第114話 例のアレ

 禁忌領域守護勢力を侮ってはいけない。今回の件で奴らの脅威度を上方修正する事にした俺は今までの自分を戒めた。奴らは長年禁忌領域から日本を守護して来た結果、その使命がいつの間にか自分たちの欲望と超融合してとんでもない性癖モンスター集団になってしまったのだろう。毛利は衆道に、織田は目立ちたがりの痴れ者集団といった具合に。だとすれば他の禁忌領域の奴らは一体どんなモンスターになっているというのか…


 そうだとするなら、北条は奇跡的に真っ当だったという事になり、そして俺は禁忌領域でおそらく唯一まともな奴らと敵対してしまい、結果ボロクソにしてしまったわけか…とはいえ奴らも偶々俺が気付かなかっただけで何かしら変態性癖を持っている可能性は高い。可能性としてはそう、コスプレだろうか。いや、コスプレは変態性癖じゃないな。そもそもメイド服って作業着だからコスプレじゃないし、猫耳だってホワイトプリムの亜種だと思えばおかしくはない。健全、そうコスプレは健全。つまり北条は健全。紗夜ちゃんも健全。あーちゃんも健全。俺も健全。なにもおかしなことなどない!!


 ぐぬぬぬ…救いがたい事実から目を逸らさんがため、必死に自己暗示しようとするが、悲しいかな、一際大きな歓声が起こり現実に引き戻される。


「主様、ありす御義姉様達が入場されますよ!!」


 失意から立ち直っていた紗夜ちゃんが入場して来た関東探学の集団を指さす。遠いから良く分からないだろと思ったが、黒巫女さんの服が目立ちすぎてどこにいるか遠目でも分かってしまった。他の奴らが学生服なのに三人だけ巫女服とか場違い感ぱねぇ…さっきの織田のヤバい奴といい、何時から天獄杯はコスプレ会場に…いや、織田はともかくあーちゃんたちのあれは戦闘服であってコスプレじゃない。人一倍気合が入ってるってだけだよな。なんせパンデモランドの貸し切りが懸かってるもんな。頭に例の電波ソングがリフレインされるが、あれは巫女服であってナース服ではない。つまり問題ないと思い直す。


 それにしてもなんでこんなに盛り上がってるんだろう。さっきと違って今は会場全体が盛り上がってないか?間違いない、これはあーちゃん効果だ!流石だぜあーちゃん!いつの間にこんな愛されキャラに進化していたんだ…!配信始めるなんて言った時は正直止めるべきか迷ったが、今や老若男女問わず魅了するそのカリスマ性。やっぱりあーちゃんは最高だぜ!!


「主様!ありす御義姉様がこちらに手を振ってますよ!」


 確かに!俺たちのいるエリアの前を通りがかったタイミングで、あーちゃんがこちらを見て手を振っている。こんな場所にいるのに良く分かったな…俺だったらまず間違いなく見つけられないぞ。思えば小さい頃にかくれんぼで遊んだ時もあーちゃんはすぐ見つけてきたな。双子特有の共感覚とかそんなのが働いてるのかと思ったが俺には全くそんなものないし。あーちゃんは俺が近くにいたり見てるのが何となく分かるとか言ってたが。かなり距離あるだろうに…ここまで離れてるのになんでわかるんだ。しかもここ最上段だぞ。


「アリスちゃんが俺に向かって手を振ってるぞ!!」


「いいや俺だね!アリスちゃーん!!」


「お前ら寝言言ってんじゃねえよ!あれは俺に向かって笑ってくれてるんだよ!!」


「レナちゃーん!こっち向いて―!!」


「ナッちゃんの晴れ姿をまさか拝める日が来るとは!」


「巫女服最高!俺の心のフレームに永久保存だ!!」


「まさか織田遥用に持ってきていた超高性能カメラがこんなにも役立つとはな!流石は天獄杯と言うべきか。撮るべき対象が多すぎて、アルプススタンドの美少女チアガールばっかり映すカメラマンの気持ちが良く分かるぜ!」


「合法的に美少女を撮りまくれるとかまさに天国杯!名称に偽りなしだな!!」


「後は万の旦那の働き次第で伝説の天獄杯の誕生だ!!」


 あーちゃんに手を振ってもらったと勘違いした野郎どもがにわかに騒ぎだす。織田の時といい、こいつらノリが良すぎだろう。あとお前らに手を振ってるわけじゃないからな。でも好きな子がこっち見て目があったと錯覚して勘違いする気持ちは分かるから、俺はお前らを否定しないぜ。精々甘美な白昼夢に酔いしれているがいいさ。面と向かって否定されるまで全ての可能性は微レ存しており、シュレディンガーのあーちゃんはお前らの心に確かに存在するんだ。ありもしない可能性を追い求め続け、一生あーちゃんを推し続けるが良い。他人の妄想に口を出すほど俺は狭量じゃないぜ。実行したら殺すけどな。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 くっ…なんて事ですの!?関東探学が私の時より遥かに盛り上がってますわ!なんでですの!?意味が分かりませんわ!納得出来ませんわ!!なんでこんな事になってるんですの!…もしや万魔央が関東探学に!?…いえ、そんな気配は微塵も感じませんでしたわ。あれほどの強者が身近にいて気配が感じられないなんてありえませんわ!!


 となると考えらえるのは、天月ありす…ですわね。いえ、アレナちゃんねるの三人と考えればこの盛り上がり様もまだ納得できますわね。単独なら私の方が遥かに勝る人気っぷりでしたものを…このままでは私の伝説にケチがついてしまいますわ。どうにか注目を取り返さなくては…それにしても天月ありす。笑顔で手を振って観客にアピールするなんて浅ましいですわ!まさか…私のファンを奪うつもりですの!?しかもあそこは私の部下達がいた場所ですわ!!ぐぬぬぬ、天月ありすが人気取りをしているのを眺めている事しかできないなんて、無力な自分が恨めしいですわ…!?あれは…天月ありすが向いている方…間違いありませんわ!!万魔央!万魔央ですわ!!見つけましたわぁぁああああ!!


 来ているとは思っていましたが、まさか観客席で呑気に観戦しているとは!まさに僥倖、これは千載一遇のチャンスですわね。このタイミングで万魔央を見つけられるとは、神は私の味方ですわ!!わざわざPT戦で優勝して万魔に面会のセッティングをしてもらう必要もありませんわね。こちらから直接接触するのは固く禁止されていますが、いると分かっていればやり様はありますわ。ここで会ったが百年目、タイミングを見計らってこの場で宣戦布告ですわ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る