第109話 中国探学

「さあ、残りは3校。中国探学の皆さんが入場します。そういえば六角さん。中国地方にも禁忌領域が二つありますよね?九州と違ってそこまで敬遠されてないのは何故なんでしょうか」


「意外と勘違いしてる人が多いんだけど、中国地方の禁忌領域は山陽にある一期一会ノ鬼岩城だけだよ」


「そうなんですか?山陰にある黄泉比良坂・夢幻城も禁忌領域だと思っていたんですが」


「よく混同されるけど、全くの別物、なのかは知らないけれど、禁忌領域とはまた違った領域だよあれは」


「黄泉平坂・夢幻城、守城凪かみしろなぎ様が鎮守されている領域ですよね」


「そう。国生みの神の末裔たる鎮守の巫女姫、守城凪様のおわす神霊領域さ」


「神霊領域…禁忌領域となにが違うんでしょうか。名前からして神聖な感じがしますけど」


「そうだね。そもそもの話、あそこが神霊領域なんて呼ばれ出したのは今から二百年くらい前だ」


「二百年前というと…万魔様が恐山天獄殿を解放された頃でしょうか?」


「その通り。万魔様が禁忌領域を解放されてからなんだ。あの場所が神霊領域と呼ばれるようになったのはね。それまでは守城凪様がおわすだけの社だったらしいよ」


「守城凪様がおわす場所ですから神聖な場所というのは分かりますが、二百年前に神霊領域と呼ばれ出したという事は、禁忌領域の解放と何か関係があるのでしょうか」


「そう考えるのが自然だろうけど、因果関係は不明だね。ただ当時の天獄郷解放運動の絡みで、禁忌領域の当主達や天獄郷の代表、政府代表が集まって行われた御前会議の際に守城凪様から直接告げられたらしいから、気になる人は調べてみるといい」


「私、凄く気になるんですけど」


「話すと長くなるから割愛するけど、平たく言えば神霊領域で力をつけて励めって感じだね。大探索者時代の幕開けさ。とはいえ場所が場所だけに有象無象の探索者達に群がられても迷惑千万。今現在神霊領域に入るの許可制で、基本的に探恊に認められたB級以上の探索者のみ、だ」


「確かに全国から探索者が押し寄せたら迷惑極まりないですからね。天獄殿が関係者以外立ち入り禁止のように、似たような措置を取るのも当然ですね」


「それもあるけど、物見遊山で挑んだところで死ぬだけだからね。実際ろくに規制してなかった当時は面白半分で挑んだ探索者が死にまくったらしいし。ダンジョンと違ってPTを組んで挑むことが出来ないから当然と言えば当然かもしれないけど」


