第108話 東海探学 

「あの人、一体何がしたかったのかな?」


 風音ちゃんの脅しで捨て台詞を残して引き下がった織田さんだったけど、関西探学の場所に戻ってからもちらを気にしているのが手に取る様に分かってしまう。髪型のせいであの人凄く目立つんだよね。気付かなかったさっきまでと違って、こっちも気になっちゃうよ。当人は気付いてないかもしれないけど、髪の毛がくるくる動くからバレバレなんだよね。


「大方、わたしたちのパンデモランドの貸し切りに便乗して、自分も混ぜろとがめつく要求する腹積もりだったと思う」


 そんなにパンデモランドで遊びたかったのかな?でも仕方ないね。こればっかりはれーくんの許可取って貰わないと。それになんとなくだけど、あの人はれーくんに近づけない方が良い気がするんだよね。


「やっぱりそうなのかな?ちょっと可哀想だけど私たちがどうこうできる問題じゃないからね」


 頼めば大丈夫かもしれないけど、心愛ちゃんの件で無理言っちゃってるからこれ以上はね。あんまりお願いばかりしてると我儘な女だって思われちゃうし。


「そもそも貸し切り出来るとまだ決まったわけじゃない。でもあの雌豚のお陰でありすもレナも緊張がほぐれたから、そこは感謝してもいい。言わないけど」


「あれ?そういえばそうだね。私も感謝した方がいいのかな?」


「私は気疲れしましたが。それにしても奈月にしては珍しかったですね。あの人は初対面でしょう?」


「確かに奈っちゃんがあそこまで食って掛かるなんて珍しいね」 


「持つ者に持たざる者の悲哀は分からない。わたしは今の自分に満足しているけど、それでも許せないものは許せない。これは全ての持たざる者の総意。あんな態度も髪も胸もでかい女にかける慈悲はない」


「えぇ…奈っちゃん、それは流石に言い掛かりが過ぎるよ」


「どの道、頼まれた所でわたしたちに決定権はない。頼む義理もない。下手に希望を持たせる方が可哀想」


「それは確かにそうかも。私たちもみんなが行けるように頑張らないとね!」


「ありすはそれで良い」


 優勝してパンデモランドの貸し切り権をゲットしないとね!今日の私は一味違うよ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「さあ5校目、東海探学の入場です。今までの探学生と違ってちょっと落ち着かない感じもしますがどうしたんでしょうか」

 

「これだけの大舞台だからね。緊張するのも当然だよ。他の探学生が入場するのを見て、時間が経つに連れて自分たちがどんな場所にいるのか実感が湧いて来たんじゃないかな?」


「初々しい感じがして良いですね。天獄ドームだけでも9万人の観衆、TVで見ている人も含めれば一体どれだけの国民が注目しているか考えると、緊張するなという方がおかしな話ですし、そんな東海地方ですが、やはりこれを語らないわけにはいかないでしょう。そう、天神囃子です。この不可思議な現象が起こり始めたのは7年前と最近なわけですが、すっかり東海地方を代表する名物と言えるまでになりました」


「天神囃子に関しては謎の一言に尽きるね。理由も目的も原因も、何ひとつとして分からない。分かるのはあれはそれこそ人知を超越した神の所業で、それこそ天神様の仕業だってのが一番説得力あるね」


「今年の天神囃子も凄かったらしいですね。なんでも年々規模が大きくなっているとか。東海禁忌領域守護職の徳川家の方々も対応に四苦八苦されているようです」


「今や天神囃子はちょっとしたお祭り騒ぎになってるからね。何か起こってからでは遅いわけだし、守護職としては注意喚起するのは当然さ。でもお祭り気分になるのも分かるんだよね。僕も初めて見た時は驚きや恐怖よりも感動が勝ったのを覚えてるよ。万魔様の帝級魔法を見ている気分だったなぁ」


「そうなんですか!という事は天神囃子は帝級魔法なんでしょうか?」


「どうなんだろうね。帝級魔法を使える人なんてそれこそ…だしね。僕は味わったことは一回しかないけど、二度目は頼まれても御免だね。あれは人間にどうこう出来る領域じゃないよ。北条の人たちはそういう意味で貴重な体験をしたわけだけだ」


「やはり万魔央さまのあれは帝級魔法なのですか。万魔様が仰っていたので疑っていたわけではありませんが、不思議な感じがしますね」


「今が正に時代の過渡期なのかもしれないね。今後使える人が出てくるのかもしれないよ。僕はあれが人に扱えるとは到底思えないけれど」


「帝級魔法が使える人がもし仮に出てきたとしても、万魔様が最強で最高なのは間違いない所です。さて、東海探学についてですがどうでしょう」


「東海探学の強みは各人に合わせてオーダーメイドされた武器防具かな。東海には日本一の鍛冶場街があるからね。そこで作られた武器防具を使う東海探学生は他の探学生にとっては脅威と言えるだろうね」


「オーダーメイドされた武器防具ですか。それだけ聞くとちょっと不公平な感じがしてしまいますが」


「気持ちは分かるけど、自分に合った武器防具を用意するのも探索者としての実力の内だから。それにオーダーメイドと言っても条件があってね。禁忌領域に赴いて自分で手に入れた素材でなければ作ってくれないんだってさ。まあ単純に勝つためだけに分不相応な武器を与えるような真似をするなら、東海探学は天獄杯出禁になるだろうけど。そんな真似するなら九州探学だって魔道具使わせろって騒ぐだろうしね」


「出禁ですか。でも確かにそうかもしれませんね。武器防具が何でもOKとなってはいますが、それで北条の当主様が使われたような神刀を持ち出されても困ります」


「それはそれで面白いかもしれないけど、その辺は空気を読めって事かな。天獄杯はあくまで学生同士の交流を目的とした、優秀な探索者を育成する為の健全な大会だから。もっとも神刀が実力に見合ってるなら使った所で問題ないけどね」


「そこまでの実力があるなら天獄杯に出る意味もないと思いますが」


「実際魔央様は出場してないからね。もし出場されていたらみんな困っただろうなぁ」


「私としては今からでもサプライズ出場してくれたらとても嬉しいですけれど!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る