手一投足に注目が集まります!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る