第107話 四国探学 

「続きましては四国探学です。ここで丁度折り返しの4校目になりますね。四国と言えばそう、うどんですね!私はうどんが大好きですのでいつか行ってみたいと思っています。本場で食べる讃岐うどんはどれだけ美味しいんでしょうか!ちなみに六角さんの好きな食べ物はありますか?」


「僕は好き嫌いないから美味しいものならなんでも歓迎だけど、強いて挙げるなら今の気分は豚汁かな」


「豚汁ですか?六角さんのイメージとはちょっと違う感じがして意外です」


「はは、よく言われるよ。自分では庶民感覚だと思ってるんだけどね。で、豚汁の理由だけど、食べ損ねたからだね」


「食べ損ねた?豚汁をですか?その豚汁はなにか希少な具材を使っていたとかでしょうか?」


「希少な具材を使っていたって話は聞いてないから、普通の豚汁だと思うよ。ただそれを作った人が特別なんだよ」  


「そうなんですね。誰が作ったんでしょうか。六角さんがそこまで言う人なんて誰なんでしょう。まさか万魔様とか?そんなわけないですよね」


「良く分かったね。そうだよ、万魔様お手製の豚汁を食べ損ねたんだよ!この僕としたことが一生の不覚だよ!!」


「…えええぇぇぇえええ!?本当ですか!?万魔様が豚汁をお作りになられたんですか!?」


「そうなんだよねぇ…一昨日なんだけどさ、魔央様が来郷された日に、誰の料理が一番美味しいと思ってもらえるか料理勝負になったらしくてね。それに万魔様も参加されたんだよ。それで料理勝負に参加した人に振る舞われたらしいんだよ。僕はその日居なかったから…沙織なんかイノシシ捕りに山まで行った上に、帰りが遅くて食べ損ねたらしくて地団太踏んでたよ。ほんと馬鹿だよね」


「それはなんともワイルドですね。しかし本当に万魔様の手作り料理だったとは。確かにそれは悔やんでも悔やみきれません!!」


「だろう?次の機会に期待かなぁ。一度ある事は二度あるというしね」


「羨ましい!私も是非ともご相伴に預かりたいものです!さて、四国も九州同様海に囲まれた土地ですが、九州とはかなり実情が違います。ある意味で私達天獄郷に最も近く、そして九州よりも過酷と言っても良い特殊な土地柄ですね」


「そうだね。四国の禁忌領域の名称は死国片路・百鬼夜行。これは8つある禁忌領域の中でもかなり特殊な禁忌領域なんだ。そのお陰で四国は天国であり地獄でもあるわけだけど」


「禁忌領域はその名称でどういった特徴があるのかある程度把握できる事が多いですけど、四国の禁忌領域は今一つ分かり辛く感じますね。死国片路、死の国への片道切符みたいな感じでしょうか」


「概ねそんな感じかな。四国にはね、ダンジョンが存在しないんだ」


「ダンジョンがないんですか?それは確かに天国みたいな場所ですね!あれ?でも禁忌領域がありますよね。それに探索者協会や探学も」


「正確には四国にはダンジョンは生まれないし、管理されてるダンジョンもない、だね。でも四国は一家に一人は探索者って言われるくらいに探索者が多い事でも有名なんだよね」


「あ、それ聞いた事あります。探索者だけで野球とサッカーとラグビーのリーグ作れるって」


「それ、ダンジョン探索しない探索者が多い事を揶揄する悪口だから、もし四国に行く事があるなら注意しなよ?」


「そうなんですか!?知らなかったとはいえ失礼しました。謝罪します」


「まあ、そんな事を言われるくらい探索者や元探索者の人が多いって事は事実だけどね。理由は言わずもがな。禁忌領域だね」


「まあそうですよね。それ以外でダンジョンがないのに探索者の人たちが集まる理由も考え辛いですし」


「四国の禁忌領域、死国片路・百鬼夜行はね。丁度お盆の一週間、天獄杯が終わってすぐだね。その時期四国に顕現するんだよ」


「そうなんですか。期間限定の禁忌領域なんて珍しいですね。ちなみに四国のどのあたりに顕現するんですか?」


「四国は四国だよ。四国全域が禁忌領域になるのさ」


「は!?四国全域が禁忌領域ですか!?なんですかその出鱈目さは。控えめに言って地獄では?私は禁忌領域で1日生き延びられる気なんてしませんよ!?」


「僕はその時期に四国に行ったことないから詳しい事は言えないけどね。探索者が多いのはその期間、協力して生き延びる為なんじゃないかな。せめてもの救いは、期間中に建物なんかを壊しても、住んでる人が無事なら元に戻る事かな。まあ毎年住む家や家財道具を用意なんて事になったら、誰も住む人なんていないからね。本当に死国になっちゃうよ」


「四国の人は大変なんですね…私なら禁忌領域になるその期間だけ他に旅行に行ったりしちゃうと思います」


「お金持ってる人はそうしてる人が多いみたいだね。ただ誰も居なきゃ建物が壊されたらそれまでだから、期間中探恊に依頼して探索者を雇ったりしてるみたいだけど。その辺も四国に探索者が多いって言われる由縁かな」


「た、大変ですね…天獄杯が終わってからそんな大変な事があるにも関わらず、四国探学の皆さんはわざわざ来てくれたわけですか。これは俄然応援してあげたくなっちゃいますね!」


「それなんだけどね…言った通り、四国はこれから地獄になるわけだけど、それが分かってるのに貴重な戦力を他に派遣すると思うかい?」


「それはしないと思います。少しでも戦える人が欲しいでしょうから」


「だよね、誰だってそう思う、僕だってそう思う。だから四国探学で来てる子達は、将来に期待して、経験を積む為に来た子達って感じかな。即戦力になる子は全員動員されてるからね」


「なるほど。ここで経験を積んで探索者として一皮剝けろって事ですね」


「四国はダンジョンがないからね。中国や関西探恊に協力して貰って遠征合宿みたいな事はしてるけど、普段四国探学で生徒を鍛えているのは元探索者の人たちだ。元といっても現役引退したってだけで一線級のね。つまり他の探学と違って四国の子達は対人経験が非常に豊富ってわけ。仮に四国探学のトップ層が天獄杯に出てきてたら一波乱あるのは間違いない。天獄杯の歴史も大きく変わってたんじゃないかな」

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