第110話 関西探学

「さあ、残すところは後二校となりました。TVをご覧の皆さんも気が気じゃないんじゃないでしょうか?7校目は…関西探学の入場です!」


「各校の入場順に大人の事情が透けて見えるけど、別に強さ順というわけじゃないからね。今年限りの特別措置だと思って欲しい」


「そうですね。これはむしろ当然の配慮と言えるでしょう。さて関西探学の皆さんですが…一人だけやけに浮いて…目立っている人がいますね!あれは一体何なんでしょうか。天獄杯を仮装大会と間違えてるんでしょうか?」


「ふふふ、彼女こそ今年の天獄杯で僕が一番注目してる子、織田遥さんだよ」


「織田遥さん・・織田という事は、もしや?」


「そう、関西禁忌領域守護職織田家のご令嬢、織田遥さんだ」


「つまり、今年の天獄杯には禁忌領域守護家から2名が出場しているという事ですか!?」


「その通り。今年は色々と面白い事になりそうだと最初に言ったよね?なにも魔央様がおられるからというだけではなくて、毛利家と織田家の御令息と御令嬢が、満を持して天獄杯に御登場ってわけさ」 


「それは確かに驚きですね。天獄杯99年の歴史で初めてではないでしょうか。万魔央様初来郷という事で今年は特別な天獄杯になるのではと期待していた方も多いでしょうが、出場選手にもビッグネームの登場で名実共に特別な天獄杯になりそうです!ところで六角さん、手元の資料を見ますと織田遥さんは関西探学三年生のPT戦出場となっていますが…これは表記ミスでしょうか?名前が織田遥さんしか載っていませんけど」


「表記ミスじゃないよ。遥さんは間違いなく関西探学の三年生PT部門代表だ」


「これが表記ミスじゃないなら、PTメンバーはどうしたんでしょうか?PT戦は4人一組での団体戦の筈ですよね?」


「表記ミスじゃないなら答えは一つだね。織田遥さんは一人でPT戦の代表って事だよ」


「…冗談ですよね?だってPT戦ですよ?1vs4ですよ?しかも探学で切磋琢磨してきた生徒達で、最上級生ですよ?E級やD級探索者が相手ならまだしも、探学の最上級生でトップ層ともなるとB級探索者レベルですよね?」


「そうだよ。つまり彼女はそんなB級探索者レベルの4人PTを倒して3年PT戦代表を勝ち取ったという事になる」


「そこまで凄い人が前年の天獄杯に出場してないという事は、もしかして織田遥さんも毛利恒之さんと同じで急遽今年の天獄杯に参加したという事ですか?」


「そうなるね」


「1年だからまだマシだというつもりはありませんが、それでも探学最終学年の三年代表に割り込んだ上にPT戦にソロで代表に選ばれるというのは、流石に私もドン引きなんですが…関西探学の生徒さん達は納得してるんでしょうか?」


「それなんだけどね。織田のお転婆姫って言えば通じるくらいには地元で有名人なんだよ彼女。幼少の頃からやる事なす事ハチャメチャだったらしくてね。近所の男の子をしめて子分にして、やる事が探索者ごっこで織田家の武士に挑んだり、定期的に地域のゴミ拾いとかお年寄りを集めて演劇とかね。いわゆる愛されキャラってやつ?特に子どもとお年寄りに凄く人気があるんだよ」


「そうなんですか。確かにここから見てると分かりますけど、ちょっと憎めない感じはしますね。観客席に満面の笑顔で両手をブンブン振りながら歩いてる所を見るとこっちも楽しくなってきちゃいます。それに凄く盛り上がってる人たちがいますね」


「天獄郷まで応援しに来た地元の人たちじゃないかな?子分にした人たちも姉御って呼んで慕ってるらしいよ。一種のカリスマ性といって良いんだろうね。彼女のする事に最初は反発しても何時の間にか受け入れてしまう。そういう魅力が彼女にはあるんだろうね。実際彼女が代表になった時、不満が出るどころか大喝采だったらしいし」


「いるだけで周囲を惹きつける魅力の持ち主という事ですか。比べるのもおこがましいですが、そういった部分で万魔様に通じるものがあるのかもしれませんね」


「ちなみにだけど彼女の目標は万魔様越えらしいよ」


「は?それは聞き捨てなりませんね。寝言は寝て言って欲しいんですが」


「まあまあ落ち着いて。僕はそれを聞いてむしろ感心したんだよ。万魔様越えという事は、禁忌領域を解放するという事だ。あの歳で、それも禁忌領域守護家の人がそれを冗談でも言えるような事じゃないのは君も分かるでしょ?」


「それは確かにそうですが!…しかし…ぐぬぬぬ」


「彼女は子どもの頃から言ってたらしいからね。そして今なお公言している。そしてそれを嗜めはしても放置しているんだ。つまり彼女はそれが出来るだけの才能が有り、そして期待されているというだろう。なにより彼女は僕らにはないものを持っている。憤慨したり敵意を持つよりも彼女の事は応援してあげたいね」


「私たちにないものですか?」


「そう。万魔様を命を賭して守り、万魔様に穏やかに過ごしてもらい、見守るのが僕たち万生教徒だ。万魔様の近くにいるからこそ万魔様の強さに並び、ましてや越えようなどとは思わないし思えない。優劣の問題じゃないよ?立場の問題さ。僕らにとって万魔様は敬うべき御方であって、共に並ぶ御方ではない。僕らは万魔様にとって子どもみたいなものだけど、子どもじゃ友達にはなれない。庇護の対象にはなっても対等な関係にはなれないんだよ」


「…それはつまり、あの織田遥さんがそうなるという事ですか?」


「そうなる可能性はあるんじゃないかな?でもすでに万魔様の隣の席は埋まってるからね。万魔様はもう独りじゃない。共に歩める御方がいるのだから」


「万魔央様ですね!万魔様の王配、万魔様と共に並び立つ、我らの万王様!!」


「毛利恒之君と織田遥さん。彼らの結果如何で、当面の禁忌領域の評価が決まると言っても過言ではないんじゃないかな。半端な気持ちで出場したわけではないはずだからね。禁忌領域守護職として今まで日本を守ってきて、そしてこれからも担っていく矜持と実力を示すことが出来るのか、責任重大だね」

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