第101話 もんすたあ
「いやー、凄いね。さっきの覗きはともかくこの瞬間移動みたいなやつ。これがあれば出歩く必要ないじゃん。ちなみに俺も使えたりするの?」
「確かに便利じゃが、儂しか使えん上に天獄郷内限定じゃからお主にはあまり意味がないと思うぞ」
「そうなんだ。あれが家にあれば引き籠りライフが充実しそうだから欲しかったんだけどな」
「諦めるんじゃな。万生教の者達にも色々調べて貰ったが仕組みがさっぱり分からんらしい。おーぱーつというやつじゃな」
「ふーん。興味あるけど構うのは止めとこうかな。下手に弄って壊れたりしても困るし」
「触るくらいなら問題ないぞ。今まで動かせたやつもおらんしの」
「わたしが触ってもうんともすんともいわなかったよ」
「私も触らせてもらいましたけど、何の反応もなかったです」
「なるほどね。十傑衆の子でも反応しないって事は天獄郷の主である万魔専用ってことなのかな」
「どうなんじゃろうな。儂もあれについてはよく分かっておらんからのぉ」
小雪ちゃん的にはそこまで重要でもないっぽいか?他の奴らにも気軽に触らせてるって事は少なくとも壊れた場合、小雪ちゃんがどうこうなる可能性は低いのかもしれないな。小雪ちゃんもダンジョンマスターという自覚もないみたいだし俺の考えすぎか。とりあえずマスターコアぶっ壊したらどうなるか知りたいな。通常のダンジョンならダンジョンが消滅するだけだが、マスターコアもそうなのか。そもそも他の禁忌領域にもあるのか。やはりこれは他の禁忌領域で守護職の奴らに犠牲になってもらう必要があるな。とはいえ現状支障をきたしてるわけでもない何も聞かないのも変だから軽く突いてみたが、藪をつついて蛇を出す必要もない。やはりこの件は放っておこう。
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護衛の二人を先頭に、天獄杯の会場内をゾロゾロと歩く。幸いと言えば良いのか誰とも遭遇しないのは、運が良いのかそういった配慮がされているのか。おそらく後者だろう。ちなみにこれどこに向かってるんだろうな。VIPルーム的な所だとは思うんだが。観客席や選手控室に御案内とかは勘弁だぞ。
「そういえば聞いてなかったけどさ、万魔はここでなにするの?観戦?」
「昔、ここで天獄杯を開催する事になった時、儂がおった方が皆がやる気になるし注目も集まると泣きつかれた事があっての。探恊と無関係というわけでもないから協力しておるのじゃ。儂がおった所で大して変わらんと思うんじゃがの」
「そんな事ないです万魔様。万魔様がおられるだけで皆の気も引き締まります!そしてなにより、万魔様と直接会える数少ない機会ですから。皆楽しみにしてますよ!学校の皆も楽しみにしてましたし」
「万魔さまをお散歩以外で見かけるのって滅多にないもん。天獄杯には万魔さまが来られるからって楽しみにしてる人いっぱいいるよ?」
「ならよいがの」
天獄郷の人にとっては大会なんて二の次で小雪ちゃんへの拝謁会場みたいなもんなのか。世間との温度差が酷いな。
「お兄ちゃんはどうするの??お兄ちゃんも万魔さまと一緒に挨拶するんだよね?楽しみだな~♪みんなすっごく喜んでくれるよ!!」
俺はそんな事しないから。そんなキラキラした目で見つめられても困るんだが。そもそも初対面にも関わらず、お兄ちゃん呼びしてる上に好感度が無駄に高そうなのはなんでなんだ。君が俺を知った経緯を考えたら恐怖を抱いたり近づきたくないと思うんだが。君たちからしたら天獄殿を襲撃した挙句一方的に魔法で蹂躙した相手だろうに。
「ひまわりちゃんだっけ?ちょっと聞きたいんだけど、なんでそんな呼び方してるの?俺は君のお兄ちゃんじゃないんだけど」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんを初めて見たのは万魔さまと一緒に会見を開いた時だけど、その時にビビッて来たんだ♪この人がひまわりのお兄ちゃんになってくれる人だって!」
どこぞのロリコン仮面と似たような事を…まあアレは初恋拗らせまくってる上に女に見境のない自己中粘着陰キャ野郎だが。そういや真っ赤な彗星さんってロリコン扱いされるけど、どちらかというとマザコンだよね。バブみを感じてオギャる赤ちゃんプレイしてそう。そんな事してるからZでNTRれるんだよ。
「あの、確かにほぼ初対面でお兄ちゃん呼びは頭がおかしいと思いますけど、ひまわりを悪く思わないであげてください。ひまわりは一人っ子なんです。それで兄妹に憧れみたいなものを抱いてるみたいで」
「奈々ちゃんが自分のお兄さんの事自慢してるの聞いてね、わたしもお兄ちゃんが欲しいなってずっと思ってたの!でもなかなか見つからなくて諦めてたんだ」
「別に俺じゃなくてもその辺に幾らでも男はいるでしょ。それこそ奈々ちゃんのお兄さんでも良いんじゃないの?友だちに自慢できる位には凄い人っぽいし」
「奈々ちゃんはお兄さんに女の人が近づくとすっごく不機嫌になるんだよね。小さい子にも容赦しないんだよ。それにわたしの理想のお兄ちゃんとはちょっと違うし」
「は!?ひまわり、私のお兄ちゃんに文句あるわけ?どれだけお兄ちゃんが凄くて恰好良いのかあれだけ教えたのにまだ分かってないの?」
「奈々ちゃんのお兄さんが格好良くて凄いのは耳にタコが出来るくらい聞いたけど、でもわたしのお兄ちゃんにはなってくれないでしょ?」
「当たり前でしょ。お兄ちゃんの妹は私だけなんだから!!ひまわりでもお兄ちゃんに近づくなら容赦しないからね!」
なるほど。ブラコンが洗脳教育よろしく兄の素晴らしさを語り続けた結果、それを羨ましがった一人っ子がイマジナリーお兄ちゃんを形成するに至ったという事か。ひまわりちゃんくらい可愛ければ頼めば誰でもお兄ちゃんになってくれそうなもんだがな。しかも万魔十傑衆なんだろ?逆玉じゃん。いや、だからこそか。ブラコンを拗らせるような奴のお兄ちゃん像はそれこそスパダリみたいな存在だろう。それを聞き続け理想のお兄ちゃん像が膨れ上がった結果、そんじょそこらの男では満足できなくなり、そこに万魔の後継者として登場した俺がその理想像に当て嵌まってしまったと。
…俺のどこにそんな要素が?この子男を見る目がないな。俺はスパダリとは真逆の引き籠りなんだが。まだ子供だから仕方ないかもしれないけどな。恋に恋するお年頃ってやつか。子どものやることに目くじら立てるのも大人げないし、構わずに放っておけば勝手に幻滅して新しいお兄ちゃん探しに行くだろ。
「先に断っとくけど、俺は君のお兄ちゃんにはなれないからね」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだからお兄ちゃんなんだよ。だからお兄ちゃんはお兄ちゃんなの!」
お兄ちゃんがゲシュタルト崩壊する勢いで会話が通じない。とんでもないモンスターをよこしやがって…紗夜ちゃんに配慮したと見せかけた俺への嫌がらせなのだろうか。ただでさえあーちゃん達の暴走で面倒くさいのに、更に厄介な要素が追加されるとは…こんな所に一カ月滞在するってマジ?これから先が思いやられるぜ。
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