「え、それって禁忌領域にソロで挑めって事ですか?いくらなんでも無茶振りがすぎません?」


「楽して手に入る力なんてあるわけないでしょ。そんなことが出来るなら日本総国民探索者になってるよ」


「それもそうですね。残念ですが私には関係ないようです」


「仮に挑んだとして、必ずしも力を得られるわけではない。しかし探索者として高みを目指すなら挑まざるをえない。神霊領域、黄泉平坂・夢幻城はそんな場所だよ」


「ちなみに六角さんはどうだったんですか?」


「僕は探索者資格持ってないからね。他のダンジョンに潜りたいならともかく、天獄郷で活動する分には必要ないし、天獄郷以外で余分に力を振るうつもりもないよ」


「全ては万魔様の為に。万生教徒として当然の事ですね。それでは中国探学についてお聞きしたいと思います」


「そうだね…天獄杯の前途有望な若者たちの白熱した戦いを期待している人には悪いけど、今年はそういう点で若干消化不良になるかもしれないね」


「このタイミングでそうおっしゃるという事は、もしや中国探学に居るという事ですか?万魔央様に匹敵する存在が!」


「それは流石に言いすぎだと思うけど、今年の天獄杯の主役は余程のイレギュラーがない限り、残り三校のうち一校だろうね」


「六角さんにそこまで言わしめるとは!これは中国探学に期待が持てますね」


「電撃参戦と言っても良いだろう。中国探学には毛利、そう中国禁忌領域守護職の毛利家から当主玄武様の次男、毛利恒之君が個人戦で出場してるんだよ」


「禁忌領域守護家からの参加と言えば、一昨年に北条泰正さんが関東探学から出場していた事で話題になりましたが、珍しいんでしょうか?」


「領域守護家、それも当主の直系が天獄杯に参加するなんて、滅多にというか泰正君が初めてだったんじゃないかな?禁忌領域守護家の人達は、黒巫女と同じで基本的に外には出たりしないんだけどね」


「あれ?北条との決闘騒ぎの時に万生教が色々動いていたよねと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、万魔央様は万魔様の王配ですので、黒巫女が動くのはむしろ当然です」


「ま、恒之君が今大会に出場してるのに魔央様は無関係ではないけどね。聞いた話だと中国探学に急遽編入したらしいよ」


「そうなんですか?いきなり割り込んで出場というのは、個人的にはちょっとどうかと思いますが」


「確かに良い気分はしないけど、そうせざるを得ない事情があったって事だね」


「事情ですか、もしかしてそれに万魔央様が関係しているという事ですか?」


「北条との決闘の際に魔央様が領域守護職について発言されてただろう?結果が結果だっただけに、禁忌領域守護職という存在に不信感を持った人というのは決して少なくはないはずだ。このまま任せて大丈夫なのか。永遠に状況は変わらないのではないかってね」


「禁忌領域守護の方達も決して手を抜いているわけではないでしょうが、事実としてこの二百年、解放される兆しすらないのが現状ですからね」


「そういうわけで、徐々に広がりつつある不信感を払拭する為に天獄杯を選んだって事だろう。直近で全国規模でアピールできる場として都合が良かったろうし、そもそも探恊の存在理念は来るべき禁忌領域の解放、そしてその脅威に備える為だ。禁忌領域守護職が不当に貶められるのは探恊にとっても看過できない問題なわけで、多少の横紙破りは許容せざるをえなかったってわけ」


「大人の事情で子どもたちの健全な大会にケチがつくのは残念ですね」


「組織である以上、色々なしがらみに囚われるのは仕方がない。それが探恊ほどの巨大組織、そして事が禁忌領域に関する事なら尚更ね。一応名誉のために言っておくと、恒之君が個人戦代表に選ばれてるのは忖度じゃないよ。本人の実力あっての事だとこの僕、万魔十傑衆第六席、六角茉莉が万魔様に誓って保障しよう」


「毛利恒之さんは探学の1年生ですよね?それで個人戦代表に実力で選ばれるなんて凄いですよね」


「個人戦選考会で優勝する事を条件に、代表になる事を認めさせたらしいよ。負けたら廃嫡なんて余計な事までおまけしてね」


「そんな条件出したんですか!?」


「若さゆえの傲慢なのか、自分の強さにそれだけの自信があったのか。その結果は今行進している彼の姿が答えだろう」


「つまり探学1年生でありながら、中国探学の個人戦選考会で優勝したという事ですか!」


「探学に入学するような子達がそれだけ上から目線で煽られたら、それこそ殺す気で戦ったんじゃないかな?その上で結果を出したんだから内心はともかく認めざるを得ないだろう。彼の強さに関しては」


「確かに強さに関して異論の余地はなさそうですね。性格はどうかと思いますが」


「あははは。彼は結構ヤンチャな所があるみたいだから。その辺の話は個人戦の実況で話題になったりするんじゃないかな。ここで話してしまうと個人戦での話題がなくなっちゃうからね。気になる人は天獄杯の後半にある個人戦を視聴してね」


「宣伝ありがとうございます!今年の天獄杯は天獄郷チャンネルで全日程生放送でお送りする予定です。十傑衆の方々以外にも、もしかしたらあっと驚くスペシャルゲストが登場するかも!?是非ともご期待ください」

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